クリープハイプ尾崎世界観が語る、初歌詞集に綴られた「言葉」のバックグラウンド

女性の視点からの歌詞が多い理由

―何度も聞かれていることかもしれませんが、女性の視点からの歌詞が多いのは、なぜなのでしょうか?

自分の知らない感覚を歌うということに対して、わかりたくないという思いがあるんですよ。男性の目線で書いてしまうと、表現することに対して、理解できてしまう虚しさがある。男の気持ちを歌うと、実感としてちゃんと手触りが残ってしまう。だから、できるだけ知らない感覚を歌いたいんです。本当に作品として遠くまで飛ばせるなというような気持ちになるのは、女性目線で歌った時ですね。だから、勝負したい時は、女性の目線で書くことが多いですね。

―ツタロックでも、「堂々とセックスの歌で始めたいと思います」とおっしゃっていましたけど、セックスと言うか、性愛は尾崎さんの歌詞の重要なテーマじゃないですか。バンドを始めたばかりの頃はエロは歌っていなかったのですか?

歌っていなかったし、歌詞というものにそこまでこだわりがなかったですね。良い曲を作りたいとか、良い演奏をしたいとは思っていましたが、そもそもそんなに歌詞を聴いていなかったと思います。曲ができると、早く歌いたいからそこに歌詞を付けなきゃ、という感覚でした。とにかく曲にしか興味がなかったけれど、その中で何かしなければと思ったんです。当時、曲を全然聴いてもらえないという焦りがあって、良い歌詞を書きたいとか、意味のある歌を歌いたいと言うよりは、人に聴いてもらいたいからちゃんと歌詞を書かなければと思って、エロというテーマを見つけた時に「これは誰もやっていないんじゃないか。発見した」と思いました。男寄りのエロは割とあったと思うんですけど、そうじゃない女性寄りのエロというのは誰もやっていないと思い、「美人局」を歌ったらしっくり来て、もうちょっとここを突き詰めていきたいと思いましたね。

―じゃあ、もし、その時、人に曲を聴いてもらえていたら、エロには手を出さなかったかもしれない?(笑)

そうかもしれないですね。かと言って、そこからすぐに聴いてもらえたわけではないんですけど、自分の作品をちゃんとピンで留められたような気がしました。それはすごく大きかったですね。それまでは曲を作っても、作品として残らないと思っていたんですよ。当時、自主制作のCD-Rでもいいから、とにかくCDを作ることにこだわっていました。それは、自分がやっていることが物質にならないという悔しさや不安があったからなんです。その後、「イノチミジカシコイセヨオトメ」ができた時は、何か違うなと思いました。自分の中でやっとハマったと思えたんです。ビート感と言うか、速くてエロい曲はあまりないぞと思い、そこでさらにもう1個発見しましたね。その曲をやり始めてから、ちょっとずつ変わり始めました。

―エロという作風がご自身にも合っていたということなのでしょうか?

そうですねと答えるのは、めちゃくちゃ恥ずかしいですね(笑)。 

―ですよね(笑)。

でも、エロを美しく歌いたいというのはありましたね。『私語と』には入っていないのですが、たとえば「エロ」という曲は別にエロいことを言わずに、そう思ってしまう相手の気持ちを使った歌詞なんですよ。《それ》とか、《アレ》というフレーズでわざとぼやかしていて、それを聴いてエロいと思った人がエロいという歌詞なんです。だから、エロは一方的にこっちが投げかけるだけの表現じゃなくて、相手の気持ちも半分ぐらいある。ある意味では共犯関係なんじゃないかと気づいてからは、楽な気持ちで書いていったりもしましたね。

―「東京日和」を読んで、ほのぼのとした世界観の中で、《青い空》と《蒼井そら》を掛けるのかって反応してしまう僕はきっとエロいんだと思います(笑)。今回収録されている75編の中で、特に思い入れや思い出のある歌詞はありますか?

やっぱり最新アルバムの歌詞が一番しっくりきてます。最近書いたから当たり前なんですけど。あとは、もう流通していないCDから選んだ「リン」や「イタイイタイ」は、今読み返してみてもその時の自分の感情の動きがわからない。そういう歌詞も大事だと思っていて、世の中に対して常に怒っていたり、バンドがまったく相手にしてもらえず、とにかく何か汚してやろうという気持ちで書いていた時期の歌詞は面白いです。今はもう、そういう気持ちでは書けないですからね。そんな歌詞がこうして残るとうれしいですね。

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