日本映画史上初の快挙『ドライブ・マイ・カー』、第94回アカデミー賞・作品賞ノミネート全10作品徹底分析

Janus Films; Chiabella James/Warner Bros; Paul Thomas Anderson/Metro-Goldwyn-Mayer

第94回アカデミー賞・作品賞のノミネートが発表された。村上春樹の短編を映画化した『ドライブ・マイ・カー』が、日本映画史上初めて作品賞、脚色賞、監督賞、国際長編映画賞の4部門にノミネートされるという快挙を果たした。改めて、今年度栄えある作品賞にノミネートされた10作品を米ローリングストーン誌が徹底分析する。

歓喜の叫び、失望のうめき、歯ぎしり、ガラスが割れる音——あなたが今朝、耳にしたこれらの音が奏でる不協和音は、ただひとつのことを意味している。第94回アカデミー賞のノミネート作品が発表されたのだ。常のごとく、映画芸術科学アカデミーの会員たちが選出したラインアップの大半は極めて予想通りだったが、なかには見事な変化球もあれば、レディー・ガガの候補漏れという不可解な出来事もあった(実際、レディー・ガガ主演の『ハウス・オブ・グッチ』はひどい映画だが、劇中の「グッチ家の親子関係」によって描かれた爆発的なエネルギーはぜひご覧いただきたい)。

華やかなプレミア、愛想笑いに満ちたレセプション、映画祭やゴールデングローブ賞のオンパレード、セレモニーといったお祭り騒ぎ風のオスカーキャンペーンが縮小ないし一時停止させられるなか、今年は特殊な映画賞シーズンとなった。審査員の過半数が——かつてはスーパーヒーロー不在の映画を好んだ、好奇心旺盛とは程遠い人々——眠気と戦いながら超大作や親密なドラマを自宅のソファの端っこから審査していた可能性は高い。何が世間を騒がせていて、何が「到着時死亡」と言わんばかりに話題にならなかったかを把握するのも、例年より困難だった。だからといって、あなたアカデミー会員の注目に値するような史上最高のパフォーマンスや号外級の映画がなかったわけではない。たしかに、アカデミー賞の「正解」と「不正解」を判定するのは主観的なことかもしれないが、審査員たちは今年に限って大方「正解」を出したと言えるのではないだろうか。

そこで、ローリングストーン誌がアカデミー賞の作品賞部門にノミネートされた10作品——現在配信中のものからそうでないものを含む——を徹底分析。10作品について知っておくべきことを総括した(当然ながら、いちばんのお勧めは劇場での鑑賞だ)。3月27日(日本時間3月28日)の授賞式までにチェックし、気になる作品があれば鑑賞しておこう。

1.『ベルファスト』(3月25日公開)


北アイルランド・ベルファスト出身のケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』がトロント国際映画祭で上映された直後、たしかに私(訳注:米ローリングストーン誌のデヴィッド・フィアー記者)は判断を急ぎすぎたのかもしれない。ブラナー監督の幼少期を描いたこの自伝的作品は、いわゆる「北アイルランド紛争(英語:the Troubles)」によって仲の良いコミュニティが交戦地帯へと姿を変えた激動の時期を生きる少年が主人公の物語だ(それでも私は、オスカーを確信した誇張的な記事の見出しを後悔しているわけではない)。モノクロ映像で写し出される同作は、歴史映画、社会問題に関する嘆き、過剰にセンチメンタルになることなくパーソナルな親密さを感じさせる成長物語の融合である。業界のベテランが手がけた作品であることは、いまさら言うまでもない。これらはすべて、審査員を歓喜させる要素でもある。トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞してからというもの——同作は、映画賞シーズンの重要な先導者と目されつづけてきた——私がオスカー受賞を確信したのも無理はないとわかっていただけるだろう。昨年、とりたてて話題にならずに劇場公開を迎えた際は、勢いがスローダウンしてしまったかのような印象を与えた。だが同作は、有力な候補として復活した。それに、これは時間を費やして観るに値する作品だ。『ベルファスト』は、「ローレンス・オリヴィエの再来」と称賛されたブラナー監督の秀逸な回想録であると同時に、心の琴線にそっと触れる術を心得ている作品なのである。

2.『Coda コーダ あいのうた』(絶賛公開中)


『Coda コーダ あいのうた』のノミネートには驚いた。歌手を夢見るコーダ(聞こえない親をもつ聴者の子供、Children of Deaf Adultsの略)の少女(彼女には、隠れた歌の才能がある)が主人公のこのインディー映画が、2021年のサンダンス映画祭で審査員賞を含む4冠に輝いたのは事実だ。だが、何と言うか……常に観客の感情を掻き立てるという観点から見ると、同作はいささか厚かましい印象を与える。両親役を演じたマーリー・マトリンとトロイ・コッツァーは特に見事で、役者たちの演技は素晴らしいのだが、どうしても、主人公が自力で困難を乗り越えようとするドラマ、負け犬の大逆転を描いた物語、奇抜なコメディ、レプレゼンテーション不足なサブカルチャーのポートレイトが衝突し合う、複数の映画を同時に見ているような感覚を抱いてしまうのだ。観客を幸せな気持ちにしてくれる映画がある一方、アグレッシブなまでに多幸感を演出する映画もある。果たして、同作はどちらだろう? 受賞という点では、こうした点は玉に瑕ととらえることもできるが、もしかしたらこれは意図的なのかもしれない。

Translated by Shoko Natori

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