スタークローラーが語るバンドの新時代「ロックはクールな音楽と見られるようになった」

 
優れたロックバンドの条件、日本での想い出

─そもそも、「優れたロックバンドの条件」とは、何だと思いますか?

アロウ:誠実であることかな。作品が、リアルな場所から出てきたものである必要があると思う。ロックとつながりを感じられない人たちが数多くいる理由は、例えばコスチュームだったり、どこかフェイクな部分を感じるからだと思う。でも、“自分にもいつかこれができるはず!”ってその人に思わせることができるロックバンドもいるんだよね。それができるのは、自分たちが本当にやりたいことをやって、真の自分を見せているバンドだと思う。俺はロックスターだ!みたいなアティチュードは、もう機能しないんじゃないかな。それは、普通の人たちとはかけ離れすぎてしまっているから。やっぱり、誠実であることが大事だと思う。

ヘンリー:ちゃんと人のことを気にかけること、かな。ロックバンドの中には、“周りのことなんて気にするな!”“何も考えず今を楽しめ!”なんて言うバンドもいるけど、 “Fuck you!”のアティチュードだけでは人々はついてこないと思うんだ。周りの人々のことも気にかけて、自分が信じている何かを曲にして表現しているバンドが、優れたロックバンドだと思う。

─最近はジェンダーや人種の問題に踏み込んで歌う若いバンドも増えてきました。そういう思想的なテーマは、どの程度バンドに持ち込んでいますか?

アロウ:私の場合は、自分のパーソナルな経験だけを歌詞にしてる。

ヘンリー:そうだね。だから、今はそういう問題には触れていないけど、これから人生が変化していく中で、何年後かに社会的問題が自分たちの一部になって、それについて書くこともあるかもしれない。僕たちの場合、さあ何かについて書こう!と、一つのテーマを定めることはないんだよね。ペンと紙を手にとって、自然に出てくるものを歌詞にしていく感じなんだ。どんなアイディアが出てくるかは、その時の状況やインスピレーションによって変わる。でも、社会問題について歌っている人たちはクールだと思うよ。僕自身が直接それを経験していなくても、彼らがそれをどう感じているかを理解することができるし、そこに共感できるから。全く同じ経験をしていなくても、その気持ちを理解し合うことが大切だと思う。

アロウ:私たちが音楽を通してやりたいのもそれと同じ。もし、私たちの歌詞の内容が、その人が経験したことそのままではないとしても、自分の経験とつなぎ合わせて、自由に解釈して、何かを感じて欲しい。それが私たちの願いなの。

─以前ツアー中に、アロウが他のバンドから悪質な性的嫌がらせを受けた体験を、SNSに投稿したことがありましたよね。それを読んだ時に、とても勇敢な行為だと思ったんです。泣き寝入りせず、世の中に広く知らせることで、ああいう行為が問題視されて改善されていくと思うので。

アロウ:ありがとう。

─とても勇気のいる決断だったと思いますが、ああいうアクションをしたことで、共感してくれた女性も多かったんじゃないですか?

アロウ:そうだね。家の近くにブリトーのお店があって、そこでブリトーを買おうと並んでいる時に、ある男の人が私に話しかけてきたことがあった。彼には娘がいて、私の発言を読んで、彼の娘さんがどれだけ助けられたかを話してくれたの。ああいう内容を投稿したことで不安にもなったし、ストレスも抱えていたんだけど、彼の言葉を聞いて救われた。あれはすごく嬉しかったな。


Photo by Cameron McCool

─スタークローラーは衝撃的なライブを通じて、日本でも愛されるバンドになったと思います。最後の来日からかなり時間が空きましたが、特に印象深い日本でのライブや、今でも記憶に残っているエピソードは?

アロウ:日本のことは全部覚えてる(笑)。毎回すっごく楽しいから。

ヘンリー:すぐにでも戻りたいんだ。来週(10月1日)韓国に行くから、どうにかそこに日本を組み込めないか全力を尽くしたんだけど、行けないことになってさ……。でも、できるだけ早く日本に行けるよう心から願ってる。

アロウ:日本での想い出はたくさんありすぎて、とても選べないな。でも、フジロックはやっぱり大きかった。ステージに立つまで、いったい何人くらい人が集まってくれているのかわからなかったんだけど、いざステージに立ったら目の前に大勢の人がいて、みんな腕や体を動かしてくれていた。大きなステージであんなに人が盛り上がってくれたのは初めてだったの。まるで、自分たちがフー・ファイターズになった気分だった(笑)。それくらい、夢みたいな経験だったんだよね。空港でファンのみんなが待っていてくれたのも、本当に嬉しかった。日本では、いつも素晴らしい経験をさせてもらってるの。

ヘンリー:高校に通っていた時、学校の中で、僕は“ロック音楽にハマってる変人”だった。でも日本でタワーレコードに行って、すごく感動したんだよね。子供の頃は、家の近くにCD屋もあったし、バンドのポスターが貼ってあったり、フィギュアが置いてあったりもした。今はもう、そんなお店はアメリカにはまったくないんだ。でも日本にはまだそれが存在していて、作品を評価し、興奮してくれる人たちがたくさんいる。その作品の世界を探求して、CDのボーナストラックまで楽しんでいるよね。それはすごくユニークだと思ったし、だからこそ日本盤のためだけに、いくつかアコースティックバージョンを収録したいと思ったんだ。

─最近のライブはどんな感じでしょう? アロウは相変わらず血を吐いてますか?

アロウ:血を吐くのは今はやめちゃったの。バンドの新しい時代に入りたいとも思ったし、コロナが始まる前くらいから、同じことを繰り返してるなって感覚が既にあって。もちろん、ファンのみんなが気に入ってくれているのは嬉しいし、がっかりはさせたくないけど、今は何か新しいことに挑戦する時かなって感じているの。クレイジーなことはしてるんだけど、動きがずっと同じな気がして。だから、バンドの新しい時代に合わせて、ちょっとそれを一新できたらなって思ってる。

─新しいアルバムは、アロウのお父さん(リリーズ、ビーチウッド・スパークスなどで活躍してきたアーロン・スパースケ)にも聴かせました?

アロウ:うん。でも、もうだいぶ前だけどね。アドバイスとかは特になくて、アルバムを気に入ってくれてた。作品を批評することはなくて、このアルバムができ上がったことに興奮してくれてたみたい。

─今日はたっぷり話を聞かせてくれてありがとうございました。また日本に来てくれる日を楽しみにしています。

アロウ:すぐに行くからね! こちらこそありがとう。




スタークローラー
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Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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