フジロックで名演、Dawesが語るジョニ・ミッチェル復活劇と音楽的チャレンジ

ミュージシャンとしての姿勢、影響を受けた人物

—最新作のタイトル『Misadventures of Doomscroller』にある“Doomscroller(スマホやパソコンでネガティブなニュースを読むことに時間を費やしてしまう人)”という言葉の意味を初めて知って、私もそうかも、と思ってしまったのですが……。

テイラー:僕もだよ(笑)。

—今の世の中においては、“Doomscroller”になってしまうことを避けられない面があると思います。自分も含めた“Doomscroller”に対して何らかのステイトメントを発したいという意味でのこのタイトルなのでしょうか?

テイラー:自分もその一部だし、避けられないことだとも思っている。だけど、僕はどんな人に対しても、ジャッジはしたくないんだ。重要なのは付き合い方だよね。ニュースの内容を選んだり、どんなフィードを信じるか。SNSとの付き合い方を見直すことはできると思う。SNSは、ドラッグ中毒と同じように作用するから注意が必要。僕たちと、コンテンツやニュースフィードやソーシャル・メディアとの関係に規律が与えられたらいいとは思う。見ることも、知ることもいいことだけど、付き合い方を考えたいね、というのを僕の一意見としてタイトルにしたんだ。

—「ジャッジをしたくない」というのは、あなたのミュージシャンとしての姿勢にもつながりそうですね。

テイラー:かつてチェーホフは、「文学というものは答えを与えるものではなく、疑問を与えるものだ」と言ったけど、僕がやりたい音楽もそれなんだ。白か黒の音楽ではなくて、人に何かを問いかけるような音楽を作りたいと思っている。なぜなら、それをすることによって、人々の会話にインスピレーションを与えられると思うし、会話の助けになると思うから。何かを受け入れることで僕たちの世界は広がると思うし、みんなで一緒に探求していきたい。「この大統領はとんでもないやつだ、クレイジーだ」と批判するだけでは、そこで世界が止まってしまう。お互いに愛し合うものたちが一緒になって何かをしていくことで、世界はより良くなっていくと思うよ。お互いにインフォメーションを与え合うことで会話は成立する。あと大切なのは、オープンでいること。誰かが自分の家のテーブルの上にゴミを置きっぱなしにしていたとする。それを見て自分は怒鳴るんだけど、なぜそれがダメなのか、自分がこれをどう思っているのかを相手に伝え、それを相手はどう思うかから会話が始まって、考え方を深め合うことができると思うんだ。そんな感じで自分の音楽もみんなに送り出せたらいいな、と思う。


Photo by Hachi Ooshio

—デビューして15年近くなりますが、この間、多くの人たちとのコラボレーションを実現させてきました。ジャクソン・ブラウン、フィル・レッシュ、エルヴィス・コステロ、デヴィッド・ロウリングス……など。こうした人たちとの共演は全てが貴重な機会だったと思いますが、特にあなたが大きく影響された人はいますか?

テイラー:デイヴ・ロウリングスはすごく信頼できる人。僕が自分のギター・プレイに納得がいかなくて自信をなくしたときも、彼は「大丈夫だよ、うまくできてる」と言ってくれる。彼のような人にそう言われて自信を取り戻すことができたんだ。エルヴィス・コステロやベンモント・テンチのように何十年という長い間音楽業界で仕事をして作品を作り続けているというのは、特に今の時代には刺激をくれるよ。1枚アルバムらしきものを作ったらそれでおしまいみたいな人も多いからね。僕らは、コステロのように長く作品を作り続けられるバンドになりたい。新しい曲を作り続けたい。メディアの人には悪夢かもしれないけど(笑)。作り続けることが夢だし、その先に何があるかは、先輩たちが見せてくれている。だから、そこについて行きたいと思う。

—今春リリースされた、奥様であるマンディ・ムーア(シンガー・ソングライター、女優)の最新作『In Real Life』にも全面協力していましたが、夫婦デュオを組んでみよう、なんていう構想はないのでしょうか?

テイラー:それはいつも話しているんだ!! “マンディとテイラーのアコースティック・ショウ”みたいなね。いつ実現するかわからないけど、それも夢のひとつだよ。



1時間足らずの取材ながら、彼がなぜいつも“いいところ”にいるのか、その理由がわかった気がする。ソングライター、ギタリスト、シンガーとしてのスキルはもちろんだが、この人柄は大きいだろう。朗らかで気さくで真面目で愛嬌もある。いわゆる愛されキャラ、というやつだ。年内には第二子も誕生する予定で、公私ともに充実の36歳(この8月16日で37歳になる)は、まだまだ何かをやらかしてくれそうだ。

フジロックでの出番が終わった後、オアシス・エリアでタイ焼きそばの屋台に並ぶドーズ一行に遭遇した。「ドーズ・ヒストリーな選曲で、最高に楽しかった!」と伝えると「僕たちもすごく楽しいステージだった!!」とメンバー口々に言ってくれて、大いに嬉しい気持ちになった。ちなみに、完売したフジロック限定Tシャツ(日本愛は感じられるけどちょっとデザインがやばいやつ)は、バンドに同行していたスタッフのデザインだそうだ。




ドーズ
『Misadventures of Doomscroller』
発売中
日本盤:SHM-CD仕様、ボーナス・トラック1曲収録、歌詞対訳&解説付
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/Dawes_sec

Translated by Miho Haraguchi

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