メガデスのデイヴ・ムステインが語る、最新作と60歳の心境「俺の感覚は若返っている」

 
今のデイヴは絶好調「相変わらず威勢がいいぜ」

今日のデイヴの声には熱がこもっている。咽頭がんが寛解期にあると発表してから2年半が経った今も、彼はすこぶる元気だ。「今の俺は健康だって感じるんだ。思う存分人生を謳歌しているし、いまだかつてないほど上手く歌えている。プレイも過去最高だ。ライブのとき、ステージに上がる前にジャムルームにみんなで入って曲を覚えているよ。初期のメガデスでやっていたみたいにね」と言い、現在の健康状態を「相変わらず威勢がいいぜ」と総括した。

「高次の力とはかなり固く結ばれていて、アルバムで俗悪さを出す必要がないから、本当にクールだよ。今の俺が品行方正ってことじゃない。だって、いつだって“ファック”と言っているからね。神様にそれを取り除いてくれって頼んでいるんだけど、神様には神様のやり方があるらしく、相変わらず“ファック”を連呼してしまう」とデイヴ。

彼はコロナ禍以前にアルバム・タイトルの「The Sick, The Dying…And The Dead!」を思いついたのだが、その時はちょうど童謡「Ring Around the Rosie」について考えていたと言う。「曲の中にあのライムを入れたいと思ったんだ。ほら、『Go to Hell』で俺が“Now I lay me down to sleep”と言っているみたいに。あれって時期を同じくしてメタリカも使ったんだよな」と言って、デイヴは一拍おいて「あれは奇妙だったな」とおどけながら続けた。「Ring Around the Rosie」のダークな解釈は、腐敗する死体の悪臭をごまかすための花束で、ライムの中の「アッシュズ、アッシュズ」はデイヴに「火葬」を思い出させるのだ。

「悪意なんてまったくない無邪気な童謡の『Ring Around the Rosie』でさえ、これだけダークなイメージになるって皮肉だと思ったよ。それでペストに興味を持ったというわけだ」と説明した(この曲とペストの関係性は長い間議論の的で、この曲とペストの関連性が最初に指摘されたのは1961年だと指摘する民俗学者が多く、実際にペストが流行してから数百年も経っていた)。そんなことを考えていた頃、彼は1994年のケネス・ブラナー監督作品『フランケンシュタイン』を観る機会があり、この映画の心象からインスピレーションを得た。これがタイトルトラックの複雑な起伏を描くリズムと、アルバムのアートワークへとつながった。


『The Sick, The Dying…And The Dead!』アートワーク

最近、楽曲を作っているとデイヴは「ベンジャミン・バトン的な体験をしている感覚になる。上手い言い方が見つからないけど、とにかく、今の俺の感覚は若返っているんだ」と。そして、新曲はすべてアグレッシブなサウンドだが、彼が最も意識を向けているのはメロディであり、今でも「俺たちの手助けが必要な物事に人々の注意を促す」ような歌詞を作るのが好きだと言う。「Dogs of Chernobyl」という曲名は、置き去りにされた感覚に対処する内容の歌詞を隠すための“おとり”的なタイトルだ。デイヴは、ウクライナで起きた有名な原発事後の現場に訪れた人々を題材にしたホラー映画を観た。この事故のとき、人々は飼い犬を置き去りにして逃げただが、「一番嫌だったのが、みんなが平気で犬を置き去りにしたことだ。どこかに移動することになったとき、自分の犬や馬たちを置き去りにできるか、俺には分からない」と言う。これは普遍的な感情だ、と。

「俺だって長年、苦労しているファンの姿をたくさん見てきたし、彼らを思うと心がズキズキ痛む。それに、俺たちに与えられていたチャンスがどんどん減っていることも実感するよ。そして、みんなにアピールする音楽が根本的に間違っているのが原因だとも思っているから、そういった事柄をたくさん考慮しながら、苦労している人たちのことを歌にして、物事の陰と陽の両面を表すように表現しようと心がけているんだ」

Translated by Miki Nakayama

 
 
 
 

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