クリープハイプ尾崎世界観が語る、初歌詞集に綴られた「言葉」のバックグラウンド

歌詞のインスピレーション源

―そもそもの質問をさせてください。歌詞集を読みながら、尾崎さん個人が浮かび上がる歌詞もあるし、物語としての情景が浮かび上がる歌詞もあるし、言葉遊びで成り立っている歌詞もあるし、改めて尾崎さんが書く歌詞にはいろいろなタイプがあると思ったのですが、歌詞のインスピレーションとか、モチーフとかは、どんなところからひっぱってくるのでしょうか? 

何かにたとえることも多いですが、モチーフは毎回決めています。そこが決まるまではかなり時間がかかるけれど、モチーフが決まれば早いですね。

―その時には、おっしゃったようにすでに曲はあるわけですね?

そうです。メロディがあって、モチーフを決めれば、もう半分ぐらい終わったなという感じです。そこから歌詞が出てこないというのは、そんなに重要なことではないんです。出てこなくても、絶対にいつかは決まるという感覚があります。最近は、レコーディングが迫っているという事実がないと出てこなくなったんですよね。そういうおかしな体になっている(笑)。思いついたモチーフを広げていく時は何もしないですね。基本的にはスマホのメモの画面をじっと見ている。そこに全部、集まってくるので、あの画面の中だけで完結していますね。改行したり、1字空けたりする時も同じだけ動くあの無機質なフォーマットで全部書いています。1回、あの設定が変わったことがあって、たぶんアップデートされた時に変わったのか、その時、書きづらくなったので焦りました。その後、設定を変えたら無事元に戻ったんですけど。よけいなものをネットで見たりすると、予測変換も変わってくるので、その時は困りますね。自分のせいなんですけど(笑)、何かを取り込むということもしないですね。めちゃくちゃ狭めていく。広く物事を見ると言うよりは、スマホの画面だけに向かって、世界を閉じていく書き方をしています。

―ふだん思いついた言葉とか、気になった言葉とかがたくさんメモしてあって、その中からメロディに合った言葉を当てはめていくってことではなくて?

そうではないですね。小説とか、歌詞以外の文章を書く時はありますけど、歌詞に関しては、一切メモはしないですね。レコーディングの直前まで、どっちの言い回しにするか悩んで2つ書いたりすることはありますけど、使わなかったから次に回そうという言葉はないです。時間がない時は、こういう感じのことを、こういう言い回しでうまい感じに言う、という風なメモはしています。でも、感情をそこに込めて、流れで書くよりは、設計図を書くように書いていますね。あんまりそこに気持ちを入れすぎると、伝わりづらくなると思っていて。奥行きは持たせずに、本当に1枚の絵のような感じで書いていて、その奥はないんです。

―クリープハイプの場合、聴いた人が歌詞を深読みすることが多いと思うんですけど、奥行きのない1枚の絵のように書いている歌詞に対してというところがおもしろいですね。

そうなんです。聴いてくれる人が全部やってくれるんです。だから、伝わらなかった時に、なんでだろうと思う気持ちや、本当はこうなのにという悔しさ、もどかさしさが本当に無駄だと思っていて。絶対に聴いた人が想像するほうがいいと思うんです。段々、そういう考え方に変わっていきましたね。だからある程度必要のない部分は省けるようになって、今では1章から10章まであるうちの5章ぐらいから書き始めたりもします。4章までは聴いてくれる人が想像して自分の体験にあてはめてくれるし、絶対にそのほうが感動するんですよ。こっちが最初から組み立てるよりも、絶対に自分が知っていることのほうが感情移入できるんです。そういった書き方は、この2、3年でよくやるようになりましたね。

―ふだん生活しながら、いい意味でも悪い意味でも気持ちが動いたことが歌詞の題材になるんでしょうか?

それもメモをするわけではないので、どこかで繋がっている部分はあるかもしれないけれど、意識はしていないですね。あとは、物にたとえることが多いです。でも、それもやり尽くしたので、あと何があるかと考えても、もう数えるぐらいしかない。そうなってくると、それ以外の仕事がでかいですね。音楽以外の仕事を積極的にやっているので、それが音楽に対するインプットになっているし、音楽をやること自体がその反対側の仕事のインプットになっているので、仕事をしながら仕事のインプットをして、またアウトプットしている感じで、それは自分にとってすごく心地いいですね。

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