ポピー・アジューダが語る独学で培った個性、フェミニズム、トム・ミッシュとの共鳴

 
社会人類学、フェミニズムがひらいた道

―SOAS University of London(ロンドン大学 東洋アフリカ研究学院)で学んだそうですが、どんな学校なのか説明してもらえますか?

ポピー:SOASはイギリスで唯一、非西洋の世界に焦点を置いた教育を受けることができる特別な大学。だから私は、この学校に通いたかった。専攻したのは社会人類学。東アフリカの音楽、西アフリカの音楽、植民地主義、ジェンダー理論や色々なことについて学んだ。私は今、自分たちの過去やルーツ、文化を理解することによって、世界をどのように理解できるかについて音楽を通じて語っているけど、もし他の大学に通っていたら、それはできなかったと思う。性別や肌の色、自分が語っている場所のことをしっかりと理解できていなければ、それを語ることはできないから。異なる角度から物事を学ぶことで、自分の世界観や見方は変化するし、あの学校で勉強したおかげで、権利やセクシュアリティ、ジェンダーといった「自分が興味を持っている問題」や「自分の人生に実際に影響している問題」に対する理解と考え方が先鋭化した。学校にいた時期は、自分が何者なのか、世界の中で自分の居場所はどこなのかを探っている時期だった。


SOAS University of Londonの紹介動画

―SOASでどんなことを学んだのでしょう?

ポピー:音楽を専門的に学んだわけではなくて、私が学んだのは民族音楽学、基本的には音楽の人類学のようなもの。異なる文化の音楽と、そこで使われている楽器を調べて、それをどう使うか、音楽が文化的なコミュニティにとってどのように重要であるか、そのルーツを調べる学問だね。その中でも、西アフリカから伝わった楽器や音楽を理解することは、私にとってすごく重要なことだった。西アフリカから伝わった音楽がどのようにアメリカでブルースを生み出したとか、そういうことを研究していた。音楽がどこから来て、どのように私たちを助けてくれたのか。その研究の副次的なものとして、私は楽器を学んだ。タブラやシタールを習ったり、キューバン・ギターを少しかじってみたり、とにかく色んな楽器を試してみたし、インドのボーカルを学ぶ教室にも通った。それらは音楽の背景を理解するうえですごく役立ったと思う。

―特に印象に残っている授業は?

ポピー:フェミニストとジェンダーのコース。それまで知らなかった世界の見方を教えてもらえて、とてもインパクトがあったから。今でこそ、10代前後の子どもたちも何らかの形でジェンダーやフェミニズムについて教わっているかもしれないけど、当時の私は自分にとって納得のいく形で、世界を理解するための教育を受けさせてもらえているとは思っていなかった。だから、大学でクィアのアイデンティティやフェミニズムの歴史について学ぶことは、抑圧そのものや、抑圧に対する自分の感情を理解するために重要だったと思う。自分がなぜ怒りを感じているのか、その背景を理解するのは必要なことだと思うから。

授業では「こういう理由があるから私は戦うべきなんだ」というしっかりとした目的、その闘争がどれくらいの期間続いているのかを学ぶことができた。自分が抱えている苦悩をどこにもぶつけられないと、それに対処するのは難しいと思う。そして、理由や根本がわからなければフェミニズムに関する曲は書けないと思う。そういう意味で、フェミニストやジェンダーのコースは私に大きな力を与えてくれたはず。今、自分が曲にしている内容も、ポッドキャストで話していることもSOASで学んだこと。私はその知識をみんなとシェアしたいし、みんながそれをどう思うか知りたい。それを聞いて私の意見もまた変わるかもしれないし。



―社会人類学は幅広いトピックを結び付けながら、人類について批判的に考える学問ですよね。例えば、伝統的とされてきた文化のなかに潜む政治的な側面など、見えづらい構造に気づくことも多い学問だと思います。社会人類学のそういった「批判的」な側面は、あなたの音楽にどんな影響を与えているのでしょうか?

ポピー:音楽を社会人類学的に分析すると、その中に存在する文化に注目して、それを批判することになるわけだよね。例えば「LONDON’S BURNING」や「LAND OF THE FREE」といった曲は政治的な内容で、構造的な問題について、自分たちに何かできることはないかを考えたり、その問題について認識しようと語りかけている。「London’s Burning」は正にイギリスの政治やブレグジットについての曲。人々を操作するために分裂させるというやり方について触れている。意識したことはなかったけど、それは社会人類学でやろうとすることと一緒。自分の音楽でも、気づかぬうちにそういうことをやってきたと思う。



―音楽性にも影響を与えたと思いますか?

ポピー:サウンドに関しては社会人類学ではなくて、これまでロンドンで聴いてきた音楽に影響されていると思う。自分の周りにいる友人たちの音楽もそう。自分が何をしたいか、自分がどう音楽を作りたいかに初めてちゃんと気づかされたのは、「Steez」というイベントに参加した時だった。そこに集まったミュージシャンどうしでトレーニングしたり、新しいアイデアを試してみたりするんだけど、そこにいたのがモーゼス・ボイドやビンカー・ゴールディングだった。私はそこで、モーゼスがエレクトロ・サウンドを使った初めての単独ショーを見たし、私自身も同じステージで彼とプレイした。そこにいる全員が、自分がどんなサウンドを作りたいか、それをどう作り出すかを追求している場だった。キング・クルールもいたな。あそこでの経験は、私の今の音作りに影響していると思う。

それと歌詞に関しては、映画からも影響を受けている。「LAND OF THE FREE」を書いたのは、アダム・カーティスの映画『HyperNormalisation』(日本未公開)を見たあとだった。あの曲では、彼がドキュメンタリーのなかで何を語っているかを歌っていて、歌詞が長くてキャッチーじゃない理由もそこにある(笑)。あとは、これまで読んできた哲学者や理論家、社会人類学者の本。彼らのおかげで、そういった視点から世界を見てみるということを学ぶことができたから。



Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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