ミューズが語る「最新形ロック」の追求、クイーンへの愛と壮大なテーマの背景

 
「3人の音」にフォーカス、壮大なテーマの背景

例えば、スティーヴン・キングの作品を参照し、DV被害者の視点から歌詞を書いたという「You Make Me Feel Like It’s Halloween」は、ハワード曰く「シティ・ポップ」から影響を受けた一曲。実際、筆者が7月まで滞在していたロンドンでは、70年代や80年代の日本のレコードが店頭で売られていることも少なくなく、彼らがそうしたサウンドを取り入れようと思うのも自然なことのように思える(ただし、そのサウンドは日本的なソウル〜ファンク寄りのものというより、同時代の英米のシンセ・ポップに近い印象もある)。

一方で、アルバムのサウンド全体としては、ギター、ドラムス、ベース、そしてピアノといった3人の演奏する楽器の音そのものにフォーカスが置かれているようなタイトさも感じられる。

「アルバムを作るとき、大抵は前作と比較するようにしているんだ。つまり今回は前作(『Simulation Theory』)からのリフレクションということになる。今回は僕ら各々のパートにフォーカスし、クールなサウンドを出せるようにした。そういう意味では、余分なものが取り除かれている、と言えるね。前作では──必ずしもバンドが演奏していたわけではない(笑)──シンセとオーケストラを使用していて、それはそれで良い効果があったと思う。でも、今回は本物のバンドの音に威厳を持たせるようと思ったんだ」

ハワードは新作のレコーディングにおける自分の役割を、レコーディングを見守る「ヘルプフル・ベア」(※)に例える。「僕は常にオープンでいることを心掛けて、どのように感じるかをマット(マシュー・ベラミー)に正直に伝えるようにしたんだ。その曲を聴いて、ハッピーになるのか悲しくなるみたいな心のエモーションだけでなく、この曲ではジャンプしてノレるかというような、身体のエモーションに関しても。最終的には、マットと僕の両方が納得のいく形にしたんだ」

※米アニメ、シンプソンズに出てくるシンガーソングライター、ルーフィーの曲、"Helpful Bear on the 28th Floor"からの引用




ミューズと言えば、毎回ビジュアル等、音楽以外の面でも情熱的に作品のコンセプトを表現してきたバンドだ。今回も表題曲の「Will Of The People」をはじめ、壮大で謎めいた世界観を持つビデオをアルバムに先立って続け様にリリース。また今年3月には、バンドのInstagramで新作のリリースに向けたステートメントを発表している。

"「Will Of The People」はロサンゼルスとロンドンで制作され、世界における不確実性と不安定性の高まりに影響を受けています。 パンデミック、ヨーロッパでの新たな戦争、大規模な抗議と暴動、内乱の試み、揺らぐ西側民主主義、権威主義の台頭、山火事や自然災害、世界秩序の不安定化など、すべてが「Will Of The People」に影響を与えました。 (3月のステートメントより一部引用)

ハワードはその真意について、歌詞はマシュー・ベラミーの領域だとしつつも、次のように説明する。「過去3年間は、本当に奇妙な時期だったよね。これはバンドにとってだけではなく、誰もが今まで経験したことのない時期を乗り越えなきゃいけなかった。マットはそれを感じ取っては徐々に歌詞に落としていく、という作業を行ったんだ。いま世界中で起こっていることを、ただ批判するだけではなく、多少仮説化したり、フィクション化しながら歌詞を書いていく。マットにとってはそれが自然な方法なんだよ」

Translated by Mami Kondo

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE