WONKが語る、結成10周年で到達した新たなスタートライン

 
『artless』の日常感、音作りの挑戦

―前半の「Cooking」や「Migratory Bird」では井上さんがアコギを弾いていて、その音色からも肩の力を抜いてリラックスして制作したことが伝わってきます。

井上:「Migratory Bird」はギターの弾き語りでいい曲を作ろうと思ってできた曲なんですけど、「Cooking」にアコギを入れようって言ったのは荒田でした。『artless』はシンセや打ち込みをなるべく使わずに、楽器で生演奏することがテーマとしてあって、そうなったときに曲の表情を出すのは楽器の音色だと思っていて。なので、この2曲はアコギの持つ明るい音色のイメージが合ったというか、「Cooking」の朝のイメージとも合うし、「Migratory Bird」の前向きに進んでいく歌詞のイメージとも合うなと思って。


井上幹(Ba) Photo by Masato Moriyama

―荒田さんが「Cooking」にアコギを入れたいと思ったのはなぜですか?

荒田:ネオソウルっぽい曲は一曲作りたかったんですけど、ローズでフワッとやっちゃうとリズム要素がなさ過ぎちゃうので、幹さんに「アルペジオっぽい弾き方で、細かいパッセージを出してほしい」と言って弾いてもらいました。

―「Cooking」の歌詞は長塚さんそのままなんじゃないかという気もしますが。

長塚:そうですね。朝起きて、日差しを浴びながらコーヒーを飲んで、朝食を食べて、チルして……自宅での過ごし方を考える時期が長かったから、それもあってイメージしやすかったっていうのはありますね。

―『EYES』のSF的なコンセプトに対して、『artless』は日常感みたいなものが通底しているなと。

長塚:『EYES』のときはみんなで脚本を書いて、そのストーリーに沿って歌詞も書いて、自分の日常からはかけ離れていたので、今度は日常の風景を書きたいっていう気持ちはずっとあって。だからこそ、より自分の目で見た景色だったりとか、人との関係性を切り取って歌にしたりとか、そういう楽曲が集まった作品になりました。



―ちなみに、本作は立体音響技術のドルビーアトモス対応になっていますが、アレンジの段階で立体音響を意識していたのでしょうか?

江﨑:合宿に入る前からその話はしてました。でも、(ミキシングを担当した)幹さんの中では不安があったんですよね?

井上:『artless』というタイトルこそまだついてなかったんですけど、自分たちの等身大でできることをやるっていうテーマで、よりシンプルなものを作ろうっていうみんなの共通認識がある中、「シンプルな立体音響ってどういうこと?」っていうのは悩みましたね。でもそこで、うちのマネージャーが「音源にはないライブならではの情報量がある」っていう話をしてくれたんです。同期を使わない限り音源よりもライブの方が音数は少ないけど、「どこからどの音が聴こえる」っていう、位置情報とあいまったライブの楽しさがあると。なので、そういうライブでの楽しさを味わえるような立体音響の使い方をしようと思ったんです。ドルビーアトモス用に再ミックスされた(マーヴィン・ゲイの)『What’s Going On』とかもすごくライブ感があって、こういうことだなって。

―「立体音響」と聞くと何となくエレクトロニックなイメージがあって、シンセを使った「Butterflies」にはそういう印象もありますけど、アルバム全体としては音源でもライブ感を現出させるための使い方をしたと。

井上:そうですね。ある種のアトラクション的な、映画チックな立体音響もあると思うんですけど、全体としてはライブ感が出るように作りました。


江﨑文武(Key) Photo by Masato Moriyama

―「Euphoria」はヒップホップ感がありつつ、音数はかなり絞られていますね。

井上:「Euphoria」が頭のなかで出来上がってきたときに、この曲は一番シンプルに何もしない曲にしようと思ったんです。ミュージシャンは誰しも音数が少ないと不安になると思うんですけど、荒田のビートと僕のベースだけでもいいと思ったし、そこにプラスして文武のワウをかけたアップライトピアノっていう唯一無二の音が入って、それだけでええやんっていう気持ちになりました。

―プラグインでいろんな音が作れてしまう時代だからこそ、楽器を使って自分たちだけのオリジナルな音色を作るというのは非常に意味のあることですよね。

江﨑:レコーディングではいつも僕がソロでやってる設定のまま組んでもらって、アップライトピアノにフェルトを挟んで、機構の音が聴こえるようなマイキングにしてもらって。で、いろいろ考えたときに、自分が今一番突き詰めてることと、バンドでやりたい表現を思いっ切りぶつけちまえと思ったんです。それで、ポストクラシカルの文脈では当たり前に使われてるアップライトピアノのミュート仕様のものにネオソウルっぽくワウをかけて……ネオクラシカルソウル、みたいな(笑)。

―生々しい音をそのまま活かすのと、エフェクトで音色をいじるのと、ある意味対極のアプローチですよね(笑)。

江﨑:そうなんですよ。エンジニアさんにも「これにワウかけてもらっていいですか?」って言ったら、「何それ?」って言われましたけど(笑)。やってみたらすごく面白いものになって、採用になりました。

井上:今までのWONKだったら、この曲のベースができたら、絶対ギター、クラビネット、ホーンと入れて、サビにちょっとオルガンも入れてたと思うんですけど(笑)、今回はそれを極力なくして。その代わり、立体音響とか、細かい音作りで聴いてほしいポイントを作った感じですね。

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