ドージャ・キャットが語る、「ポップ界の問題児」としての本音と葛藤

ドージャ・キャット(Photo by Kanya Iwana for Rolling Stone)

 
米ローリングストーン誌の表紙を飾った、ドージャ・キャットのカバーストーリーを完全翻訳。昨年6月にリリースされた『Planet Her』が全米チャート21週連続トップ10入り(最高2位)、第64回グラミー賞では主要3部門を含む計8部門にノミネート。快進撃が止まらない新時代のアイコンについて、前後編合わせて2万字超のボリュームで掘り下げる。前編に引き続き、ここでは後編をお届け。

【前編を読む】ドージャ・キャット密着取材 傍若無人なポップスターの知られざる素顔


人種差別疑惑をめぐって

パンデミックはドージャ・キャットのキャリアにとって追い風となったが、同時に望まない注目ももたらした。特に、彼女がネット上で発した過去の不謹慎な言動が批判されるようになった。例えば2018年、Fワードが出てくる彼女の過去のツイートにファンが言及すると、彼女は開き直ってこう返している。「2015年に高校生だった頃、私は何人かの嫌なやつらのことをfaggotって呼んだけど、それで私のことは応援すべきじゃないっていうの? faggotっていう言葉を、私はこれまでに1万5千回くらい使ってる」(彼女は後にそのツイートを削除し、正式に謝罪している)

彼女の過去のネット上での言動の大半は、波風を立てたがるティーンエージャーによる若気の至りとして片付けられるだろう。ドージャが管理していたと思われるFacebookの古いアカウントには、同性愛者に対するやや蔑視的な表現も見られ、2012年にリル・キムの曲に合わせてラップした、きょうだいを揶揄した投稿には#gayassniggaというタグが付けられている。しかしその大半は、セルフィーやドラッギーなミーム、ローファイなTumblrアートの保管場所であり、単なる好奇心旺盛な子供のポートレートにすぎない。

しかしネット上での彼女の尖ったペルソナは、キャリアを重ねてからも度々表出している。パンデミック初期、ウイルスを軽視する彼女の発言は広く拡散された。当時、Instagram Liveで彼女はこう語っている。「ビッチ、私はコロナやコロナビールなんかにビビってやしない。コロナに罹ってコロナを飲んでやる、コロナなんてまったく怖くない。ただの風邪よ!」

「あれはただ気分を盛り上げようとしてただけ」。Covidに関するコメントについて訊いたところ、彼女はそう答えた。「ウイルスを軽視してたわけじゃない。あの時、私はまだその危険性と被害の深刻さを把握できてなかった。いつものようにバカなことをやりたかっただけ」(筆者がドージャに会った数週間後、検査で陽性反応を示した彼女はJingle Ball Tourへの出演をキャンセルした)


Photograph by Kanya Iwana for Rolling Stone.

ブラック・ライヴズ・マターのムーヴメントがピークに達し、彼女が人種差別者たちのチャットルームに参加していたとして批判された後、彼女が2015年にSoundCloudで公開した「Dindu Nuffin」という曲に警察の暴力の犠牲者となった黒人たちを揶揄する4chan用語が引用されていることをネット民たちが発見したことで、彼女への逆風はさらに強くなる。「悲しいことに、白人が中心のコミュニティで育った黒人がこういう価値観を持つことは珍しくない」。The Rootに記事を投稿している作家のDamon Youngは、「Dindu Nuffin」とTinychatでのスキャンダルについてそう語っている。「白人の人々、特にクールで尖った少年たちの価値観は執着を生み出し、いつの間にか同化させられた差別用語に反応しない黒人の子供たちは、そういった人々と同じような態度になる」。それらのスキャンダルについてコメントを求めると、彼女は回答を拒否した上でこう言った。「それについてはこれまでに数えきれないほど話したし、言うべきことは全部言ったからもう話したくない」

2020年にPRチームを介して発表された正式なステートメントと、よりダイレクトなInstagram Liveの場で、ドージャは若い頃にチャットルームに没頭していたことを認めたが、Tinychatで「人種差別に関するチャットに加わった事実はない」と主張し、彼女のネット上の友人たちを白人至上主義者とみなす人々を「ただのバカ」とこき下ろした。また彼女は「Dindu Nuffin」について、チャットルームで白人の人々が自分に向けた言葉の意味を再定義することが目的だったとしている。彼女のステートメントには「私は黒人女性です」と記されていた。「私のルーツの半分は南アフリカ出身の黒人であり、私はその事実を心から誇りに思っています」



ドージャを知る人々の多くは、感情をうまくコントロールできない彼女に親近感を覚えている人は少なくないと考える。「彼女はクレイジーなことを平気で口にする」とNokaは話す。「それを非難するような人は、心の底では彼女のことを称賛しているはずだ」。ドージャのマネージャーのDillardにソーシャルメディア上での彼女のトラブルについて訊くと、彼はそれがスーパースターダムへの道のりにおける障害物の1つにすぎないと言った。「本物のアーティストというのは間違いを犯すものだ。物議を醸す発言も多い。(彼女のオンラインでの言動を)まるで心配していないと言ったら嘘になるけど、ドージャは大人になろうとしている。まだ成長している途中なんだ。ドージャも1人の人間であって、彼女が自分らしく振る舞うことを僕が批判することはできない。彼女は彼女なんだから」

ドージャ・キャットが内面化されたレイシズムに苦慮しているという見方は、キャリアを通じて彼女につきまとっている。Nasは2020年発表の曲「Ultra Black」でそのスキャンダルに言及しており、自身を「誇りに満ちた黒人」と位置づけ、「ドージャ・キャットの正反対の存在」だとしている。これは混血の女性として生まれ、黒人としてのアイデンティティを主張し続けなくてはならない人間に対する批判としてはあまりに酷だと思える。最初のうちは、彼女はそういった批判をまるで気にしていないと語っていた。「傷ついたりはしなかった。ふーん、つまんないのって感じ」。しかし語り合ううちに、彼女が実際には傷ついていることがはっきりした。

「感情的で、すごく人間臭いと思った」。彼女はそう話す。「はっきり言って、自分とは関係のないことだと思ってた。(Nasが)話題にしているのは、自分以外の誰かのことだと思ってた。でもそれが間違いなく私のことだって言うのなら、もう議論の余地はないっていうか……。私は誰かと対峙するのは好きじゃないし、そんな必要もないのに必死に自分のことを理解させようと頑張るなんて嫌なの。ユーモアのかけらもない反応なんて、返したって意味ないもの」。実際、彼女はユーモアのセンスを見せつけた。2020年の夏にInstagramで男性蔑視をテーマにした「Ain’t Shit」の予告を公開した際に、同曲のタイトルは「N.A.S.」とされていた

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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