ササミが語る韓国のルーツ、日本での家族史、優しさに満ちたヘヴィメタル

 
ヘヴィメタルと日本の妖怪

『Squeeze』の制作にあたり、ササミはそうそうたる面々を集結させた。収録曲のいくつかは、ロサンゼルス出身のシンガーソングライター、タイ・セガールを共同プロデューサーに迎えてレコーディングされた。その一方、メガデスのドラマーのダーク・ヴェルビューレン、ジャズドラマーのジェイ・ベルローズ、ロサンゼルス出身のオルタナティヴバンド、モウニングのパスカル・スティーヴンソン、シンガーソングライターのクリスチャン・リー・ハトソン、UK発ハードコアバンドのノー・ホーム、ヴァガボンのレティシア・タムコ、コメディアンのパティ・ハリソンなども参加している(「Skin a Rat」でタムコとハリソンは、見事なスクリームを披露した)。故ダニエル・ジョンストン「Sorry Entertainer」のカバーには、現在はササミのサポートバンドとして活動するBARISHIをはじめ、ダフィーとトーマスも参加した(「参加したのはほんの数曲だけど、ヘヴィなギターリフを弾いたり大音量で演奏したりするのは、すごく楽しかった!」とダフィーは言い添えた)。

『Squeeze』がリリースされた暁には、私たちはササミと一緒にどん底を経験する機会に事欠かないだろう。3月のアメリカツアー後は、ヨーロッパでミツキ・ミヤカワのオープニングアクトを務め、その後はハイムのサポートに入る。『Squeeze』がササミのアーティストとしての才能を見事に純化させた作品である一方、ライブは変身をめぐる彼女の夢想に触れる絶好のチャンスかもしれない。収録曲を披露する気分を表現する傍ら、ササミは昨年ジャパニーズ・ブレックファストのオープニングアクトを務めたときのことを思い出して笑いはじめた。「真っ赤に燃えた斧を片手に、道化師みたいに走り回る悪魔のピエロのような気分。めちゃくちゃ楽しい。40分くらい失神して、気づくとアザだらけで口がきけなくなってた」


Photo by Daniel Topete for Rolling Stone

長年ササミは、ヘヴィメタルを遠い世界のように感じていた。理由のひとつは、それが彼女のコミュニティとあまり関連性がなかったから。さらに彼女は、こうしたジャンルの一部の楽曲から「極めて暴力的でレイピスト的」なエネルギーを感じて反感を抱いたことを認める。大好きなシステム・オブ・ア・ダウンの「Sugar」でさえそうだ。“知ってるだろう? あの女は、時々俺に食ってかかるんだ。だから蹴りを入れてやる。するとほら、もう大丈夫”という過剰なまでに暴力的な歌詞は、彼女を不快な気持ちにする。だが、ジャンルというものはモノリスのように一枚岩のものではない。それにササミがヘヴィメタルに惹かれたのは、空想と自然界からインスパイアされた「メタルヘッズのディアスポラ」と共感したからだ。クラシック音楽の訓練を積んできたミュージシャンとして、誰かを圧倒するために求められる地道な練習と技術的熟達の重要性を理解するのは容易いことだった。

メタル・ミュージックの演劇的なエクストリームさは、攻撃性と怒りを掘り下げるササミにとって格好の材料となった。その一方で、「シスジェンダー男性の独壇場のような音楽シーンの恐怖を解明する」取り組みの一環として、『Squeeze』の主人公を創出したいと考えた。「被害者というよりも、復讐であれ無作為的であれ、暴力を加える側の存在としての女性」が必要だったのだ。そんな彼女にインスピレーションをもたらしたのが「濡女」という日本の妖怪(民間伝承における超自然的存在)だった。女性の頭と蛇の体をもつ濡女は、罪のない通行人には手を出さない一方、やましさを感じている人には容赦しない。

「川で髪を洗う、慎ましやかな美女という点に惹かれたの。攻撃的で厚かましい船乗りたちが近寄ってくると、濡女は彼らを死に至らしめる」とササミは言う。「セクシーであると同時に暴力的な楽曲のエネルギーにぴったりのシンボル」。さらに彼女は、次のように述べた。「それに私は蟹座だから、濡女が水と関わりのあるビッチだと知って『そう! 私が探していたビッチはこれ! ウミヘビなんて最高じゃない!』ってすっかり嬉しくなってしまった」(アンドリュー・トーマス・ホアンが手がけた『Squeeze』のカバーアートは、蟹のような足をもつヘヴィメタル版濡女を見事に表現している)。

ササミは、タイトル曲『Squeeze』の中でどの曲よりも顕著に暴力と攻撃性を直視しながらもそれらを受け止めている。マシンガンのようなスネアに強調されるドラムは鋭く、ギターは切り裂き魔のナイフのような激しさで襲いかかる。甘美ともとらえられる、“夢想する、殺す、嘘をつく、裸にする、なめる、滴らせる、絞る、彼女を傷つけるまで”というフックは、恐ろしげな呪文のようだ。ノー・ホームが作曲・演奏するヴァースでは、何世紀にもわたって女性に向けられた暴力に対する怒りが爆発している。

「いくつかの暴力的な言語を救済したかった」と、ササミはタイトル曲について語った。「この曲は、日常生活に終始暴力が忍び込んでくることを歌っているの。ある日突然、地下鉄の車内で誰かに体をまさぐられるような。何らかの感情を呼び起こすアグレッシブな歌詞が添えられた、アグレッシブな曲にしたかった。でも私は、その感情の対象になるのではなく、自分自身の感情として受け止めている」



ササミのヴォーカルへのアプローチは、『Squeeze』の中核をなすヘヴィメタルなサウンドに対して自然な拮抗勢力となった。叫び散らすタイプのヴォーカルではない彼女は、もっともヘヴィなインストゥルメンタルに合うメロディーを追求した。その一方、ファジーなサウンドが魅力の感動作「The Greatest」やグラマラスで力強いリズムが特徴的な「Make It Right」(「この曲の別名は『Fleetwood Crass』。フリートウッド・マックとクラス[訳注:イギリスのパンクロックバンド]のスネアの音を合わせたみたいだから」とササミは巧みに表現した)といった“中休み”的な楽曲も収録されている。

それに加えて、「Tried to Understand」はヘヴィメタルとは程遠い秀作だ。ササミは、この曲を「シェリル・クロウ風の正真正銘のポップソング」と的確に表現する。さらに「Call Me Home」は、『Squeeze』が与えてくれるすべてを完璧に融合したかのような印象を与える。不気味で不穏なインダストリアルなサウンドとともに幕を開ける「Call Me Home」は、清々しいカントリーロックに取って代わられる。美しいコーラスでは、クランチの効いたヘヴィなギターサウンドがアクセントになっている。“あなたには知っていてほしい。あなたはひとりじゃない”とササミは歌う。“あなたには知っていてほしい。いつでも私のことをホームって呼んでいい”と歌う彼女の声は、煙のように立ち上っていく。

Translated by Shoko Natori

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