リトル・シムズ、年間ベストを席巻した「2021年の最高傑作」を2つの視点から考察

 
2. 映像が補強する重厚な魅力と、わずかに振りまかれたルーズさ――それら亀裂について
つやちゃん

重厚な歴史を収蔵するロンドン自然史博物館の、ロマネスク建築の内観を捉える大仰なショット。インサートされる宗教画、ただならぬ出来事を映す記録映像、白い煙を吹くオートバイ。アルバム『Sometimes I Might Be Introvert』のオープニングを飾る「Introvert」のMVは、楽曲を支えるダイナミックなオーケストラをそのまま映像化したような、壮大なスケールで始まる。

ここに来てようやくセールス・評価ともに追いついてきた感があるリトル・シムズだが、UKを中心とした古今様々な音楽折衷に取り組みながらダブの処理を効果的に施してみせるという見事な手腕は、前作『Grey Area』でも我が道を貫く形で表現されていた。プロデューサーであるインフローとの仕事も今に始まったことではない。しかし、最新作ではこれまでの豊かなビートとスキルフルなラップはそのままに、没入感を狙ったオーケストラまでをも取り入れることで、結果的に映画音楽にすら接近するかのようなエピックな世界観を獲得している。



リリックやファッション、言動といったあらゆるたたずまいを含めカルチャ―アイコンとしてのポジションを築きつつあるシムズだが、実は映像面のパワーも見逃せない。壮大なスケールにたどり着いた映画的な音楽は、ほかでもないMVから発せられるその映画性によっても支えられているからである。「Introvert」を撮ったサロモン・ライトヘルムはドラマティックかつ静謐な作風で多くの優れたビデオを生み出している監督だが、今作でも冒頭で記した堂々なるショットを重ねることで映像に「格式」や「緻密さ」といった魅力を付与している。

博物館だけではない。他にも、体育館やグラウンドといった場所が、シンメトリーな印象を伝える場所として捉えられる。律儀に建物のコーナーまでカメラを寄せ、左右対称の形を作ったところでカットを割る開始4:30〜の構図は、一瞬の出来事だが見逃してはならない本MVのハイライトであろう。ただ、それらシンメトリーへのこだわりはとあるアメリカの人気映画作家のような寓話性の強調には向かわず、この監督特有の寒々しい色使いによってあくまでリアリティを伴ったうえで格式を醸成する。「私は時々内向的になる」というメッセージが掲げられた本作は、映像においても決してファンタジーに消化されることを許さないのだ。同時に、複数の登場人物により度々組まれるフォーメーション、彼ら彼女らが止まる/動くという一連のきびきびとした身体の軌道が、観る者に緻密な構成美による感動を喚起させる点にも注目したい。それら格調高さと緻密さの映画的アプローチは、本作の壮大で厳かなサウンドや、シムズの一糸乱れぬ安定したラップといった音楽面での効果とシナジーを与え合い、その美点をより際立たせている。

 
 
 
 

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