ポピー・アジューダが語る独学で培った個性、フェミニズム、トム・ミッシュとの共鳴

 
『The POWER IN US』というタイトルに込めたもの

―ここからは新作『THE POWER IN US』について聞かせてください。まずは音楽的なコンセプトから。

ポピー:タイトルでコンセプトやテーマを表現したかったんだけど、いざ考え始めるとすごく難しかった。それぞれの収録曲がフェミニズムやメンタルヘルス、イギリスの文化、アメリカの文化といった異なるトピックに触れているから、あまりにも幅が広すぎて。結果的に『THE POWER IN US』と名付けた理由は、アルバムで語られているどのトピックに関しても、それを乗り越えるためには「みんなが一つになって生まれる力」が必要だと思ったから。前進したり、変化を起こしたりするためには団結して取り組む必要があるし、お互いを理解していなければならない。

だから、アルバムの多くの曲は「話を聞いてくれる人々」を求めているような気がした。例えばフェミニズムに関していえば、男性にも自分たちにできることがあるし、実際に変化を起こすためには彼らに話を聞いてもらうこと、彼らに助けてもらうことも必要。すべてにおいて会話と意思疎通が大切なわけで、どんな政治問題もそれは共通しているし、命令や説教をするのではなく、ここで私はそれについて一緒に話そう、意見を交換しようと投げかけている。

『The POWER IN US』というタイトルの通り、私たちには力がある。何かを改善させたいと思うなら、まず自分のなかにパワーがあることを知る必要があるし、このアルバムでみんなにパワーを届けたい、それぞれパワーを持っていることを知ってほしいという気持ちもあった。

―これまでの作品では起用してこなかった、新しいプロデューサーやミュージシャンが多く参加していますよね。

ポピー:たしか、「PLAYGOD」を作ったときにカーマ・キッド(Karma Kid)と出会ったはず。もしかしたら「WEAKNESS」だったかも。彼とはずっと一緒に作りたいと思っていたから繋いでもらって、(ジャズ・ギタリストの)トム・フォードと一緒に「PLAYGOD」を作った。あの曲はすごくフェミニストな感じなのに、男性二人と共作してるのも変だよね(笑)。でも、二人とは実りのある会話がたくさん生まれた。政治の話についても、そのトピックをどう思うかをお互いに語り合いながら曲を作った。その結果、私があの曲にどんなエナジーを求めているか理解してくれて、サウンドにディストーションを効かせたりして、すごくロックな仕上がりになった。これまで私の音楽はジャズから影響を受けたものが多かったけど、この曲がはSpotifyでもロックやインディのプレイリストにたくさん入ってた。そういうジャンルのプレイリストに入ったことは一度もなかったから、すごくクレイジーだと思う(笑)。



―「MOTHER SISTER GIRLFRIEND」はリズムも面白いですし、あらゆる楽器がループしながら少しずつ変化していってて、そこにコーラスが絡んだりする。かなり繊細に作られています。

ポピー:女性プロデューサーと共演するのは初めてだったから、この曲を作るのはすごく楽しかった。ウィン・ベネット(Wyn Bennett)という人で、彼女が手がけた作品(ジャネール・モネイ「Pynk」など)が好きだったからお願いすることにした。この曲では、「自分の道は自分以外の何か(他者や環境)によって決められるものではない」「(何かに決められていたら)そこから抜け出したい」といったことを歌っていて、それは私の人生と音楽の両方に共通するテーマだと思う。

この曲は、私が作ったループから生まれたもの。やり方がわからなくて、面倒臭くてマイクを繋げることさえ怠けていた私が、ようやくLogicを使って作り始めたのがこのトラックだった(笑)。ラップトップのスピーカーでギターのループを演奏したものをウィン・ベネットに聴かせて、そのあとハーモニーを録音して、それをループに乗せた。当時はファット・ホワイト・ファミリーをよく聴いていたから、ベースラインの存在感とかパンキッシュな感じは彼らから影響を受けている。あのベースラインは、私がこの曲にすごく必要としていたものだった。





―「DEMONS」はあなたの歌がスピリチュアルに響く曲です。よく聴くと後ろで聴こえる声が繊細にあなたの歌に寄り添っていて、かなり作り込まれていることがわかります。

ポピー:この曲もLogicで書き始めたもので、まずはコーラスから作った。ちょっと変わったハーモニーの重なりはニーナ・シモンっぽいと思う。インスピレーションになったのは、メンタルヘルスや人間のもろさを理解すること。私自身も過去にメンタルヘルスと闘ってきたことで、誰もが様々な(心を痛める)ことを経験していることに気づいた。ある人と会話をしていて、その人はいつもすごく明るいんだけど、私と同じように色々な経験をしていて、本当はもろい部分もあるということに気づかされた。そのとき、「彼のなかにもデーモンがいる」って言葉をスマホに書き留めたのが、この曲の出発点。

この曲では世界の厳しさが個人に与える影響について、思いやりや愛が存在する余地が欠けていることについて客観的に語ってる。それはつまり、「みんながもろくて、色々なことを抱えていてるんだ」ということ。他人がどんなことを経験しているかは表面だけではわからない。だから私たちは、もっと思いやりをもって、お互いに心を開く必要がある。そういうことを歌いたかった。



―ハーモニーという意味では「ALL FOR YOU」や「FALL TOGETHER」も面白いです。普通のハーモニーを作るだけでなく、複数の声を時に楽器的に使っていますよね。こういうアイデアはどこから来たものでしょうか?

ポピー:感情を形にしようとするとそうなるんじゃないかな。特に「ALL FOR YOU」はすごくパーソナルな曲で、ロックダウンの最中に書いたもの。自分をどのように表現し、どのように力を発揮していきたいのか、ここ数年ずっと考えてきた。以前の私は、女性ミュージシャンとして期待に応え、みんなを喜ばせるために、「ある枠」にあてはまらなければならないと思っていた。自分らしくあるのではなく、他人が望むようなアーティストになるため、あらゆることをしてきたと思う。でも自分が自分でない限り、「どうして私を愛してくれないの?」「なぜ私は全てを捧げているのに、それにふさわしい評価を受けることができないの?」と問い続けることになる。でも、今の私はそうじゃない。他の人たちのために自分を変えることはしない。ありのままの自分を受け入れることができれば、それが一番素晴らしいこと。「ALL FOR YOU」は社会との有害な関係を歌ったラブソングになっている。

この曲は、自分のスタジオで全て自分で書き上げた。適当に小さなマイクを使って、ボーカルを重ねたり、囁き声を加えてみたり、とにかく何度も思いつくかぎりアイデアを重ねた。私はハーモニーを重ねながら、感情を作り出そうとしていたと思う。自分でもそのアイデアがどこから来たのか答えはわからないけど、私はすごく感情的な人間だし、フィーリングを重視しているのは間違いない。フィーリングが音から伝わってこなければ納得がいかないし、あのバックのハーモニーがなかったら、自分がそのとき感じていたフィーリングを十分に表現できなかったと思う。



―最後に、先行リリースされた「Holiday from Reality」は日本でもラジオを中心にヒットしています。この曲のことも聞かせてください。

ポピー:ウェス・シンガーマン(Wesley Singerman)とテイラー・デクスター(Taylor Dexter:共に88rising関連など)と共に作った曲。二人ともLAに住んでいて、私がずっと共演したいと思っていた。彼らとの初めてのミーティングで生まれた曲で、「燃え尽きた状態」を歌ってる。彼らとセッションをする前日に、看板に「Do you need a holiday from reality?」(現実から休暇をとりたい?)と書かれているのを見て、「休みたい!」と思ってそれを書き留めていたんだけど、そのあとパンデミックがやってくるなんて当時は思ってもみなかった。

誰もが熱意や夢、目標を持っているし、それに向かって頑張っている。だから、「力尽きてしまうこと」は誰もが共感できるフィーリングだと思う。「この夢は持つべき夢なのか?」って自分に問いかけたりね。当時の私は、ニューヨークでショーを行い、LAでセッションして、ロンドンに戻って……と大忙しだった。そんなアーティストとしての当時の私の旅を表現した曲。「私は何かを伝えようとしているのに、みんな私の名前を正しく発音することさえできない。でもいつか、私の話を聞いてもらえる日がくるはず」と、アーティストとして耳を傾けてもらえる存在になる日を夢見てがんばる私の日々が歌われている。






ポピー・アジューダ
『THE POWER IN US』
発売中
視聴・購入:https://virginmusic.lnk.to/ThePower

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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