苦境を乗り越え転生するBlack Musicシーンが切り拓く、世界の音楽ビジネスの未来と道筋

ーAftermath Entertainmentはその後のシーンにも大きな影響を与えるアーティストをたくさん輩出していますが、数々のスターを発掘して売り出してきた中で印象に残っているエピソードはありますか?

Mike:ラッパーのThe Gameと契約した時、カニエ・ウェストにトラックを全部作ってもらったのですが、カニエ・ウェストに楽曲制作を依頼した時に、まだミックスマスター前だった彼のアルバム『Graduation』の曲を全部ラップするから生で聴いてくれたら仕事を受けると言われて。実はカニエ・ウェストはその時、交通事故後で歯がぐちゃぐちゃだったんです。それでも彼はワイヤーだらけの口で全部ラップしたんですよね。それでトラックを提供してもらった結果、The Gameが売れて。それが一番印象に残っているエピソードですね。

ーすごい……。カニエ・ウェストの強さというか、人間性が伺い知れますね。東西のギャング抗争についてもお伺いしたいです。2パック、ノトーリアス・B.I.G.が射殺されるという悲しい事件が起きたあの時代、シーンにいたMikeさんは当時のことについてどのように思いますか?

Mike:とても悲しい出来事でした。東西抗争と言われていますが、実はDeath Row RecordsとBad Boy Recordsの対立で、シュグ・ナイト対パフ・ダディなんです。パフ・ダディがドクター・ドレーのSaturday night showをわざわざ見に来るくらい仲が良かったので、とても悲しかったです。



ーギャングスタラップの登場によって「HIPHOP=不良」というイメージが広がりましたが、本来はもっと深いものが根幹にあると思います。

Mike:HIPHOPは抑圧から生まれたもので、人々に伝えたい叫び声を音楽にしたものです。HIPHOP誕生当初、R&Bが流行っていましたが、R&Bじゃ表現しきれない抑圧、苦労を表現できるのがHIPHOPだと思いますね。

ー私はラッパー・ラキムの『Don’t Sweat the Technique』がすごく好きなのですが、あの曲はウッド・ベースを強調したジャズに強いメッセージが乗っていることで、強く心に響くものがあると感じます。今はHIP HOPがビックビジネスになっているから、ユニークさが求められている気もしますが、ラキムの言っていた「テクニックに汗かくな」というメッセージに対してどのように思われますか?

Mike:実は私はラキムを1年だけAftermath Entertainmentに契約させたんですよ。結局楽曲は出さずに契約解消してしまったのですが…。Rakimの時代は、インターネットやMTVがまだありませんでした。ですから「角の店でどう売れるかを考えな」といった思想があったのですが、今は「ネット上でどう売るか」って言う事は意識せざるを得ないんです。もちろんメッセージに集中したいところですけど、仕方ないですよね。インターネットのおかげというかインターネットのせいというか…。

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