WONKが語る、結成10周年で到達した新たなスタートライン

WONK(Photo by Masato Moriyama)

 
「ありのままの、素朴な」という意味の単語をタイトルに冠したWONKのニューアルバム『artless』。SF的な世界観のコンセプトアルバム『EYES』を経て、もう一度楽器演奏の魅力にフォーカスしたという意味では原点回帰的だが、ドルビーアトモス対応の立体音響はやはり彼らがデジタルとも密接にリンクした、進歩的でモダンなバンドであることを伝えている。さらに、アルバムのラストには初の日本語詞曲「Umbrella」も収録。バンドのキャリアと時代の要請とが絡み合って、結成10周年を目前にまた新たなスタートラインに立った、彼らの歴史における重要作だと言えよう。

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あくまで自分たちの武器で

―先日ロバート・グラスパーについての取材で、最後にWONKの近況について少しお伺いした際に、「前作『EYES』(2020年)のときはそれぞれがプロデューサー的な役割で制作をしたけど、それ以降は荒田さんが軸の制作に戻した」というお話がありました。その理由について教えてください。

江﨑:『EYES』はコンセプトアルバムで、「架空のSF」っていう、自分たちの外側にコンセプトがあったけど、もう一度自分たちの中に軸を取り戻すという意味で、「荒田中心の制作に戻してみませんか?」という話を僕からしました。自分たちの過去の作品を振り返って聴いてみたときに、『From the Inheritance』(2015年)とか『Sphere』(2016年)には通底する何かがあったんだけど、『Castor』『Pollux』(共に2017年)以降はある種の器用貧乏さも出てきていたというか、「いろんなことができるのはわかったけど、メッセージは何なの?」みたいなことを思うようになっていて。で、その前後での一番の違いは、「昔は荒田が全部仕切っていた」っていうことだと思って、その頃の感じに戻してみるのがいいかなって……。

荒田:でも、やってみたら全然作れなくて(笑)。ボツになった曲を聴き直すと、「意外といいかも」とは思うんですけど、あんまりチャレンジングではないというか……それで「Pieces」(2022年3月のシングル)は半年以上リリースが遅れちゃって。


6月10日に公開された『artless』を体現する一曲「Migratory Bird」のMV。井上幹がディレクション、スーパー8mmフィルムで撮影。

―おそらくはその試行錯誤のなかで、『artless』にも通じる楽器演奏の魅力を徐々に再確認していったのではないかと思うのですが。

井上:徐々に見えていったというよりは、最初は「一回みんなで会ってみれば何とかなるっしょ」くらいの感じだったかな。

江﨑:そうね。荒田がスランプに陥ってたのは、とにかくいろんなことをやってたので、純粋に弾切れなんだろうなと思って。

荒田:焼き増しになっちゃってたんですよ。ソロもやってるし、kiki vivi lilyもやってるし、『EYES』では様々なことをやりまくって。そこからまた「新曲作ろうぜ」となっても、ただの焼き増しな感じになっちゃうのが嫌で。ファーサイドとかスラム・ヴィレッジとかの「俺たちは今までやってきたスタイルをやり続けるだけ。それでレガシーになっていくぜ」みたいな感じはめっちゃかっこいいけど、まだ我々はそういう思想ではなくて。(打開策として)カバーアルバムというアイデアもあったんですが、それもまだ時期が早いかなって。じゃあ、何をしようかと考えたときに、みんなで無理せず演奏するのがいいと思ったんです。正直今まではちょっと無理した作品も多かったんですよね。ライブでお客さんを盛り上げるための曲とか……パリピは長塚さん一人しかいないにもかかわらず(笑)。

江﨑:これまでは学習というか、「知らないものに触れてみる、作ってみる」みたいな気持ちが強かったけど、今回の作品は「あくまで自分たちの武器で戦ってみる」というか、「培ってきたものを出す」みたいな作品かもしれないですね。あとは、『Castor』『Pollux』から『EYES』までの流れを俯瞰で見たときに、「バリバリの打ち込みはちょっと疲れちゃったな」みたいなところもあって。なので、(『EYES』のあとに発表された)「FLOWERS」はまだその要素も残ってましたけど、「Pieces」は角田(隆太:モノンクル)さんにホーンのアレンジを書いてもらって、せーのでレコーディングして。生の楽器を演奏するってやっぱりいいな、すげえことだなっていう思いがまた強くなったのもあったかもしれないです。

荒田:だから『artless』に関しては、打ち込みのドラムも使わず、シンセも弾き過ぎず……それこそ昔、藝大で録ったときみたいな(笑)。

江﨑:WONKのPAをやってくれてる染野(拓)くんがもともと後輩で。ホントはダメなんですけど「ピアノ、こっそり録れない?」と声をかけて、荒田にもこっそり藝大に来てもらって。そしたら2人が高校の軽音で先輩後輩の関係だったりしてね。

荒田:各々MIDIで録るんじゃなくて、別々ではあったけどちゃんと生で録ってて、そこに戻ってきた感覚はある。でも、これまでいろんな道を通ってきたから、「第二幕」みたいな感じがします。それぞれの得意不得意、好きなサウンド感とかもわかったし、メンバーだけじゃなくて、一緒にやってる安藤(康平:MELRAW)さんとか(小川)翔さんとかチーム全体の特性もわかった上で、「じゃあ、何ができるだろう?」っていうのがこれからで、まだまだできることはたくさんあるだろうなって。

―螺旋階段のたとえがぴったりかもしれないですね。『EYES』で一旦行くところまで行き切って、一周して元の場所に戻ってきたんだけど、一段階上の場所にいるっていう。

荒田:まさにそれですね。そのたとえ、これから使います(笑)。

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