米でCD売上が17年ぶりに増加、CDの長所を考えてみた

あなただけの特別な70分

BOXセットは言わずもがな――長い歴史を持つアーティストやジャンルを掘り下げるには最高の発明品だ。レイ・チャールズの『The Birth of Soul』、1998年のザ・ナゲッツのBOXセット、そして『The Anthology of American Folk Music』。1994年にRhinoからドゥーワップのBOXセットがリリースされたおかげで、親世代はようやくボタンひとつで気軽に大学時代のお気に入りソングを聴き、リビングで踊れるようになった。

それでも人々はアナログ盤の方がイケてると熱っぽく語ったが、実は裏ではCDを聴いていた。1994年、パール・ジャムは「Spin the Black Circle(黒い円盤を回せ)」と歌っているが、彼らを世界最大級のバンドにしたのは銀色の円盤だった。ビースティ・ボーイズは名盤『イル・コミュニケーション』の冒頭2分で、「俺はいまだにレコードを聴いてる、CDなんか使わねえ!」と息巻いているが、本人たちも知っている通り、実際は誰もこのアルバムをレコードで聴いたりはしないだろう。



ファイル共有サービスNapsterを考案した2人の男、ショーン・パーカーとショーン・ファニングは大のCD愛好家で、エレクトロ・トランスやトリップホップを中心に頻繁にCDを買い込んでいた。筆者も2000年初期にローリングストーン誌の特集記事で2人を取材したが、独身だった彼らの住まいはCDが天井までうずたかく積まれていた。そう、2人はMP3など聴いていなかった――彼らはNapsterを、購入すべきアルバム探しの手段だと考えていた。彼らが予想できなかった――誰も予想できなかった――のは、世間がMP3にのめり込んだこと。ZShare、Megaupload、Gnutella――あの時のアーティスト、あの時のライブは現在どこにいってしまっただろう?

たしかに、CDにはごまんと不満の種があった。無駄の多いプラスチックケースなど、パッケージは面倒だった。なかなか取れないテープを上からはがすのは最悪だった。始めのころは、万引きしにくくするためだけの目的で12×6インチのボール紙のスリーブ、いわゆる「ロングボックス」で包装されていた。人々が不平をこぼすのも当然だ。EMIのサル・リカタ社長も、笑い種となった1989年のビルボード誌に「なぜCDのロングボックスを使い続けるのか」という論説記事を書いた。あまりのばかばかしさゆえに、スパイナル・タップは1992年のアルバムを18インチの「超ロングボックス」入りでリリースし、「どのCDパッケージよりも、貴重なリサイクル資源をふんだんに使用した環境に配慮した商品です!」と謳った。だが時代の流れは変わり――今ではインターネットでLPを買うと、ロングボックス6枚分のパッケージで送られてくる。

紙の書籍と同じように、物理的なディスクは物語の奥底へと誘ってくれる。たしかに、CDにはアナログ盤ほど色気はない。アナログマニアがしばしば「お皿」とか「白盤」とか「ドーナツ盤」と呼ぶような、カッコいい別名もない。棚に飾るのであれば、12インチのLPのスリーブのほうがスタイリッシュだ。実際CDが優れている点は唯ひとつ、音質だ。その点では実にいい仕事をしている。だからこそ今も健在なのだ。CD以外では埋められない特別な70分が胸に刻まれている、という人も中にはいるのだ。

【関連記事】追悼・米タワーレコード創業者、CD全盛期に愛された自由な経営スタイル
【関連記事】「音楽を所有する」時代の終焉:CDとダウンロードはいかに消滅したのか

from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE