THE NOVEMBERSが魅せた、覚醒したバンドの生々しさと美しさ

音楽性の変化に従い、まずは演奏力が飛躍した。複雑なシーケンスを同期させつつ、生バンドの迫力を失わない4人の完璧なプレイ。もちろん一朝一夕のことではなく、近年の完成度には毎回背筋が伸びる思いだったけれど、今回のファイナルは跳躍力のレベルが違っていた。シリアスな緊張感もプロ意識もあるが、ちょっとしたミスも笑って許容しあう余裕と安定がある。集中しながらも肩の力は抜けている。大量のエフェクターを操りながら、何度もふわりと飛び跳ねているケンゴマツモトの佇まいがそれを象徴していた。


ケンゴマツモト(Gt)

最も変わったのは小林祐介だ。おそらくBOOM BOOM SATELLITES中野雅之との新バンド、THE SPELLBOUNDからのフィードバックが相当に大きい。隙のない歌唱力、楽曲の世界観を語り尽くす表現力、バンドと観客を天国へと導いていく牽引力。ハンドマイクになった「New York」以降はもはや彼の独壇場で、「楽園」から「KANEDA」のカバー、そのまま「BAD DREAM」になだれ込む瞬間は気持ちよすぎて何度も意識が遠のく。ビートに導かれて身体ごと投げ出したくなる剥き出しのエネルギー。目の前には、両手を高く掲げて舞い踊る、神々しいまでのロックスターがいた。


高松浩史(Ba)

なんだかもう、完全に覚醒した生き物を見ているようだった。数々の先人の影響を引きずりながら時間をかけて作り上げたバンドのオリジナリティが、生々しい肉体を持つ個体として現れた感じだ。小林祐介は顔であるが、ケンゴと高松、吉木の3人がいないと当然成立しない。轟音の中でまったく乱れないその呼吸の美しさ。ノイズに不快感はなく、むしろどんどん綺麗なものに近づいていく実感だけがあった。そういえば、ラスト手前、「いこうよ」(2016年『Hallelujah』収録)から抜粋されていた歌詞は以下である。

“愛なき世界を爆音で震わせる 君の何かが変わる”

Rolling Stone Japan 編集部

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