アリシア・キーズ×ケラーニ対談 フェイクな世界でリアルを追求する二人の哲学

フェイクな世界を生き抜くために

アリシア:あなたはクリエイティブな存在ね。でも音楽やエンターテインメントは正直に言って、フェイクの世界よ。だから、あなたのようなリアルな人間が、リアルとは程遠いイリュージョンの上に成り立つ世界を、どのように生き抜いているのか知りたいわ。

ケラーニ:必ずしも上手くやれているとは思わない。でも他人からは「自分のことを完璧に理解している」人間のように見えるらしい。私はただ、時と場所に応じて正直に向き合ってきたつもり。「あら、私は今何をしようとしているのかしら。トリップしているみたい。正に今、経験を積んでいる」という感じだと思う。

だから、音楽業界を生き抜くのとは全く違うと思う。私の周りにはいつでも「君の音楽はいいね、クールだ。君のやっていることは好きだ。でも君のことは一人の人間として見ているよ」と言って、サポートしてくれる仲間がほんの少しだけれども存在した。あなたもその一人ね。ラッキーだったわ。

アリシア:自分の同類を見つけることがポイントね。


アリシア・キーズとケラーニ。2021年8月31日、ロサンゼルスにて。
Photographed by Kanya Iwana for Rolling Stone. Produced by Rachael Lieberman. Fashion direction by Alex Badia. Set design by Dureen Troung. Keys: Styled by Jason Bolden. Tailored by Erin Castle. Hair styled by Kendall Dorsey for Factory Downtown. Makeup by Tasha Reiko Brown for the Wall Group. Manicure by Temeka Jackson for CMNsoon Entertainment. Jacket and shoes by Michael Kors Collection. Pants by Isabel Marant. Earrings by Cartier. Ring is Alicia’s own. Kehlani: Styled by Oliver Vaughn. Hair styled by Cesar Ramirez for Cesar Ramirez Styling. Makeup by Pircilla Pae for Hendrix Artists. Manicure by Brittany Boyce for Nails of LA. Outfit by Robert Wun.

ケラーニ:あなたに聞きたいことがあるの。あなたがデビューした頃と比べて、今の状況はどう思う? 以前と今とは、業界での生き方は違う? 私には想像もつかないから聞いてみたい。当時はTwitterもなければ、その他のSNSもなかったでしょう。

アリシア:当時はもちろん、ソーシャルメディアのツールもプラットフォームもなかった。デビュー当時は「うわー、全部をさらけ出さなければいけないの?」と驚いたわ。私は性格的に、超プライベートな人間だったから。全部さらけ出すのがニューヨーク流なのかもしれないけれど、とにかく私は秘密にしておきたい人なのよ。

ケラーニ:今とは全く違う。

アリシア:あら、言うわね。

ケラーニ:いえ、そういう意味ではなくて、私は羨ましいなと思う。今が少し冷たすぎる。「知りたいことは何でも教えてあげるわ」という時代だし(笑)。

アリシア:その通りね。「いいえ、あなたは私のことを知っているつもりでも、実は何も知らない」と言いたい(笑)。でも正直に言って、本質は変わっていないのだと思う。いつの時代にも、自分を利用しようとする人間が存在する。多くの人にとって、あなたは商売のネタにすぎない。アーティストとして、自分が作り出したかけがえのない魅力は、売り買いのできないものよ。それはつながりであったり、発信の頻度だったりする。

それらを自然な形で商売のネタにしようとするのは難しいけれども、商売のやり方は昔から変わらない。情報を共有する方法は変わったけれど、そこが昔と今の違いね。私は気に入っている。以前は、自分の生活や将来の鍵を預ける門番的な人間がたくさん必要だった。今では、自分自身がその鍵を管理できる。自分でつながりを作り、個人の考えを持ち、自らが発信できる。本当に素晴らしい自由な時代だと思う。

ところで、どんなところからインスピレーションを得ているの? あなたには、とても素晴らしいスピリチュアルな部分があると思う。積極的に追求し、実践しているように見えるけれど、超多忙な中で母親としての役割もこなしながら、どうやって身に付けて、どのように実践しているのかしら? どんな訓練をしているの?

ケラーニ:スピリチュアルの鍛錬に時間をかけて、かなり真剣に取り組んでいるわ。

アリシア:素晴らしい。




ケラーニ:私は成長する過程で、普通とは違ったスピリチュアル・ジャーニーを辿ってきた。クリスチャンとして育てられた私は、おばあちゃんに連れられて教会へ通っていた。けれどもおばあちゃんが亡くなると、「仏教は素晴らしい」と思うようになって、仏教にも足を踏み入れた。

自分でも勉強して仲間もでき、仏教寺院へ連れて行ってもらい、宗教儀式にも参加した。でも私は、血筋や祖先を一番大切にしている。そして、目の前の人々の役に立ちたいと思っている。それこそが、先人のやり方を伝えていくために私たちができる現実的なやり方だと思うから。相手が私に何を求め、何をして欲しいのかを理解するために、自分が相手の立場になって相手を思いやらなければいけないと思う。

アリシア:素晴らしい考え方ね。

ケラーニ:私たちはひとりひとりに、神秘的なスピリチュアルの能力があると思う。誰にも亡くなった家族や祖先がいるし、今大事にすべき人もいる。だから私たちは皆、自分を取り巻くスピリットとのつながりを維持する能力がある。とても単純なことよ。でも私はずっと、スピリチュアリティに支えられてきた。自分が思うよりもっと多くの存在を感じさせてくれるから。

私自身、何度も救われた。自制心を保ち、最大限のエネルギーを集中することができる。そして与えた分だけ自分にも返ってくる。

Translated by Smokva Tokyo

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