フジロック×サマソニ運営対談2022 洋楽フェス復活への「試練と希望」

IPAJという収穫、円安という危機

―コロナ禍におけるポジティブな話といえば、招聘プロモーター10社による協力組織「インターナショナル・プロモーターズ・アライアンス・ジャパン」(以下、IPAJ)が2021年5月に設立されましたよね。前回の対談でも「日本の洋楽文化を守るため、フジとサマソニは手を取り合っていこう」という話がありましたが、来日公演の早期再開に向けて、より大きな横のつながりが生まれたという。

安藤:以前から現場レベルでは情報交換とかしてたんですが、(競合である)プロモーターどうしで密にコミュニケーションをとり、それぞれが来日公演を成功できるよう協力していこうという考え方は、今までなかったと思うんですよね。

―スマッシュとクリマン、キョードー東京、ウドー、H.I.P.、M&Iカンパニー、プロマックス、エイベックス、ビルボードジャパン、Live Nation Japanが手を取り合う。一昔前までは想像しづらかった光景です。

安藤:日本の音楽産業は今でもアメリカに次ぐ世界2位ですが、そのなかでいわゆる洋楽の占めるシェアは10パーセント前後と、そこまで大きなものではない。そのなかで生き残っていくのは大変ですし、何よりプロモーターが一社なくなれば、それだけ来日公演が減ってしまうわけじゃないですか。僕なんかは本当に洋楽が好きでこの業界に入ったので、そうなったら寂しいし、こういう動きが生まれたのはすごく画期的だと思いますね。

―来日公演の中止・延期は1年近く支援事業の対象外でしたが、招聘プロモーターが一丸となって政府に要望し、ようやくJ-LODliveの対象として認められた。そのアクションがIPAJ設立につながったと伺っています。

高崎:それこそ、政府に働きかけようにも、これまではそのルートがなかったんですよ。そこでIPAJを立ち上げ、スーパーソニックやキング・クリムゾンなどの実績を積み上げていくことで、今年はこうして呼べるようになったという経緯があるわけです。

―いち企業が政府に働きかけるのは難しいけど、業界団体としてならアプローチできると。

安藤:まさしく。他にも、コロナ禍におけるビザ取得といったノウハウを共有したり、ブッキングや会場のことまで、みんなでサポートしながらやっていこうと。

高崎:ずっとイベンターはバチバチでやってきましたが、みんなで集まって話し合える環境が整ったことで、業界にとっても、洋楽文化を盛り上げるためにも、すごくいい循環をもたらすのかなと思ってます。


フジロック(Photo by 宇宙大使☆スター)

―来日公演がストップしたことで、ここ数年は洋楽文化も停滞感がありましたよね。前回の対談でも「海外で売れてるけど日本には呼べない」ケースが増えているという話がありましたが、海外の動きはどのように見ていますか?

高崎:去年10月くらいからフジのブッキングを始めていたんですけど、海外のエージェントと話していても、アメリカやイギリスはやる気満々。空白の2年間を経て、2022年はあらゆるアーティストが動きそうな勢いで、スケジュールも激しく動きまくっていて。それならリスクを背負ってでも、2022年は洋楽フェスをやろうと。そこから隔離やキャパ制限などいろんな可能性をシミュレーションしながら用意を進めて、今に至るという感じです。

安藤:海外の動きはすごかったですよね。先ほども話したように、海外がどんどん通常に戻っていく一方で、日本はなかなか規制が緩和されない。そうなるとアーティストやバンド、特にモッシュやシンガロングで盛り上がるタイプとか、一部のジャンルは呼びづらくなってしまう。そうこうしているうちに、スケジュールも埋まって来日できなくなる……そういう状況にならないか心配しています。

―そんなふうに鎖国状態が続くと、取り返しのつかないレベルまで溝が広がりかねないですよね。

安藤:それもまさしく心配しているところで。日本に来るのを足踏みするような状況が起きなければいいなと。

高崎:またネガティブな話になっちゃうんですけど……円安がすごいことになってますよね。ウチもクリマンも、フジ/サマソニの予算立てを110〜115円で組んでいたと思うんです。でも、今は約130円じゃないですか(今年6月時点)。10円とか15円とかズレてきちゃうと計算が全部狂うんですよね。

フジは7月末ですけど、今年の夏、その先の年末や2023年はいくらになってるのかまったく読めない。今は130円で予算を立てたけど、年末に145円になってたりしたら、そこの数円の差で利益を稼いでたのがなくなってしまう。経営にも相当関わってくる話だし、これ以上円安が進んだら、今までやってきたフェスみたいなラインナップなんて無理じゃんっていう。今までどおりに戻そうと思ったら、コロナに匹敵しそうな敵が出てきて、ちょっと途方に暮れてるというか(苦笑)。

安藤:思いもよらない懸念事項が、急に出てきた感じですよね。

高崎:これは大変な問題にぶち当たってるなーと。小麦粉も石油もみんな値上がりしてるじゃないですか。でも、ウチは(フジのチケットを)値上げしてないですもん。

安藤:今から値上げできないし、ギャラも変えられないし(苦笑)。


©SUMMER SONIC All Rights Reserved.

―他にも低所得化など、日本経済の停滞がそのまま影響を与えてきそうですね。

高崎:ジャスティン・ビーバーのドームツアー(今年11月9日〜17日)は即完売しましたよね。お客さんも「これは見たい!」というチケットは買うけど、よっぽど好きじゃないと買わなくなってきた気がします。だから、ドームや武道館レベルは大丈夫だと思うけど……。

安藤:ライブハウスやクラブツアー規模のアーティスト、新人や中堅どころが厳しくなるかもしれない。

高崎:少し話がズレますけど、新木場STUDIO COASTとZepp Tokyoがなくなりましたよね。

安藤:あの二つは、洋楽文化にとっても大事な会場でしたよね。

高崎:だから会場探しもハードルが高くなっていて。これも悩ましいですよね。海外からもっと呼びたいけど、「この日程どうだ?」と言われて「いや、無理」「本当に探したのか?」「探したよ」みたいな(苦笑)。

安藤:そうなんですよ。これは常について回る問題なので、IPAJでもうまく協力していきたいですね。

高崎:むしろ、IPAJで会場を作ってほしい(笑)。

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