ビヨンセ『RENAISSANCE』全曲解説 開放感に満ちたニューアルバム最速レビュー

 
12. THIQUE|シック

控えめなボーカルながら「ぶっとく、厚く」を提唱する。豊満ボディはもちろん、稼ぎや人生も豊満じゃなきゃ、というわけだ。セクシーでトリッピーなハウストラックは、ヒット・ボーイがプロデュース。


13. ALL UP IN YOUR MIND|オール・アップ・イン・ユア・マインド

Bahことジャバー・スティーヴンスが共作とプロデュースで参加した、マシーナリーなトラップ。ビヨンセのオルターエゴのサーシャ・フィアース、ヨンセの面影がチラッと見えた気も。ジャスティン・ビーバーやレディー・ガガを手掛けるブラッドポップ、チャーリーXCXの盟友A.G.クックが参加。


14. AMERICA HAS A PROBLEM|アメリカ・ハズ・ア・プロブレム

夫ジェイ・Zが曲作りで参加し、ザ・ドリームがプロデュースを担当。ドラッグと愛を天秤に掛けながら歌われていて、歌詞の中には麻薬王トニー・モンタナの名も登場する。彼を主人公にした映画『スカーフェイス』(1983年)で音楽を担当したのは、ラスト曲にもクレジットされているジョルジオ・モロダー。レトロなシンセが、彼へのオマージュのように思えるのは、気のせいだろうか。


15. PURE/HONEY|ピュア/ハニー

ブラッドポップ、ノヴァウェーヴ、ラフェエル・サディーク参加のアンダーグラウンド・ハウス。2部構成で、様々な要素を鏤めながらディープにセクシーに展開。Moi Renee「Miss Honey」から、ケヴィン・アヴィアンス「Cunty」まで、ゲイクラブの鉄板アンセムのサンプリングが登場する。


16. SUMMER RENAISSANCE|サマー・ルネッサンス

おそらくディスコの女王ドナ・サマーに敬意を表して付けられた曲名でもあるはず。ドナとジョルジオ・モロダーの名コンビによる多数のヒットの中でも、ここで引用されている「I Feel Love」は、特にゲイクラブで愛されてきたナンバーだ。数え切れないほど多くのリミックスが作られているが、エレクトロサウンドの恍惚感や浮遊感だけに頼らないこのアレンジは、とても新鮮だ。ノヴァウェーヴ、マイク・ディーンがプロデュースを担当。ラストに相応しい大団円でアルバムは幕を閉じる。


以上、全16曲を駆け足で解説させてもらったが、ビヨンセは「このアルバムを聴いて、楽しんで、とにかくみんなに体を動かしてほしいの」と語っている。LGBTQコミュニティの人々が抑圧されながらも、アンダーグラウンドのゲイクラブで発散してきたように、コロナ禍で我慢を強いられてきた我々も、再び生きる喜びを満喫しようではないかと。つまり、(全3部作の第一幕となる)このアルバムはコロナ禍からの“ルネッサンス”=再生/復興であり、新たな出発点なのだ。ステージからパフォーマンス、インスタまで常に完璧主義の彼女が「完璧主義から開放されましょう」と提言しているのには驚いたが、アルバム全編には、いつになく伸びやかで開放的な歌声が溢れている。

(文:村上ひさし)




ビヨンセ
『RENAISSANCE|ルネッサンス』
2022年7月29日(金)世界配信・輸入盤発売 *国内盤追って詳細発表予定
アルバム音源再生リンク:https://smji.lnk.to/BeyonceRenaissance

【収録曲】
1.I`M THAT GIRL|アイム・ザット・ガール
2.COZY|コージー
3.ALIEN SUPERSTAR|エイリアン・スーパースター
4.CUFF IT|カフ・イット
5.ENERGY feat. Beam|エナジー feat. ビーム
6.BREAK MY SOUL|ブレイク・マイ・ソウル
7.CHURCH GIRL|チャーチ・ガール
8.PLASTIC OFF THE SOFA|プラスティック・オフ・ザ・ソファ
9.VIGRO`S GROOVE|ヴァーゴーズ・グルーヴ
10.MOVE feat. Grace Jones, Tems|ムーヴ feat. グレイス・ジョーンズ,Tems
11.HEATED|ヒーティッド
12.THIQUE|シック
13.ALL UP IN YOUR MIND|オール・アップ・イン・ユア・マインド
14.AMERICA HAS A PROBLEM|アメリカ・ハズ・ア・プロブレム
15.PURE/HONEY|ピュア/ハニー
16.SUMMER RENAISSANCE|サマー・ルネッサンス

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE