ドージャ・キャットが語る、「ポップ界の問題児」としての本音と葛藤

 
ポップスターという夢の代償

個人的な感情を反映させないという点で、彼女のソングライティングのアプローチはソーシャルメディアに対する姿勢と類似している。「私はサウンドを徹底的に重視するから、歌詞がおざなりになることも多い」と彼女は話す。「自分の内面とかはあまり見せないようにしてる。私が重視するのは、あくまで音の鳴りと私の声の響きだから」。自身のプライベートな面を楽曲に反映させることについて、彼女はこう話す。「自分が体験したことを、何でもかんでも曲にしようとは思わない。だって、世間は私のことを知ってるつもりで言いたい放題だから。自分の人生が、いつの間にかブロードウェイで舞台化されてるような感じ」

その一方で彼女は、失恋の傷を癒す目的でAsratと共にハワイに滞在していた2019年2月に、『Planet Her』の曲の半分を書いたことを認めている(失恋の相手がミュージシャンで元カレのJawnyであるかどうかは明らかにしていない)。残り半分は隔離生活の中で書いたものであり、爆発的な成功がもたらした変化が楽曲にも現れている。「ドージャの人生の一時期を切り取ってタイムカプセルにする、それが僕らの曲作りのアプローチだ」とYetiは語る。



『Planet Her』の大半で、ドージャの人生は完璧なものとして描かれている。「『Imagine』では、今や現実となった彼女が夢見た暮らしが描かれてる」とYetiは話す。「『想像するの/スタジオを併設した豪華マンション/車から降りる私は全身ハイファッション』」。そういったムードは、ヤング・サグとのコラボレーションから生まれたアッパーな「Pay Day」にも見られる。「欲しかったものを全部手に入れたなんて、いまだに信じられない」とファルセットで歌う彼女の声に、偽りめいたものは感じられない。

特筆すべき「Alone」は、『Planet Her』における彼女の個人的なお気に入りの1つだという。このノスタルジックなR&Bトラックは、だらしなく恩知らずな元恋人についての曲だが、2番目のヴァースでは成功がもたらしたプレッシャーと不安についてほのめかしている。「私の夢をあんたなんかと共有したくない/私が必要としない男なんかと」と彼女はラップする。「私のチームを失望させたように感じ始めた/あんたのためにショーをキャンセルしたり、あんたには私の気持ちなんかわかんないでしょうね」。また元恋人が彼女の成功に嫉妬し、その腹いせに理不尽な行動に出るようになったことを仄めかしている部分もある。「金欠のあんたのために先週何千ドルも使った/図々しいくせに孤独なふりをしてる/私が思うに、あんたが恐れてるのは私じゃなくてあんた自身」

「Alone」は夢の実現の代償として経験することになる、高級飲料水を広告スポンサーにつけられるかが周囲の人々の暮らしを左右するというプレッシャーの巨大さをうかがわせている。また筆者はこの曲を聴くと、昨年10月に多くのファンを心配させた彼女の一連のツイートを思い出す。

「疲れ切ってて何にもしたくない。私は全然幸せじゃない。クソ野郎たちの言うことを聞くのはもうやめる、だってほんの1週間のんびりすることさえ許されないんだから。四六時中働かされて、死ぬほどくたびれてる」。彼女はそう投稿した。「やりたくもないことをやるって約束し続けて、完全に私自身の失態。今じゃ疲れ切ってて、まったくやる気を無くしてる。他のあらゆることは全部ほったらかし」。ネット上で拡散し始めるとすぐ、彼女はそれらのツイートを削除した。

一連のツイートについて筆者が訊ねると、彼女は恥入っているような様子さえ見せた。「あれを投稿するかどうかはすごく迷った。ファンに心配をかけたくないし、私は大丈夫だから」。彼女はそう言った。「あの時は、ただとにかく疲れてた。嫌なことがたくさんあって、ストレスを発散したがってたの。でも、それはTwitterでやるべきじゃなかった」。彼女は後にこうツイートしていた。「私はかぼちゃが大好き」(かぼちゃの絵文字を添えて)

「これからはもう絶対ああいうツイートはしない。ファンを不安にさせたくないから」。彼女はそう話す。「大袈裟に受け止められちゃうし、それってよくないもの」。その年の秋に彼女がInstagram Liveで語った内容は、民泊用住居で筆者と話した時にも明かしていた、スタジオに入って曲を作りたいという思いだった。「好きじゃないことばっかやらされてる」と彼女は語っていた。「写真撮影は好きじゃない。ファッションやオシャレが大好きってアピールさせられて、もううんざり」



ドージャがロブスターロールのディナーを途中で切り上げた後、マネージャーの1人は筆者と一緒に民泊物件の外でUberの到着を待っていてくれた。「マネージメントする側も大変なの」。ドージャや他のアーティストの超多忙なスケジュール管理について、彼女はそう話す。「彼女や他のクライアントの望みを全部叶えてあげて、理想的なキャリアを歩ませてあげられたらって思う。でもこの世界に足を踏み入れる人たちは、トップに立った後、その立場を維持するためにそれまでの倍の努力が必要だってことを理解していないのかもしれない。スタート地点で経験する苦労とはまた別の苦労が待ってるの」

本格的なツアーに出る2022年も、ドージャ・キャットの苦労は続くだろう。まだ確定していないが、Viceで放送されているアクション・ブロンソンの料理番組に似たコンセプトのショーを始める計画もあるという。オリジナルのレシピを考案するのが好きで、パーティに招待したゲストに和牛サンドイッチとグリュイエールトリュフチーズのフォンデュを振る舞っている彼女の料理に対する熱意は、「画に描いたようなフランス人」である元カレの影響だという。「アマラは料理が好きなの。主婦になればいいのに思うくらい」とAsratは話す。「アマラなら、1カ月間も家で料理しかしない生活を歓迎するでしょうね。彼女にはそういう面もあるの。でも、ドージャ・キャットはそうじゃない」

今アマラがやりたがっていて、ドージャができないことは山ほどある。彼女は旅行、できればイタリアに行きたがっている。最近建てたばかりのビバリーヒルズの家のプールで、のんびりリラックスしたいと思っている。リビングにあるビーンバッグチェアに腰掛けて、Xboxに熱中できたらと思っている。キャリアの始まりがそうであったように、スタジオに入って曲を作りたがっている。とにかくパーティしたいと思っている。ラップダンスをしたがっている。そして彼女は、バットマンの如く間抜けどもの頭上に颯爽と現れたがっている。

From Rolling Stone US.




ドージャ・キャット
『Planet Her (Deluxe)』
発売中
完全生産限定盤:CD+Tシャツ / ¥5,940(税込)
通常盤:CD / ¥2,420(税込)
日本盤CD購入リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/DojaCatPlanetHerDeluxeJPRJ
配信アルバム再生・購入リンク:https://DojaCat.lnk.to/PLANETHERDELUXERJ



完全生産限定盤は、ヤング・サグの2ndアルバム『PUNK』のジャケット写真を手掛けた19歳の新進気鋭日本人アーティスト=K2による描き下ろしイラストTシャツを封入(※TシャツはLサイズのみ)

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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