ドージャ・キャット密着取材 傍若無人なポップスターの知られざる素顔

 
ドクター・ルークとの関係

16歳の時に高校を中退したドージャは、ADHDの症状がその主な理由だったと説明する。「周囲がどんどん先に進んで、自分が置いてけぼりにされてると感じてた」。彼女はそう話す。この頃、ビートに自分の声を乗せることに夢中になるなかで、彼女は自身のアーティスト性に目覚めていったが、一方で問題も抱えていた。「完全に引きこもりになってた。広場恐怖症の傾向があるのかどうか知らないけど、少なくとも当時はそうだと思ってた」と彼女は話す。「一歩たりとも外に出たくなかった。かと思えば、家でじっとしてられなくて四六時中外をほっつき歩いてることもあった」。彼女はマリファナを吸いまくり、YouTubeでビートを漁っては、曲を作ってネット上で公開していた。そして、そのうちの1つだったトリッピーなアンビエント調のドリームポップアンセム「So High」が、長期的なコラボレーターとなるYeti Beatsの目に止まる。



現在では、ドージャは「So High」を聴くたびにむず痒くなるという。「歌詞のいい加減さは、私が書いた曲の中でもトップクラス」と彼女は話す。しかし、あの曲を聴いたYetiはその才能に「衝撃を受けた」という。「音質はお粗末だったけど、声は圧倒的だった」。彼はそう話す。ドージャがエコー・パークにある彼のスタジオに出入りするようになると、彼はそこが彼女にとって心のオアシスであり、家庭での様々な問題から逃避できる場所であることを悟ったという。「こんなことを言うと怒られるかもしれないけど、当時の彼女は心を閉ざしてた」と彼は話す。「スタジオは彼女にとってのシェルターだった。彼女との出会いに運命めいたものを感じていた僕は、ドージャを必死で説得して毎日スタジオに連れてきては、彼女がクリエイティブになれる環境を作ろうとしていた」

Yetiとのコネクションを介して、ドージャはポップ界の大物ドクター・ルークがRCAの傘下に立ち上げたKemosabe Recordsと契約する。2014年、彼女は同レーベルからデビューEP『Purrr!』をリリースした。「So High」で彼女はメインストリームで成功を収めることの意味を知ったが、ミュージックビデオで描かれたヒンドゥーのイメージは一部の人々の怒りを買った。当時、彼女は自分が幼い頃にヒンドゥーの教義を実践しており、修行所で過ごした日々にインスパイアされたと説明したが、現在ではあのミュージックビデオを作ったことを後悔している。「私にもう少し知恵があれば、あれはやらなかったと思う」。彼女はそう話す。「多くの人々にとって神聖なものに対しては慎重になるべきだし、軽い気持ちで扱うべきじゃないと思う」

以降数年間、ドージャはクリエイターとしてスランプを経験する。ツアーや曲作りは続けていたものの、膨大な量のマリファナを吸っていたという彼女は「あまりに不健康な生活で、一旦全部ストップする必要があった」と話す(現在の彼女はマリファナを断っている。「ドラッグは一切やらない。酒は浴びるほど飲んでるけど」)。「しばらくの間、彼女は曲作りをやめていた。彼女は自分を見つめ直そうとしていたし、レーベルは彼女の動向には無関心だった」とKaplanは話す。

この頃、ドクター・ルークとケシャの法廷闘争が加熱していたことはおそらく偶然ではない。同スキャンダルが勃発したのは、ドージャがKemosabeと契約した直後だった(ドクター・ルークの代理人はこのトピックに対するコメントを拒否している)。キャリアを通じてドージャは様々な批判に晒されてきたが、ケシャが「薬物を投与されレイプされた」と主張する同プロデューサーとの繋がりを非難する声はとりわけ大きかった。彼のシーンへの復帰(「Say So」への参加によって2020年にグラミー賞にノミネートされたほか、今年は3部門でノミネートされており、そのうちの2つは『Planet Her』での仕事によるものだ)がドージャの成功に支えられていることは間違いない(ドクター・ルークはケシャの主張を否定し、彼女を名誉毀損で提訴した。ケシャは2016年に訴訟を取り下げたが、ドクター・ルークが起こした裁判は現在も継続している)

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ドージャはドクター・ルークとの関係について公の場で語っていないが、彼女が彼と仕事をすることを擁護する意見に感謝の気持ちを示し、彼女がKemosabeと契約したのは彼が2014年初頭にケシャから訴えられる前だと主張するファンのツイートに「いいね」している(YetiのInstagramのアカウントでは、ドージャとYetiがRCAとのミーティングに出席した2013年の写真が確認できる)。ドージャを客演に迎えたスウィーティーの女性へのエンパワーメントアンセム「Best Friend」等のヒット曲に、ドクター・ルークは作曲者としてクレジットされている。スウィーティーは彼と曲を共作することは契約上の義務だったと主張しており、今後彼と仕事をするつもりがないことを暗に示していた。

筆者は彼女に、スウィーティーと同じ考えかどうか、つまり彼と今後仕事をするつもりがあるかと訊いた。「あまり答えたくない質問ね」。彼女は口重そうにそう言って、しばし押し黙る。「彼とはもうしばらく仕事をしていない」と話した後、彼女は再び沈黙した。「彼はひどいことをしたって言われてるけど、それが本当かどうかなんて私にはわからないし」

「それとは?」と筆者。

「それは重要じゃない」。彼女はそう言った。「確かなのは、彼に疑惑がかけられてるってこと。でも、なんていうか、どうでもいいって感じ。将来的に彼とまた仕事をするべきかって言われたら、私はそう思わない。それは確か」。わずかな沈黙を挟んで、「彼との仕事を引き受けたのは、私が優しいからよ」と彼女は話し、乾いた笑い声を発した(本誌がコメントを求めたところ、ドクター・ルークの代理人は「ルークはアマラの才能と、2人で作り上げた作品を誇りに思っている」とした上で、彼が「数多くのアーティストの代表曲やヒット曲を手がけており、今後も活動を続けていく。それが彼の日常であり、生み出した作品が世に広められることは、彼自身と音楽業界が享受すべき利益です」と回答した)

数週間後、ドージャはルークに対するコメントのアップデートを送ってきた。「あのインタビュー以来、私が考えていることを伝えておきたくて」。代理人を介して送られてきたメールにはそう記されていた。「ルークに関する質問に対する私のコメントを読んだ人は、彼が不当に糾弾されていると私が考えているように解釈するかもしれないと思った。はっきりさせておきたいのは、私が確かなことは何も知らなくて、他人のことに首を突っ込みたくないってこと。私の曲のクレジットに間違いはないけど、私はそれ以外のことについて誤解を招くようなことは何も言いたくない」

また彼女は先のインタビューで語った内容について、こう説明している。「過去に私の功績を他人(特に男性)のものにしようとした、一部の人々に対する個人的な感情が影響していた」。さらに彼女はこう続けている。「若い女性として、自分が得るべき権利のために戦うのは大切なことだと思う。私が言いたかったのはそういうこと」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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