ドージャ・キャット密着取材 傍若無人なポップスターの知られざる素顔

ドージャ・キャット(Photo by Kanya Iwana for Rolling Stone)

 
米ローリングストーン誌の表紙を飾った、ドージャ・キャットのカバーストーリーを完全翻訳。昨年6月にリリースされた『Planet Her』が全米チャート21週連続トップ10入り(最高2位)、第64回グラミー賞では主要3部門を含む計8部門にノミネート。快進撃が止まらない新時代のアイコンについて、前後編合わせて2万字超のボリュームで掘り下げる。こちらは前編。

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できればやりたくないこと

11月中旬、カリフォルニア州ユニバーサルシティにある民泊用住居にてドージャ・キャットと向き合っていた筆者は、「I Saw Her Standing There」のパンクカバーを聴きながら、彼女が作ってくれたロブスター&キャビアの絶品ブリトーをあっという間に平らげた。元カレについて語る合間に、彼女は常に持ち歩いている蛍光色の電子タバコをふかす(「チョコレートとセックス、あとこの馬鹿げた電子タバコだけはやめられないのよね。でもそれ以外は必要ないの」)。前作と昔の恋人について1時間ほど語った後、彼女は唐突にミニーマウスのケースに入れたiPhoneに目をやり、「ちょっとごめん」と言ってトイレに向かった。

筆者がキッチンで立ったままメモを取り、ロブスターの身の切れ端を食べ、自動開閉式のゴミ箱の使い方がわからず四苦八苦していると、彼女が戻ってきてこう言った。「喉と鼻の調子がすごく悪いの」。まるで巻貝の笛で呼びつけられたかのように、彼女のマネージャーたち(全部で4人おり、そのうちの2人が建物の別室に滞在していた)が慌てた様子でキッチンに入ってきた。

「大丈夫ですか?」と筆者は尋ねた。

「うん、大丈夫」と彼女は話す。「心配してくれてありがとね」。そう言い残して、彼女はどこかへ行ってしまった。

彼女のチームが予約したこの民泊物件で、筆者たちはディナーを取りながら数時間ともに過ごすことになっていた(「あたかもここに滞在してるように振る舞えって言われてるんだけど、実際に寝泊まりしてるわけじゃないもの。ただの民泊よ。私は誰も自宅に入れたくなかったから。気を悪くしないでね」。まな板の上でチャイブをみじん切りにしながら、彼女はそう話していた)

彼女は過酷なスケジュールのせいで疲れ切っていると明かしていた。一昨日はDay N Vegasフェスティバルに出演し、昨日ロサンゼルスに戻ってマネージャーの誕生日パーティーに遅刻しながらも顔を出し、先送りにされていた写真撮影をこなした。当然のごとく今日は二日酔いがひどく、さらには生理がきていることを筆者と一緒に嘆いていた(後日ビデオ通話をした時に、当日彼女が高熱を出していたことを知った)。彼女を病院に連れて行くことにしたマネージャーの1人が、筆者に高級そうな水のボトルを手渡してこう言った。「帰り道のお供にどうぞ」

ドージャはスタジオでの制作を楽しみにしているが、「他にやらなくちゃいけないつまんないこと」のせいでそれが叶わずにいるという。まさに人気の絶頂にある現在の彼女は、やらねばならない仕事を山ほど抱えている。アンダーグラウンドでの活動が長く、デビューアルバムは批評家たちから評価されながらも商業的な成功には程遠かったが、彼女はパンデミック初期に発表した非の打ち所がないディスコトラック「Say So」でブレイクし、同曲を収録した2ndアルバム『Hot Pink』はTikTokでの人気に後押しされる形でチャートの頂点に立った。2021年6月には官能的なアフロポップ「Woman」から、洗練されたトップ40ヒット「You Right」「I Don’t Do Drugs」、レトロなR&B「Need to Know」(泥酔していた時にスタジオで書いた曲だという)まで、バラエティ豊かでありながら一貫性のある傑作『Planet Her』をリリースした。11月にはグラミー賞の8部門で候補として選出されており、ノミネート数は全アーティストの中で2番目に多い。

彼女はポップ界のスーパースターに求められる条件をすべてクリアしてきた。煌びやかなミュージックビデオ(彼女はトリートメントの大半を自身で作成している)、オリジナルコスメ用品のローンチ、数々のブランドとのスポンサー契約、ゴルチエやトム・ブラウンのドレス姿でのアワード出席、Vogueでのメイクアップ&スキンケアのコツ伝授、複数のマネージャー、そしてクリエイティブディレクターや振付師からビデオグラファーまで擁する一流の人材のみで構成されたチーム。飼い猫のAlexとRayさえも今では有名であり、ドージャのペットが悪い宇宙人にさらわれてしまう「Get Into It (Yuh)」のミュージックビデオにも出演している(厳粛なオーディションを経て決定された誘拐される猫の選出基準は、「ダーティで狂った目をしている奇妙な猫」だったという)



彼女ができればやりたくないこと、それは取材だ。惑星タントラからやってきた性別不詳のエイリアンという仰々しいペルソナを掲げているドージャだが、周囲の人々によると彼女は内気な性格だという。実際に会ってみると、彼女は礼儀正しいが慎重なタイプであることが伝わってくる。「Get Into It (Yuh)」の撮影リハーサルが行われていた北ハリウッドのスタジオで初めて顔を合わせた彼女がハグをしてくれた時、10年ぶりの同窓会で再会した大学時代の天敵で、自分が太っていないことを憎々しく思っているであろう相手に接しているかのような警戒心を感じた。

「イケメンから質問攻めにされたり、普段からつるんでる仲間に『高校時代にハマってたものは?』とか訊かれるのならオッケーなんだけど」。彼女はそう話す。「でものんびりしたい日に、ベッドから渋々這い出してどっかに出向いて、同じような質問に何度も答えなきゃいけないんだから、そりゃ疲れるわよ」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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