ソニックマニア総括 プライマル、カサビアン、スパークスらがもたらした熱狂と多幸感

 
プライマル・スクリーム、あの名盤を「再構築」

続いてMOUNTAIN STAGEに戻ると、プライマル・スクリーム目当ての人たちでごった返していた。彼らが『Screamadelica』の再現ライブをやると聞いて、当初は「2011年のソニックマニアでやったじゃん!」と思っていたが、そこは構成やアレンジに手を加え、大幅にバージョンアップしてきたからさすが。その頃のライブは映像作品/CDでリリースされた『Screamadelica Live』で確認できるが、それと今回のショウを比較すると、メンバー・チェンジの影響を反映しながら柔軟に進化してきたことが具体的にわかるはずだ。


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

何より大きいのが、しばらくバンドをサポートしていたギタリストのバーリー・カドガン(リトル・バーリー)が2015年に外れ、現在はアンドリュー・イネスのギター1本のみという、彼らの長い歴史でも珍しい編成になっていること。一時はケヴィン・シールズも加わって分厚い音の壁を築いていたこともあるが、アンドリューの役割が絞られたことで明解なアンサンブルになり、その分ロックンロール色も前回より増したように感じた。その結果、最後にボーナス的に披露する「Rocks」とのギャップが縮まり、『Screamadelica』の“再現”と言うよりも、“リコンストラクション”と呼ぶに相応しい内容になっていたと思う。

2011年のソニックマニアでベースを担当していたマニはストーン・ローゼズのリユニオンがきっかけで同年に脱退、その後シモーヌ・バトラーが加わってから、もう10年近くになる。マニほどのパワーや重圧感はないが、シモーヌもベースがよく歌うタイプ。多彩なプレイでバンドを引っ張る職人肌のドラマー、ダリン・ムーニーとの相性もバッチリだ。そしてギターが減った分の余白を、オルガンやシンセ、ピアノが彩り豊かに埋めていく(マーティン・ダフィの代わりに参加したテリー・マイルスが担当)。減員しているのにカラフルさを増した演奏は、サイケデリックかつソウルフルな『Screamadelica』の世界を、より豊富になった音楽語彙でじっくり語り直していくような味わい深さがあった。


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

ボビーのボーカルとオルガンでゴスペル風に盛り上げて始まる「Movin’ On Up」から、気概はビンビン。女性ボーカルなしでボビーが歌い切った「Don’t Fight It, Feel It」はワウ・ギターが疾走、アルバムとは別物のファンキーなグルーヴに更新されていた。前回からボーカル入りの構成が採用されている「Come Together」も、シングル・バージョンとアルバム・バージョンの間を取ったようなアレンジで、あの可憐な歌メロを生で浴びるとやはりこの上なく気持ちいい。

驚いたのは、『Screamadelica』より遅れてEPで世に出た曲、「Screamadelica」を加えたこと。これがEPともデモ・バージョンとも異なる、ボビーのボーカルを前面に出したメロウなアレンジになっており、AOR/ブルー・アイド・ソウル的にすら聞こえる洗練された演奏がたまらなく新鮮だった。こんなアダルトなプライマル・スクリーム、という路線もあるのか。そこから続くバラード、「Damaged」「I’m Coming Down」ではまた方向性が少し変わり、ボビーが心酔するサザン・ソウルの香りが溢れてくる。


プライマル・スクリーム(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

そうやって考えると、オリジナルの『Screamadelica』らしさを最も残していたのは「Higher Than The Sun」と「Loaded」ぐらいだったかも。「Shine Like Stars」はデモ集『Demodelica』に収められていた“Jam Studio Monitor Mix”の後半に登場するメロディが採用されており、これも『Screamadelica』バージョンとは異なるアレンジが新鮮だった。ここでスクリーンに故アンドリュー・ウェザーオールの写真が投影され、場内が拍手に包まれた瞬間は、この日のクライマックスだったと思う。アルバム制作時のメンバー、ロバート・“スロブ”・ヤングや、重要な役割を果たしたシンガー、デニス・ジョンソンも今はこの世にいない。彼ら早逝した仲間たちに捧げるトリビュートとしても、このショウが続けられていることをしみじみ実感させられた。


ハードフロア(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ハードフロア(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

変わり続けるバンドの“現在”を見届けた余韻の中、最後に観に行ったハードフロアには、逆に頑固なまでの変わらなさと、これでいいのだという強い信念を見せつけられた。アシッド・ハウス味がかなり後退した新解釈の『Screamadelica』に触れた後で、2022年の今もローランドTB-303をギンギンに稼働させるオリバー・ボンツィオ&ラモン・ツェンカーを観ると、時空がグニャリと曲がったような不思議な気分に。とにかく楽しそうに電子音を操り、おじさん2名がビートを繰り出しながら身をよじる姿は、まるで年季の入ったパーカッショニスト・コンビのようであった。テンションの上げ方やうねりの作り方も職人芸の域に達している。サムシング・ニューばかりでなく、ここまで貫徹する姿勢、それもまた音楽家としての正しいあり方だ。帰ろうとしていた足を止めてしばらく身を委ねたせいで始発を逃してしまったが、何とも言いようのない多幸感に包まれて帰宅。そんな終わり方ができるところもまた、ソニックマニアらしい。

【写真を見る 全63点】ソニックマニア ライブ写真まとめ(記事未掲載カット多数)

 
 
 
 

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