ポピー・アジューダが語る独学で培った個性、フェミニズム、トム・ミッシュとの共鳴

 
トム・ミッシュやUKジャズとの共鳴

―特に聞き込んだソングライターは?

ポピー:エイミー・ワインハウス。『Frank』がお気に入りのアルバムで、特にライティングについて影響を受けたと思う。当時は、自分のことばかりじゃなくて、もっと色々なことを考えて曲を書き始めた頃だったから。それまでは「音楽といえばラブソング」みたいな子供っぽい考えを持っていた。でも、エイミーの音楽を聴くようになって、自分の作曲スキルが鍛えられたと思う。あとはハイエイタス・カイヨーテのネイ・パーム。彼女の声は本当に大好き。それから、エリカ・バドゥやローリン・ヒルからも大きく影響されたと思う。今挙げた女性アーティストたちは、みんな歌詞が正直でリアルなところが共通している。リスナーが共感できて、アーティストと一緒にその世界に浸れるような音楽。アデルもその一人。曲を書き始めた頃に彼女の音楽に出会って、たくさんのインスピレーションをもらった。彼女がアーティストとしての私を形作ってくれたといっても過言ではないと思う。


ポピーにインスピレーションを与えた楽曲のプレイリスト

―作曲のベーシックなプロセスを聞かせてもらえますか?

ポピー:私の曲づくりの流れは、すごくオーガニック。その中でも重要なのは、挑戦への制限をかけないこと。ちゃんとしたやり方がわからなくても、挑戦することは絶対にやめない。やり方がわからないなかで自分なりにやってみるからこそユニークさが生まれることもあるから。「あのハーモニーの重ね方をどうやって思いついたの?」みたいに聞かれたりすることがあるけど、「偶然思いついたものを組み合わせたら、たまたまよかっただけ」なんてこともある。正直にいうと、私は音楽の伝統的な様式を理解していないから、正しいハーモニーの重ね方がわからない。自分がいいと思うサウンドをどうにかして作り出すことはできても、それが正しいとは限らなくて。でも、その無知さが逆に自由をもたらすこともある。

―作曲するときに使う楽器は?

ポピー:ギターは私が最初に習得した楽器だから、やっぱりギターで曲を書く時が多い。まずはギターを手にとって、その時のフィーリングや自分が創り出したい世界に合うコードを探していく。

でも、私の部屋にはピアノもある。友達がピアノの撤去作業の仕事をしていたことがあって。ある日、電話をかけてきて、「ポピー、ピアノいらない?」って。ピアノを置く場所なんてなかったし、そもそも当時の私はピアノを演奏できなかったんだけど、「くれるんだったらほしい!」と勢いでもらっちゃった(笑)。あれは素晴らしい選択だった。今もしっかり弾けてないかもしれないけど、このピアノで曲も書いているし、弾きながらコードを見つけたりしているから。「White Water」はこのピアノで初めて書いた曲。コードはすごくシンプルだけど、だからこそ曲の中で他の要素を進化させられるし、時には複雑にしすぎないほうがいいものができ上がったりする。

楽器は私にとって、素晴らしい曲を書くためのツールみたいなもの。自分の演奏には完璧さを求めていない。私の音楽における情熱の源は、歌詞とボーカルとメロディ。素晴らしいギタリストになれていないのは、自分自身がギターを巧く弾くことに興味がなかったからだと思う(笑)。



―先ほど「Steez」の話がありましたが、2018年のEP『Femme』ではジェイク・ロング、マックスウェル・オーウェン、オスカー・ジェロームなどと制作していますよね。その後も彼らやヌバイア・ガルシアやジョー・アーモン・ジョーンズとお互いの作品で共演し合っていて、ひとつのコミュニティのようにも見えます。

ポピー:彼らは「Steez」にいたメンバー。「Steez」はオープンマイク・ナイトみたいな感じのスペースで、いくつかのステージがあって。DJをしている人もいれば、パフォーマンスをしている人も、絵を描いている人もいる。とにかくジャンル不問で、アーティストがクリエイティブになれる空間だった。

私が通うようになったのは16歳の頃、「Steez」キュレーターのルーク・ニューマンが、Facebookのメッセージで招いてくれたのがきっかけだった。彼からメッセージをもらったときはすごく興奮した。私はとにかく、どこでもいいからギターをパフォーマンスできる場所を探していたから。あのときステージで着ていた服まで未だに覚えてるくらい(笑)。最初はすごく早い時間に出演して、オーディエンスはたったの5人。でも、その5人の中にいたのがジェイク・ロングとオスカー・ジェロームで、彼らもその日の出演者だった。それとは別の日に、ルークが私たちをフェスティバルに連れていってくれて、そのときはジェイクとオスカーのほかにマックスウェル・オーウェンもいた。で、そこにいたみんなに「私のバンドに入らない?」って声をかけて、そこから一緒に演奏するようになった。

ジョー・アーモン・ジョーンズは、私があるアーティストをサポートしていた時に、彼はそのバンドでキーボードを弾いていた。そのあと、彼から「君と一緒に音楽をやりたい」とメッセージが来て、一緒にコラボすることになったんだけど、そのときもすごく興奮したのを覚えてる。そこからジョーや他のミュージシャンたちとも知り合って一緒に演奏するようになり、彼らとの活動が私にとって実験的な挑戦をする空間になっていった。

―「Steez」が音楽活動の入り口として大きかったんですね。

ポピー:当時の私は、音楽家としてのバックグラウンドも経歴もなかったし、そもそもほとんどミュージシャンに出会ったことはなかった。私にとって音楽はもっとパーソナルなもので、学校の休み時間に音楽室で一人でギターを弾くとか、そんな感じだった。でも、彼らと出会って音楽を一緒に演奏するようになったことで、私はオープンになることができた。彼らは音楽専門の学校に通っていたり、音楽をしっかりと勉強しているけど、私はそうではない。音楽を専門的に学べる選択肢があることに気づけなったし、そこに導いてくれる人もいなかったから。ポップスターというのは、みんな自然な流れでスターになったと思っていたくらい(笑)。でも、彼らと時間を共有したことで、音楽の技術的な部分をいくつも学ぶことができた。だから、2019年にJazz FMアワードを受賞したとき、彼らに多くを教わったとスピーチで話すことにした。

―トム・ミッシュとも『Geography』で共演していますが、そのきっかけについて教えてください。

ポピー:トムのことは、実は高校時代から知っている。彼が音楽を作り始める前から知ってた。同じ友達の輪の中にいたんだけど、ある日、彼が誰かのショーでそのアーティストのためにギターを弾いているのを見て、そのとき初めて彼が音楽を作ることを知った。で、お互いそれぞれキャリアを築いていって、すでに知り合いでもあったし、同じ地域の出身で共通の友人もたくさんいたから、再び会うようになった。そしたら彼が声をかけてくれて、彼のベッドルームにあるスタジオに行って「DIsco Yes」を作った。そんな感じで、あの曲のコラボはすごくオーガニックだった。トムとは、その前にも数曲一緒に作ったことがあるしね。


Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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