スタークローラーが語るバンドの新時代「ロックはクールな音楽と見られるようになった」

 
歌詞の変化、ロックの現状について思うこと

─歌詞にも変化を感じました。閉塞感を打ち破ろう、ポジティブに行こう、とリスナーの気持ちを励ますような歌詞が多いように感じたのですが。コロナ禍の影響が出たところはある? それとも他の要因が?

アロウ:その意見はすごく面白い。なぜなら、私はその逆に感じるから。サウンドは明るいけど、私にとって今回の歌詞は憂鬱に感じるの。でも、リスナーのみんなには自分が思うように感じて欲しいし、その解釈を変えたくはない。気持ちを励ますような部分があるとすれば、それは確かにコロナ禍が関係しているのかも。人々をちょっとクールなやり方で元気づけたいって気持ちがあったのかもね。

─なるほど、確かに歌詞のモードはブルー寄りかも。中でも「She Said」の歌詞が印象に残りました。これはどのように生まれたの?

アロウ:その曲は、私とヘンリーがこのアルバムのために最初に書いた曲の一つ。ずっと会えなかったけど、ついに外で会えて、二人で一緒に小庭に座って、その歌詞を書いた。確か、その日中にでき上がったんじゃないかな。作っていて一番楽しかった曲の一つ。すごく自然にでき上がった。やっとお互いの顔を見ることができて、それが嬉しくて、その勢いで書いた感じかな。

ヘンリー:今回のレコード製作は、結構落ち込んだ状況からスタートしたんだよね(笑)。

アロウ:そうそう。このアルバムの悲しい曲は、全部最初に書いたものなの(笑)。

ヘンリー:ここ5年で初めてみんなに会えない状況だったからね。それまでは、僕たちは毎日一緒だった。2週間以上の休みをとったことはなかったし、数カ月も顔が見られないなんてことは初めてだったんだ。ショーもできず、コロナ禍は僕らにとってかなりダークな時期だった。だから、全員で同じ部屋に集まって作業ができた時は、すごく嬉しかったし、かつては当たり前だったはずの状況に感謝したね。皆がまた集まった瞬間、電気が走った感じだった。



─「Midnight」の歌詞も強く印象に残りました。このストーリーはどんな風にできたもの?

アロウ:その曲も、すごく早くでき上がったの。もともとアルバム用ではなくて他の目的で書いていたトラックだったんだけど、その場でみんなが楽器のパートをいろいろと考えて、それに合わせてフレーズをたくさん書いていって、後からパズルみたいに組み立ててストーリーを作った。でも、結果的に全員この曲をすごく気に入ったから、アルバムに収録することにしたの。この曲は、アルバムの中でも特に気に入っている曲の一つなんだ。



─全体的に変化や、変化を望むことがテーマになっているように思います。あなたたちには、このアルバムが出るまでの間、どんな変化があった?

アロウ:このバンドを始めた時、私とヘンリーは16、17歳だった。だから、アルバムを出す度にバンドは自然に進化していると思う。ファンやリスナーのみんなも、その成長を一緒に見ながら私たちについてきてくれていると思うんだよね。でも、こんな風に変わりたいとか、自分たちで意識したことはない。常に意識しているのは、自分たちがやりたいと思うことをやるということで、進化と成長は、それをやっている中で自然と起こってきたことなの。

ヘンリー:変化を生み出すのは、それを作っている時のムードや時期。自分たちがその時に好んで聴いている音楽なんかもそうだし、生活している中で起こる出来事だってそう。失恋とか、新しい友人と遊ぶようになったりとかさ。僕らは7年も一緒で、バンドを始めた時は高校生で、今は成人してる。だから、自分たちを取り巻く環境も大きく変わったんだ。それが作品に反映されているんだと思うよ。

─好んで聴くレコードの傾向に変化はあった?

アロウ:私はあんまり変わってない(笑)。

ヘンリー:僕はすごくインディロックにハマってる。前は、理由もなくアンチ・インディロックだったんだけどね(笑)。アロウと初めて会った頃は、たぶんエリオット・スミスは聴いていなかったと思うんだけど、今は聴いてる。

アロウ:私、実は今回のアルバムのリリースで忙しくて、全然音楽を聴いてないの(笑)。飛行機の中でさえ、音楽を聴かずに寝ちゃう。自分で話していても変に感じるけど、最近音楽を聴くと、何故かすごく不安になっちゃって。このアルバムを出すことで頭がいっぱいになっちゃってるのかも。

ヘンリー:僕は逆に、そういうのから逃避するために音楽を聴くけどね(笑)。


Photo by Cameron McCool

─シーンが移り変わってきて、近い音楽性のギターバンドが少なくなってきた分、スタークローラーの個性がますます際立ってきていると思うのですが。あなたたちが仲間だと思っているバンド、共感するバンドは、たとえば誰なのでしょう?

ヘンリー:アルバムのリリースパーティーでオープニングをつとめてくれた、Rocketっていうバンドがいるんだけど、彼らは新しいバンドで、ロックミュージックを作ってる。すごくクールだよ。ギターもラウドだし、グランジっぽいんだ。最近は、自分たちのショーに来てくれる若いファンの人たちも、ロックバンドをやってる子達が多い。より多くの若い世代の人たちがロックにハマってくれているのを見るのは嬉しいし、クールだと思う。自分の親が聴く音楽という捉え方じゃなくて、クールな音楽として自分たちで好んでロックを聴いている若い人たちが増えているのは感じるね。彼らがその聖火を絶やすことなく繋いでいって、これからもっとロックバンドが増えていくことを願ってる。

アロウ:確かに、ロックはこれまでよりもクールな音楽として見られるようになってきているよね。それってすごく良いことだと思う。

ヘンリー:この間イギリスでショーをやった時に、何人かのティーンの子達が僕らに近づいてきて、彼らはバンドをやっている子達だったんだけど、自分たちが「Roadkill」をカバーしている様子を見せてくれたんだ。それがすっごいパンクで、むちゃくちゃカッコよくてさ。僕とアロウは美術の学校に通ってたけど、その頃は周りでロックを聴いている同級生はほとんどいなかった。でも、今そんなふうに世界の若い人たちがロックを聴いて、演奏している姿を見ると、すごく嬉しくなるね。

─「Roadkill」はMVもすごく面白かったです。あれを撮影するのは大変だったんじゃないですか?

アロウ:すごく大変だった(笑)。

─あの調子で、一日中走り回ってたんですか?

アロウ:そう(笑)。

ヘンリー:いつもよりも頑張って走ってたよね(笑)。



─今回のビデオはどれもすごく面白かったです。最近はどんな映画を好んで見てますか?

アロウ:今回のアルバムのビデオは、私のボーイフレンドのギルバートが監督を務めていて、私と彼でアイディアを考えた。他のミュージックビデオや映画を見ながら、インスピレーションをもらって、それをもとにストーリーを考えたの。「Roadkill」のビデオに関しては、アクション映画をいっぱい見た。動きを研究するために、バスター・キートンの映画もたくさん見たし、あとは、アニメーション映画の『鉄コン筋クリート』も見た。あの作品はインスレピーションの一つ。走っているシーンのためには、映画のオープニングのタイトルバックもいろいろ見たの。そこからインスパイアされて本当にやりたいと思ったことは、予算が足りなくて実現できなかったけど(笑)。

ヘンリー:あのビデオで、ティム(・フランコ、ベーシスト)は本当に車に轢かれようとしていたんだ。その方がリアルな映像が撮れるって。これからツアーもあるんだし、それは無理だと皆で止めた(笑)。

アロウ:あとは『ジャッカス』! 「Roadkill」のビデオの最後で、車から出てくる人の役を探していたんだけど、誰にしようか考えて、『ジャッカス』のスティーヴォだったら最高だねって話になったの。それでマネージメントを通してダメ元で連絡したら、なんとOKが出て、出演してくれた。あれはすっごく楽しかったな!

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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