ミューズが語る「最新形ロック」の追求、クイーンへの愛と壮大なテーマの背景

 
クイーンへの愛、誇大的コンセプト、日本への想い

ミューズはかねてよりクイーンへのリスペクトを公言しているが、「Liberation」のコーラスのアレンジをはじめ、新作では直接的な彼らへのオマージュを感じる曲も少なくない。そして、そのクイーンもまた「Bohemian Rapsody」などでシリアスなテーマをポップ・ソングに変えてきた“達人”だ。

「クイーンは偉大だよ。恐らく僕にとっては永遠のフェイヴァリット・バンドだね。子供の頃、多分8歳くらいの時に『Radio Ga Ga』を聴いてからのファンなんだ。僕は、クイーンと僕らには何らかの類似性があると思っている。クイーンのすごいところは、失敗を恐れずにエクスペリメントなことに挑戦し続けていること。1枚のアルバムに、あんなに色々なバックグラウンドがあって、曲もバラエティーに富んでいる。彼らの作品には、いつもインスパイアされているよ。(他のメンバーも含めて)クイーンを嫌いな人なんていないでしょ!」

ハワードとバンドのクイーンへの愛は本当に強く、2018年の映画についても、続けてこう熱く語る。

「観たなんてもんじゃないよ。泣いたよ!(大笑い)多少フィクションが混ざっているとは分かっていてもね。ウェンブリー・スタジアムのライブエイド! クイーンは大成功を収めたバンドだって言ってしまえばそれまでだけど、あの時点ではバンド内では軋轢もあったし、フレディーもソロ活動をしていた。(略)でも、あのライブで彼らはカムバックしたんだ。あの感覚は僕も同じようにエモーショナルに感じることができた。バンドとしてまた一緒にプレイできるっていう感動をね。しかもフレディーが亡くなって30年以上だった今でも、バンドとして威厳を保ち、走り続けているバンドなんて他にいないよ」

ハワードがそう言うからとわけではなく、実際にミューズはクイーンと共通点の多いバンドだ。ロックからシンセ・ポップやディスコからオペラまでを網羅しようとする創作におけるベクトルの幅広さや、エモーションを包み隠さずに表現しようとする作品やステージ上での態度に加えて、ロック・バンドとしての挑戦心とチャート上での成功を両立している点も同じ。そして、そうであるがゆえに“真面目”な音楽ファンからはどこか敬遠されてしまう、というところも似ている(ハワードとは違い筆者の見方では、クイーンも“色ものバンド”的な見方を、この20年間でジワジワと変え、評価を不動のものへと昇華してきた面があるように思う)。


Photo by Nick Fancher

一方のベラミーは新作に関する『NME』のインタビューの中で、気候変動やBLMなどに加えて、「メタ中心主義(Meta-Centrism)政治(※1)」への期待や、「負債サイクル(※2)」への懸念といったことについても語る。もちろん筆者のような凡人とは住む世界が違うので、彼の言葉を文字通り受け止めるわけにもいかないのだが、しかし、いずれにせよ、こうした“誇大的”とも言えるコンセプトについて考え、あまつさえロック・レコードにしてしまおう、という発想全体が、ミューズというバンドを彼らたらしめている個性さだと言えるだろう。

※1:ベラミーいわく、個人についてはリベラルで自由主義的な価値観が適用される一方で、土地や自然環境、エネルギー資源には分配ベースの社会主義的な価値観を適用する考え方。
※2:継続的な借入れにより、負債が増加し、コストが増大し、最終的に債務不履行にいたること。この場合は、現在の世界全体の経済システムの不安定性が数十年から数百年単位で負債を溜め込んだ結果だ、とするというアイデアからの引用。


2022年7月10日、フランスのLes Déferlantes Festivalにてフルフェイスのマスクをステージで着用

ミューズが表現を試みているアイデア全体にとって、アルバムが最大のキー・アイテムであることは言うまでもない。だが、ビジュアルも含めて様々な表現手段を持つ彼らだけに、ツアーへの期待感を拭い去ることが出来ないのも正直なところ。実際、最近出演したヨーロッパのフェスでは匿名的なマスクをしてステージングを行ったというニュースも流れている。次に日本に来るのはいつ?

「それはとっても重要な質問だ(笑)。来年って言いたいね。次回行くときには、もうちょっと日本をツアーして回りたいと思っているんだ。以前プレイした東京や大阪のような大都市だけでなく、できれば2~3週間かけて、カントリーサイドなども見てみたい。その上でショーができればいいね」

海外のバンドが多数来日し、パンデミック前の音楽フェスの興奮が再び戻ってきた2022年。その夏にリリースされる『Will Of The People』は、現代社会の様々な問題を扱いながらも、それを音楽として鳴らす興奮や希望を表現してもいる。前述のバンドのステートメントはこのように締められている。

"このアルバムは、恐怖を乗り越えるための個人的なナビゲーションであり、次に来るものへの準備なのです。"





【DVD付限定盤】  
『Will Of The People | ウィル・オブ・ザ・ピープル(ジャパン・リミテッド・エディション)』  
発売日:2022年8月26日(金)  
仕様:CD+DVD/高品質Blu-spec CD2/二方背スリーヴ付ジュエル・ケース  
封入特典:アルバム・タイトル・ロゴ・ステッカー  
価格:¥3,500(税込)  
[完全生産限定盤]
購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/MUSE_wotpjapan

<収録曲>
1. Will Of The People / ウィル・オブ・ザ・ピープル
2. Compliance / コンプライアンス
3. Liberation / リベレイション
4. Won’t Stand Down / ウォント・スタンド・ダウン
5. Ghosts (How Can I Move On) / ゴースツ(ハウ・キャン・アイ・ムーヴ・オン)
6. You Make Me Feel Like It’s Halloween / ユー・メイク・ミー・フィール・ライク・イッツ・ハロウィーン
7. Kill Or Be Killed / キル・オア・ビー・キルド
8. Verona / ヴェローナ
9. Euphoria / ユーフォリア
10. We Are Fucking Fucked / ウィ・アー・ファッキング・ファックト

<DVD>  
●アルバム発売予告トレイラー
1. ウィル・オブ・ザ・ピープル(ミュージック・ビデオ)  
2.コンプライアンス(ミュージック・ビデオ)  
3. ウォント・スタンド・ダウン(ミュージック・ビデオ)

【通常盤】
『Will Of The People | ウィル・オブ・ザ・ピープル』  
発売日:2022年8月26日(金)  
仕様:1CD/高品質Blu-spec CD2/ソフトパック  
価格:¥2,640(税込)  
購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/MUSE_wotpCD

日本公式サイト:https://www.sonymusic.co.jp/artist/muse/  
海外公式サイト:https://www.muse.mu  

Translated by Mami Kondo

 
 
 
 

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