2021年に絶対に見過ごしたくない「4枚の重要アルバム」 2021年4月~6月期リリース編

3. St. Vincent / Daddy’s Home



音楽面のみならず、社会意識の面でも2010年代から前進し、新しい時代を定義すること。セイント・ヴィンセントの『Daddy’s Home』は、そこに極めて意識的に挑戦しているアルバムだ。

「パパがうちに帰ってきた」というタイトルは、実際に長年刑務所に入っていたヴィンセントの父親が刑期を終えて帰ってきたことからつけられている。本作の音楽的な影響源になったという70年代前半のロックやファンクも、幼い頃に父親がヴィンセントに聴かせていた音楽。その意味では、これは私小説的な要素が色濃いアルバムと言える。

だが同時に、ここには彼女の社会的主張も込められていると考えていいだろう。本作のタイトルをより抽象化して捉え直すと、「罪を犯した男性を如何に許せるか?」ということ。2010年代はトキシックマスキュリニティの問題が議論され、差別の是正が推進された。一方で、男性を含む差別の加害者にどこまで責任を負わせるのかという点でキャンセルカルチャーの問題も発生した。ヴィンセントは本作で、そうした2010年代に浮上した一連の議論を一歩先へと進めたいという意図もあったのではないだろうか。


4. black midi / Cavalcade



2010年代のポップを定義づけたスターの一人、ザ・ウィークエンドは元々アンダーグラウンドのミックステープカルチャーから登場した。それを思い返せば、2020年代に入った今再び、アール・スウェットシャツ『Some Rap Songs』以降のアンダーグラウンドヒップホップをはじめ、地下の胎動に人々の関心が向き始めているのはおかしなことではない。誰もが新たな時代の音がアンダーグラウンドの奥深くから聴こえてくることに期待しているのだ。

2010年代半ばから独自の濃密なアンダーグラウンドシーンを形成してきたサウスロンドンのインディバンドたちも、今年に入ってから次々とアルバムが全英トップ10入り。明らかに世間の注目度が変わってきている。ブラック・ミディの二作目『Cavalcade』は、そんなサウスロンドンへの期待に応えるかのように飛躍的な進化を遂げた。

ポストロック/ポストハードコアを下敷きにしつつ、予測不可能な目まぐるしい展開でジャズ、ノイズ、ポストパンク、クラシックなどがカオティックに混交される様は極めてスリリング。前作より遥かに緻密かつ構築的になったサウンドで緊張感を持続させながら、ときに爆発的なエナジーを放出して聴き手に強いカタルシスをもたらす。言わば、ここにあるのは「周到にコントロールされた混沌」だ。そして今、人々はその混沌の先に何かが生まれる瞬間を見逃さないように、彼らやサウスロンドン一派の動きにじっと目を凝らしている。

Edited by The Sign Magazine

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