今市隆二が語る、心に寄り添う「歌」を

音楽を届けるための「日本語詞」

ー特に新しい扉が開いたなと思う表現はなんですか?

今市 まず「辛」というタイトルもそうですし、“マジで”や“鬼電”などの歌詞もそうですね。でも日常ではけっこう使っている言葉でもある。そういうところをChakiさんとかJAY’EDさんと話して、結果こうなった感じですね。

ー“一筆書きのあいあい傘”とか、冷静に見たらちょっと恥ずかしくなってしまう表現も使ってますよね。

今市 こういうリリックは書いたことがなかったので、最初は戸惑いはあったのですが、本気で音楽を届けたいというところで話していく上で、こういう結果になりました。

ーChakiさんやJAY’EDさんとは、歌詞に関して深くやり取りしたんですか?

今市 そうですね。Chakiさんのアイデアが入っています。さっきも言ったように、この曲は悲しみや喪失感がテーマなので、そのことについて3人で話し合って進めていった感じです。特に今回の曲に関しては、Chakiさんの存在は大きいかもしれないです。

ー「辛」ってネガティブな印象がある言葉だけど、歌詞の内容はラブソングという感じだから、そんなに重たくないですよね。でも背景には深い意味があるというか。

今市 一見ラブソングに聞こえると思うんですけども、実際にはそういう気持ちで作ったものではないので。もちろん分かりやすいメロディや歌詞ですし、楽しく聴ける曲ではあります。でも現状悲しみを抱えている人たちに対して、背中を押すというよりも、寄り添えればなって気持ちで作った楽曲なんです。少しでも癒やしになれば、すごくうれしいなって思います。

ーChakiさんからのアドバイスは何かありましたか?

今市 たくさんありました。Chakiさんの専門はヒップホップですが、そもそも僕がこういう歌詞の曲をやるのがすごく面白いとChakiさんは言ってくれて。Chakiさんと僕でリファレンスとなる曲を出し合って、相談しながら決めていきました。

ー具体的にはどういうやり取りを?

今市 自分がやりたい楽曲のイメージがあって、今回はそれに合わせてコードにこだわって作りました。ループさせたものにメロディをつけることがここ数年多かったのですが、今回はいわゆるJ-POP的というか、コードの動きが激しかったりするので、そこをChakiさんも時間をかけて組み立ててくれた。それを元にJAY’EDさんと一緒に作っていった感じです。そういう点では、従来の作り方とは違うかもしれないです。共通意識としては、前回の『CHAOS CITY』で実践した80’sリバイバルを、日本のポップスに落とし込んだ感じです。

ー前回のインタビューでも話してくれましたが、今市さんのソロ活動のなかでChakiさんとは付き合いが長いですよね。そういう意味では、これまで一緒にやってきたことの積み重ねが、こうして一つまた新しい作品を生んだとも言えますね。

今市 そうですね。4年くらい前、自分のソロが始まるタイミングにDJ DARUMAさんの紹介で出会って、今では楽曲を作る時は僕、Chakiさん、JAY’EDさんという、基本この3人という形があります。三代目で12年やってきて、ソロとしても4年が経った。最初は自分の好きな音楽をやってきたのですが、それだけじゃ一歩先へ行けないということにも気づけたのは、お二人がいてくれたからだと思います。僕に対していろんな提案をしてくれますし、しっかりコミュニケーションを取りながら一緒に曲を作れるので、今ではかけがえのない存在だなと思います。

ー歌詞以外ではどうですか?

今市 一番はやっぱり歌詞だと思うのですが、サウンド的にも「辛」に関しては音数も少ないですし、「RILY」とかと違ってボーカルもコーラスをあまり重ねてないので、かなり素に近いというか。ただ、レコーディングはいつも以上に時間をかけたような気がします。

ーそこに難しさは感じなかったですか?

今市 歌を録ることに関しては変わらない部分ではあります。それより歌ってみてどう聞こえるかとか、テーマのなかでどう歌うかっていう方が大きいです。

ー「辛」では生演奏の5弦ベースが効いてますよね。曲の余白を引き立たせてくれるなと感じました。

今市 メロディと歌詞が完成した状態でベースを録ったのですが、生で弾いてもらうと印象が全然変わりますよね。Chakiさんとこれまで曲を作ってきて、生の音を自分が好きなことはChakiさんも知ってくれているので、自然とこうなりました。

ー「華金」のサビには外国人女性ボーカリストが参加。こちらも曲を盛り上げてくれますね。

今市 フックを担当してくれた女性コーラスの方が3人いるんですけど、クワイア的な響きを入れて歌ってもらったり。コーラスを受けて自分が歌うってことが、これまでなかったので新鮮でした。




Photo by Maciej Kucia

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