MONSTA X密着取材 LAで語ったファンへの感謝、メンタルヘルスと人生設計

 
常に全力、LAでのPR活動

プレスツアーの初日は、コンテンツを生み出すマシン内部の見学からはじまった。コンテンツづくりには、良質な照明、労働力、多彩なメディアバックグラウンドが欠かせないようだ。参加者全員が時間に神経を尖らせているというのに、インタビュー収録が予定時間を超えてしまった。これは、Twitterの音声会話サービス「Space」を使ったチャットが9分遅れることを意味する。Twitterで待ち構えているファンたちが、アメリカのPR担当の無能さをなじる。BMGのデジタルマーケティング担当を務めるミカエラさんは、ファンのツイートをものともせずにTikTokコンテンツの準備を進める。「明日か明後日にこれをやってもらおうと思っています。キュートでしょう?」と、彼女はクリップボードを手にした年配の女性に告げる。女性はミカエラさんのスクリーンを凝視し、OKと言わんばかりにうなずいた。

彼女曰く、MONSTA XのPRコンテンツはひとえにファンのために制作されている。ファンクラブの公式名称およびファンの通称は「MONBEBE」だが、これはフランス語で「私のベイビー」を意味するロマンチックな言葉に由来する。「ファンは、いつも(グループの動向に)注目しています」と彼女は言う。「ファンを喜ばせて、ワクワクさせることができると、心から誇りを感じます。ファンはいつも正直で、グループにとってベストなことを考えていますから」


万全の感染症対策のもと、ロサンゼルスで開催されたミート&グリートイベントでファンと触れ合うMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)

この3日間で制作されたコンテンツがようやくリリースされると、当然ながらファンは歓喜した。MONSTA Xは笑いのタイミングも絶妙で、とりわけI.MとJOOHONEYがユーモアのセンスに長けている。いまは12月なので、彼らはサンタクロースとの夢のコラボレーションを思い描いているのだ。MVで共演したい動物は、ライオン、ゾウ、ワニ、そして「恐竜」だ(JOOHONEYは、いたずらっぽい笑みをこちらに向けて言った)。インタビュアーは、具体的な質問よりも一般的な質問をする傾向がある。イギリスの子供向けテレビ番組の中で、子供が大人の出演者にするような類の質問だ。そんなときでも、MONSTA Xは僧侶並みの忍耐力を発揮する。繰り返しのやり取りを一期一会であるかのように受け止め、陳腐なリクエストを自分たちが心から楽しめるものに変えてしまう。

「ばかばかしい質問かもしれませんが」とラジオ番組のホストが言う——「ばかばかしい質問は大歓迎です」というI.Mの励ましの言葉がほしいだけなのだが。その後、メンバーの中でもっとも流暢な英語を話す、事実上のスポークスパーソンであるI.Mは、催眠状態から目覚めたかのようにはっとする。3年前、まったく同じ質問を受けたことを思い出したのだ。「以前、同じ質問をしましたよね?」

ラジオ番組の収録には、「ライナー」があるに越したことはない。メンバーがライナー(「MONSTA Xです。お聞きの放送はラジオ……です」という決まり文句)を言うべきだと一度ガジット氏が判断を下すと、メンバーは英語が書かれた紙を持つ女性を囲んでしゃがみこんだ。こうしたライナーは、コンテンツを最大限に活かすだけでなく、MONSTA Xのリリース、多種多様な番組、祝日などにオンエアされる。メンバーは、立ったまま同じような紹介文を30分間マイクに吹き込む。最初から最後のテイクまで、熱意の度合いは少しも変えずに。


特に情熱的なロサンゼルスのMONSTA Xファンたち(Photo by Jesse DeFlorio)


米小売大手・ターゲットのロサンゼルスの店舗を訪れるMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)

別の日には、有名人がチャーターするようなスモークガラスのワゴン車の中から、4人の美女たちとともにメンバーが登場した。ガジット氏も加わり、女性たちが後ろに下がると、氏はメンバーと一緒にショッピングセンターに向かって颯爽と歩き出した。ここでは典型的なプロモーション活動が行われる。メンバーは、アメリカのショップ(米小売大手・ターゲット)に入店し、自分たちのCDを購入する。ファンはこうした俗っぽい瞬間をカメラに収める、というものだ。どういうわけか、ガジット氏が中心になってメンバーをCD売り場へと誘う。その間、メンバーはアデルのニューアルバム『30』を指差してコメントしたり、近くにあったダンベルを手に取って筋トレをしたり、着せ替え人形のようにベビーウェアを互いの胸の高さまで持ち上げたりする。ものの10分で彼らは買い物を済ませ、店を後にする。謎の集団を目の当たりにして、通りがかりの買い物客は困惑顔だ。

店の外に出ると、中年の女性が彼らに「みんな、バイバイ! メリークリスマス!」と声をかけた。グループの半数がエスカレーターの頂上で振り返り、彼女に応じた。だが残念なことに、女性はスマホの赤い録画ボタンを押したと勘違いしていたようだ。気づいたときはもう遅く、メンバーは姿を消し、15メートル下でワゴン車に向かって歩いていた。「なんてこと!」と彼女は叫び声をあげ、振り返って私を見やった。その目には涙があふれていた。

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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