MONSTA X密着取材 LAで語ったファンへの感謝、メンタルヘルスと人生設計

 
MONSTA Xの「夢」、兵役と人生設計

メンバーは、アメリカの女性ファンの熱狂的な歓声に包まれて到着した。大好きなK-POPグループと直接触れ合えるチャンスを手に入れたのは、たった100人のMONBEBEだけだ。それでも、彼らを一目見ようと数百人が通りに列をなしている。

ファンに手を振り終わるとメンバーは一列になって建物の中に入り、忙しそうにアクリル板を設置しているスタッフの後ろに立った。メンバーは体を動かしたり、喧嘩するふりをしたりしてふざけ合っている。ただひとり、I.Mだけがアクリル板を前にし、物憂げな囚人のようにコツコツと叩いた。設置が完了すると、ファンを迎え入れる準備が整った。普段通りのMONSTA Xのハイタッチイベントでは——お気に入りのアーティストとハイタッチできることから、このように呼ばれている——ファンはメンバーと直接触れ合うことができる。だがコロナ禍ということもあり、今はアクリル板越しの交流しか許されていない。


ロサンゼルスでプロモーション活動中のMONSTA X(Photo by Jesse DeFlorio)

奇跡的にも、こうした措置に対してファンから失望の声は出なかった。10人ずつのグループに分けられた女性たちがドアの向こうから順番に入ってくる。飛び跳ねる者もいれば叫び声を上げる者もいる。なかには、恥ずかしそうにダンスのようなステップを踏んで喜びを表現する者もいる。ファンがひとりずつアクリル板に手を伸ばすと、メンバーも同じように手を伸ばした。プレゼントや写真撮影は禁止されているため、ほんの一瞬の出来事である。それでも、大好きなアーティストと数年ぶりに直接触れ合えるイベントということもあり、ファンはこのチャンスを大いに喜んだ。「コロナがなければ、いつまでも彼らの手を握っていたいんですが」と、カリフォルニア州在住のキャロライナさん(30歳)はイベント終了後に言った。「時間制限のせいで写真は撮れませんでしたが、心に記憶したから大丈夫です。アルツハイマーにならないといいんですけど」。多くのファンにとって、メンバーと直接目を合わせることは人生最大のビッグイベントであるに違いない。「彼らの瞳の中に、私たちへの愛情があらわれていました。MONBEBEに会えるのをずっと楽しみにしていたと思いますから、私たちだけでなく、彼らにとってもかけがえのない経験になったと思います」と、カリフォルニア州オレンジ・カウンティ在住のリビーさん(29歳)は言った。

こうしたファンたちにとって『The Dreaming』のリリースは、重要なイベントだ。ファンはあらゆる言語で歌われるMONSTA Xの楽曲をどれも愛しているものの、『The Dreaming』は英語圏のファンを新たに獲得するポテンシャルを秘めているからだ。それに、彼らが英語で歌うことには、ある種のワクワク感もある。カリフォルニア州在住のプリシラさん(37歳)は、ファンダムをまとめ上げた次のミームを例に挙げた。MONSTA Xの日本語のアルバムでは『君ってかわいいね』という歌詞があるのに対し、韓国語のアルバムでは『君とデートしたい』となっている。それに対し、英語のアルバムでは『キスしたい』となっているのだ。「英語のアルバムが好きです」とプリシラさんは断言した。「一般的なK-POPアーティストのように遠回しな表現ではなく、大人の男性として歌っている姿を目の当たりにするほうがファンとしては楽しいですね」



MONSTA Xの「夢」は何か? 私たちは、3日間のプレスツアー中に何度もこの質問を耳にした。彼らは、夢見てきたファンとの再会という意味合いを含んでいると嬉しそうに解説した。その一方、「あなたのゴールは何ですか?」という質問は好まない。国内外を問わず、この質問は頻繁にK-POPアーティストに向けられる。だがこの質問は、MONSTA Xが自分たちに問いかけることで初めて意味を持つ。彼らは、兵役で不在のメンバーSHOWNUが出発した日のほろ苦い思い出を語ってくれた。MINHYUKがSHOWNUの頭を丸刈りにすると、SHOWNUは家を出て通りの反対側から彼らに向かって最後の敬礼をしたのだ。「韓国では、男性であることは一種の義務です」とI.Mが言うと、ほかのメンバーもうなずいた。入隊年齢(訳注:韓国では、兵役法によって19〜30歳までが兵役につくことが義務づけられている)が近づくにつれて、兵役は決して人ごとではないのだ。「人生はなかなか厳しいです。特に男性は2年間兵役につくことが義務づけられていますから、人生設計が必要です。『兵役前にするべきことは何か? 何を成し遂げるべきか?』など、兵役前に何をしておくべきか、考えなければいけません」

インタビューが終わって音声レコーダーのスイッチが切られると、メンバーは散り散りにアイスコーヒーを飲みに行き、短い写真撮影の準備に取り掛かる。いつも思慮深くてシリアスなI.Mが初めて質問をしてきた。「あなたの仕事は、とても面白いと思います。あなたは、僕らのことを2、3日追いかけ続けてきました」と、ためらいがちに言う。「知らない人の未知の世界を探検する——それがあなたの仕事です。私たちのこと、私たちのやり方をすべて知っていくわけですよね。それってどんな感じですか?」。さまざまな視点から語られるストーリーを超えて、個人ないしグループの中で何が起きているかを観察するのはとても興味深いことだ、と私は答える。彼らのエネルギーと今この瞬間に彼らが生きている世界を感じ、それが何であるかを知ることができるから。ほかのメンバーは、写真撮影のために壁を背にして並ぶ。

「あなたの人生と、これについてあなたが感じていることにとても興味があります」とI.Mは言う。答えを思いつく時間はない。「I.Mの番だよ」とJOOHONEYが言う。フォトグラファーが次のメンバーの撮影準備をしている。「悲しい顔と笑顔、どっちがいいですか?」とI.Mは訊ねる。おそらくフォトグラファーに質問しているだが、その問いは混雑した室内にいるすべての人に向けられているのだろう。

From Rolling Stone UK.




MONSTA X
『The Dreaming』
発売中
視聴・購入:https://silentlink.co.jp/thedreaming09

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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