トム・ヨーク率いるザ・スマイル、UK最先端とも共振する「破格のライブ」を総括 

全レディオヘッド・ファン必見の名演

今回の配信ライブは、冒頭でもふれたように、このバンドの以上のような持ち味が非常に良い形で示された素晴らしいものだった。トリオという層の薄めな編成だからこそ各人の出音の良さやクセが雑味抜きで噛み合い、特殊なフレーズ構成が過干渉することなくわかりやすく映える。複雑さとシンプルさの両立具合が実に見事で、それらを捉える音響も撮影も極めて高品質。何度でも繰り返し楽しめる優れた作品になっていると思う。


Photo by Wunmi Onibudo

演奏された楽曲のリズム構成は以下の通りである。

1. 7拍子
2. 8×4拍と6+7+7+8+6+7+7(=48)拍が交互に登場
3. 4拍×5小節ループ
4. 6拍子
5. 4拍子
6. 4拍子
7. 4拍子
8. 11拍子
9. 4拍子
10.11拍子と10拍子が交互に登場(原曲は4拍子)
11.4拍子
12.4拍子
13.5拍×3小節ループ(一部で5×3+5)
14.4拍子
15.原曲と同じ(基本的には4拍子だが8+8+6など変則的なキメが多い)

※ヨークとグリーンウッドは頻繁にベースとギターを交換、ともに鍵盤(シンセまたは生ピアノ)も演奏
※スキナーは5・6・8(前半)・11曲目ではドラムスでなくモジュラーシンセを担当

こうしてみると4拍子も意外と多いが、アクセント移動の巧みさは奇数拍子の曲よりもむしろ上なのが面白い。2ndシングルとしてスタジオ音源が公開されたばかりの「The Smoke」も、4拍子のシンプルなドラムスの上で他パートが変則的な引っ掛かりを生む構成になっているし、複雑なようでいてあまり難しいことを考えずに楽しめてしまうのもレディオヘッド同様である。

その上で、興味深いのが各楽曲の構成だろう。ザ・スマイルとしては今回初めて披露された6曲(静的なものが多い)がいずれも起承転結の整った形に仕上がっている一方、グラストンベリー初出の8曲(動的なものが多い)はアイデアの断片を投げ出したような構成ばかりで、輪郭を綺麗にまとめようという意思があまり感じられない。それでいて(グラストンベリーではそうした歪さが確かに気になったのだが)、今回のライブではそうした歪さ込みで非常にスムーズな流れができているのである。




Photo by Wunmi Onibudo

自分が観た3rdセットでは、現地時間11時開演ということもあって「朝ごはんは食べたかい?」というMCから始まり、寝ぼけ眼をこすりながら少しずつギアを上げていくような展開ということもあってか、散見されるミスも悪目立ちせず、こうしたテンションでなければ生まれない素晴らしい表現力がどんどん増していく。特に、「Free in the Knowledge」のメロウなアンビエンスに十二分に浸ったところで「A Hairdryer」のMotorikビートがフェードインしてくる瞬間の絶妙さと言ったら! 現地で思わず歓声が上がるのも当然の格好良さで、全レディオヘッド・ファン必見の名演なのではないかと思う。

その後も、続く「Waving a White Flag」における11拍子のボレロ的ミニマル感覚や、フォンテインズD.C.とアイアン・メイデンを混ぜたような腰だめ疾走感がたまらない「We Don’t Know What Tomorrow Brings」、『Kid A』期にも通じる冷たいエレクトロニクスが映える「The Same」(ヨークのボーカルはここが最も尖っていた)、グリーンウッドのギターがトニー・アイオミ(ブラック・サバス)とデレク・ベイリーを同時に想起させる「The Opposite」など見せ場が満載で、それらを爽快にまとめる本編最後「You Will Never Work in Television Again」、『Discipline』期のキング・クリムゾンとスライ&ザ・ファミリー・ストーンをオーペス経由で融合するようなアンコール「Just Eyes and Mouth」など、全ての流れが好ましい。3公演全てセットリストを変えなかったのも納得の、このまま映像作品としてもリリース可能なくらいよくできたライブだった。

エンドロールで流れた「The Same」スタジオ音源もモジュラーシンセの鳴りが蠱惑的な素晴らしい仕上がりだったし、来るべきアルバムも非常に良いものになっているのは間違いないだろう。未分化状態だからこそのラフさをあえて残し、それだからこそ得られる極上の妙味を損なわず提示できてしまえている。これからさらに凄いことになっていくだろうし、末永く活動し続けて生で体験する機会を与えてほしい。まずはそう願うばかりである。

【関連記事】トム・ヨークが盟友と振り返る、レディオヘッド『Kid A』『Amnesiac』で実践した創作論




The Smile: Live Broadcasts

BROADCAST #1:1月30日(日)午前5時スタート
BROADCAST #2:1月30日(日)午前10時スタート
BROADCAST #3:1月30日(日)午後20時スタート
※上記は日本時間
※チケット購入者はライブ配信終了後48時間視聴可能

配信チケット販売リンク:https://dreamstage.live/show/the-smile-series

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