ポストジャンルの停滞を超える喜ばしき変化の予兆? 2021年1stクォーターを象徴する6曲

LCDサウンドシステムの意志を今に継ぐ1曲

3. St. Vincent / Pay Your Way In Pain



デヴィッド・ボウイ1971年の傑作『ハンキー・ドーリー』のシグネチャーサウンドと言えば、イエスのリック・ウェイクマンがアルバム全編で演奏していたジャンル横断的なピアノ。曲冒頭から思わず彼のプレイを連想せずにはいられないホンキートンク風ピアノから始まったと思えば、いきなりbpm63(!)という抑えたテンポの粘っこいグルーヴにシフト・チェンジ。「Fame」と「Shame」で韻を踏んだ、おそらく誰もがボウイ1975年の「Fame」を連想するだろうコーラスを持った密室的なファンク。プラスティックソウル時代のボウイサウンドの理想的なパスティーシュ=LCDサウンドシステムの意志を今に継ぐ1曲とも言えるかもしれない。スティーヴィ・ワンダーとスライ&ザ・ファミリー・ストーンが音楽的な二大リファレンスだと予告された新作『ダディーズ・ホーム』からの初リード曲としては、露払いとしての役割を十二分に果たしている。サウンドと呼応した70年代風のグラマラスなアートワークも前作からの更なる飛躍を否が応でも期待させる。


4. Silk Sonic / Leave The Door Open



生ドラムのフィルに続いて鍵盤と弦楽が何の臆面もなくメジャー7thを自信たっぷりに鳴らす。ミュートしたギター弦をピックでなぞる音にはアナログエコーがたっぷり。ユニット名そのものの、艶かしい絹のようなすべすべした手触りのリッチサウンド――今ここは本当に2021年なのか? 思わずそんな疑念さえ頭を過ぎる、信じられないほどオーセンティックな仕上がり。だが、良くも悪くもデビュー当初からずっと伝統的なサウンドのパスティーシュ(紛い物)であり続けたブルーノ・マーズが、2016年の終わりには2010年代サウンドの集大成とも言える「That’s What I Like」という特大の奇跡を産み落としたことを忘れてはならない。アルバムにはきっと彼らにしか生み出せない新たなサウンドを持った曲が収録されるはず。俺は全肯定派。と、ここまで書いてきたところで、彼らシルク・ソニックが実質的な昨年の覇王=ザ・ウィークエンドを締め出した本年度のグラミーで急遽パフォーマンスすることに決まったことをようやく知る。伝統が権威と接続されるメカニズムって難儀ですよね?

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