トラヴィスのフラン・ヒーリィが語る、「本物」を追求するソングライターとしての矜持

 
僕はソングライターになるべくしてなった人間

―確かに本作には、長いキャリアの中であなたが書いた、最も素晴らしい、最も美しい曲の数々が含まれていると感じます。

フラン:まあ、悪くない出来だよね(笑)。

―そのひとつの「Butterflies」であなたはソングライターとしての心境を論じていて、“蝶を捕らえること”を曲作りのメタファーに用いています。美しい蝶がどこに行けば見つかるのか、だいたい見当はついているものなんでしょうか?

フラン:そうだな、その質問に答える前に触れておきたいのは、ソングライターって本当に特別な種類の人間だということ。一種の使命を負っているというか、世の中には生まれつき医者になるべき人、弁護士になるべき人がいて、中には支配者やリーダーになるために生まれた人もいる。例えば英国の首相のボリス・ジョンソンとかね。初めて彼の顔を見た時、“うわ、こういう男は嫌いだ”って思ったものだけど、そういうポジションに就くべくして就いた人だ。

とにかく、同じように、僕はソングライターになるべくしてなった人間で、歴史を振り返ってみると、ソングライターのルーツは数百年、数千年前まで辿ることができる。カルチャーにおいて非常に重要な役割を果たしてきたんだよ。かつてはシャーマンと呼ばれたり、魔術師と呼ばれたり、名前は違ったけどね。つまり、ほかの人には分からないことが見えたり聴こえたりして、それを王様に伝えるのさ。“こんなことが起きようとしています”とか。これはすごく興味深いことで、例えば『10 Songs』からの先行シングルは「A Ghost」と題されているよね。あの曲をリリースする1カ月ほど前に、ローリング・ストーンズが「Living on a Ghost Town」というシングルを発表し、ブルース・スプリングスティーンが数週間後に、今度は「Ghosts」というシングルを発表した。示し合わせたわけじゃないのに、このところ“ゴースト”があちこちで語られているんだよ。どういうわけか、ソングライターたちはどこかから“ゴースト”というメッセージを同時に受け取っていたんだ。聴き手の受け止め方次第で、色んな解釈ができるんだろうけど。




―なるほどね。

フラン:そんなわけで、蝶はどこに行けば見つかるのかっていう話に戻るけど、それは僕自身の中にある特別な場所なんだ。そこでじっと静かにしていて、トランスに近いような状態に自分を置いて、こう、メロディを繰り返し頭の中で鳴らしながら、自分自身の周りをぐるぐると回るようにして……。そうしているうちに、何かが動いた気がする。何かが起きた気がする。そして、すーっと言葉が生まれ出てくるんだよ。それは“真実”とも呼べるのかもしれない。僕らは、普遍的真理を探し求めているんだ。僕自身にもうまく説明できない、こんなプロセスを踏んでいるから、10曲書くのに4年もかかっちゃうんだよ(笑)。すごくオールドファッションなやり方で曲を作っていることは間違いないね。で、究極的に僕らは曲を売っているわけなんだけど、だからといって、売るために作っているわけじゃない。昔からソングライターたちは曲を作っていて、ある日そこに誰かがやって来て、“これ、売れるじゃん”と言って、その周りにビジネスが形成されたというだけ。僕らはただ、昔からやっていることを続けているだけなんだ。

―曲の意味はあとになって見えてくる、ということですね。

フラン:う~ん、「なんでこんなことを書いたんだろう?」って思うこともよくあるよ。そもそも。自分が書いた曲が果たして自分のものなのか否かっていうところも、定かじゃない。蝶との比較で言えば、僕は蝶を捕まえて、つぶさに観察してから逃がして、記憶からその蝶を描いて、出来た絵をみんなに見せる――という感じなんだ。で、中には「僕も同じような蝶を見たよ」と言ってくれる人がいる。つまり、その曲に共感してもらえたってことだ。

例えば、「Nina’s Song」には“最高の父親たちは、なぜみんなどこかに消えちゃったんだろう”というフレーズがあってね。これも意図せずして生まれたんだけど、僕はシングルマザーに育てられた一人っ子で、6歳か7歳の頃に「パパが売ってるお店に連れてって」とせがんだことがある。僕はとにかく父親を必要としていて、どこかに行けば手に入るものだと思い込んでいたんだろう。だからこそ僕は、14年間バンドではなく息子を選んだんだよ。自分にはいなかった父親になってあげたかったのさ。スコットランドは女家長制の国で、女性たちが仕切っているから、男尊女卑的な思想は僕には一切ないんだけど、やっぱり子供には父親が必要だ。なのに彼らはどこにも見当たらない。“いい男たちはどこに行っちゃったの?”と女性たちに訊ねたら、きっとみんな溜息を吐くだけだろうし(笑)、これもまた普遍的真理なんだよ。

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE