米屈指の進学校でナチス式敬礼、街に潜む「差別」の悪魔

マウンテン・ブルックという街の秘密

それもそのはずだ。マウンテン・ブルックは、偶然とは縁遠い場所なのだから。2017年にニューヨーク・タイムズ・マガジンに寄稿された「The Resegregation of Jefferson County(ジェファーソン郡における人種差別の復活)」という記事の中で、『The 1619 Project: A New Origin Story(1619プロジェクト:新たな起源の物語)』の著者でジャーナリストのニコール・ハンナ・ジョーンズは、アラバマ州の周辺地区の中で真っ先にブラウン対教育委員会裁判(訳注:1954年、公立学校における人種分離を違憲とするアメリカ合衆国連邦最高裁判所の判決がくだった裁判)に反応したのがマウンテン・ブルックだったと指摘した。マウンテン・ブルックはバーミンガム市から分離し、白人系の裕福な周辺地区は新たな街を併合することで人種差別を撤廃するための取り組みを回避することができる、という独自のプレイブックを考案した。今日のマウンテン・ブルックは同州きっての高級住宅街であり、住民の97%以上は白人だ。

要するにマウンテン・ブルックは、人種的ないし社会経済学的な多様性が理論上の概念としてしか存在しない場所であると同時に、あえてそのように設計された街なのだ。そしてここは、過ぎし日の多くの学校と同様に、あからさまな人種差別主義という礎のもとに建てられた学校が、生徒に反人種差別教育を提供しなかったことの悪影響が証明された場所でもある。マウンテン・ブルック高校のナチス式敬礼は、危惧すべき最初の事件ではなかった。それは氷山の一角に過ぎなかったのだ。

2020年5月、私は地元の友人たちからネット上に拡散されたある動画の話題を耳にするようになった。動画では、マウンテン・ブルック高校の男子生徒の裸の背中にふたつの大きなかぎ十字とドイツ語で万歳を意味する「ハイル」の文字が描かれていた。地域住民は危機感をあらわにし、学校側はこうした事件を回避する目的で多様性委員会を発足した。最終的に委員会は、学校側が名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League、以下ADL)と協力することを推奨した。ADLとは、1980年代から反人種差別的なリソースを教育現場に提供しつづけているアメリカ最大のユダヤ人団体であり、その反バイアス教育はアラバマ州の多くの学校をはじめ、全米の多くの学校現場で採用されている。2021年2月、マウンテン・ブルック高校のトップはADLと契約を交わし、6月半ばには少なくとも500名の教師が「No Place for Hate(憎しみは、ここにはいらない)」というADLワークショップに参加した。

Translated by Shoko Natori

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