ドージャ・キャット密着取材 傍若無人なポップスターの知られざる素顔

 
「Say So」への複雑な思い

2018年に『Amala』がリリースされた直後、ドージャ・キャットはフラストレーションを感じていた。Roc Nationに所属していたマネージャーが辞任し、レーベルは彼女のことを気にかけていないように思われた。そして『Amala』のツアーが始まる直前のある日、プロデューサーのトロイ・ノカが彼女にウェス・モンゴメリーの「Polka Dots and Moonbeams」のサンプルを送り、彼のアルバムのためにビートを作ってほしいと依頼した。ツアー用の衣装として牛のコスチュームを購入したばかりだった彼女は、送られてきたサンプルをベースにして、Instagram Liveでファンと一緒に「Mooo!」を作り始めた。さらに彼女は、子供の頃に使っていた寝室をグリーンスクリーン代わりにしてミュージックビデオも作った。ハーフトップ姿でチーズバーガーを食べながら、ゆさゆさと揺れるアニメーションの乳房の前で踊るそのビデオは、性的で馬鹿げたユーモアを好み、問答無用のヴォーカルスキルを備えたドージャ・キャットという存在を体現していた。



ドージャは「Mooo!」以外にもノベルティソングを残している。過去には彼女の喘ぎ声をフックにした「Nintendhoe」(Asratはこの曲が彼女のブレイクのきっかけになると思っていたという)を発表し、以降も簡潔なシングル「Waffles Are Better Than Pancakes」(「パンケーキなんて大嫌い/クソまずいから」という呪術のようなアウトロが印象的)をリリースしている。セクシーな牛に扮したノベルティソングがきっかけとなってレーベルが彼女に注目するようになったことについて、彼女は気にしていないと答えた。「最初からくだらないジョークのつもりだったし、そんなの明らかでしょ。でもリスナーに楽しんでもらえる曲にしたかったし、実際そうなったから」

「Mooo!」の成功によって、彼女はアーティストとしての可能性を証明してみせた。「あれが注目されるきっかけになった」とYetiは話す。「僕らはシリアスな曲も作ってたけど、世間はああいう彼女が好きだから、そういう部分をもっと見せていくべきだと思った」


Photograph by Kanya Iwana for Rolling Stone. Bracelets by Alexis Bitter. Earrings, necklaces, and rings by David Webb.

ポップ界の何でも屋というドージャのイメージは、『Hot Pink』によって一層強まっていく。「アルバムをRCAのチームに聴かせた時、みんな唖然としてた」。Kaplanはそう話す。「曲を聞いた途端、誰もがその可能性に気づいてた。過去に何度か会っていた人々も、ようやく僕の名前を覚えてくれたよ」。アルバムはTikTokで無数のトレンドを生み出し、特にパンデミックの最初の数カ月間は破竹の勢いを見せた。例えば官能的な「Streets」は、赤いフィルター越しに廊下で思わせぶりなポーズを取るTikTokのシルエット・チャレンジを生み出した。

やがて、ナイル・ロジャースの「Good Times」のギタープレイにインスパイアされたというディスコとポップラップのハイブリッド「Say So」が生まれる。同曲はパンデミック中期に見られた現実逃避のムードやチープなディスコポップの再燃を後押しし、TikTokでヴァイラルヒットしたコケティッシュなダンスを生み出した(ドージャは後に、そのクリエイターであるHaley Sharpeを同曲のビデオに出演させている)。彼女は「Say So」について、母親が住む家で受け取ったビートをLogicで再生しながら、歌詞とメロディを適当に呟いていた時に生まれたアイデアが元になったと語っている。ドクター・ルークは同曲の共同作曲者および唯一のプロデューサーとしてクレジットされており、後者にはTyson Traxという別名を用いている。ある業界人は、彼がこの1曲によって完全にシーンに復帰したと主張する。それ以降、彼はダベイビーやザ・キッド・ラロイ、そしてスウィーティーの作品を手がけている。「彼は再びスーパースターたちと仕事をするようになった。その年に彼が携わった唯一のヒット曲、それが『Say So』だった」とその人物は話す。



ドージャは別の理由で、同曲に対して複雑な思いを抱いている。広く拡散されたある動画では、彼女がステージで「Say So」をプレイする際に呆れた表情を浮かべる。「何だかすごく悲しくって、マンネリでうんざりしてた」。パンデミックの最中にZoomで同曲のパフォーマンスを披露することについて、彼女はそう語っている。「前はあの曲がやりたくて仕方なかったのに、いつの間にか好きな曲の1つぐらいになってた。実際にファンの前でプレイできない不満もあって、気づけばネガティブな思いの方が強くなってた。『この曲は私が思い描いた夢を現実にしてくれるはずだったのに』ってね。それで何だか複雑な気持ちになったの」

【後編を読む】ドージャ・キャットが語る、「ポップ界の問題児」としての本音と葛藤


From Rolling Stone US.




ドージャ・キャット
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Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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