ドライ・クリーニングが拡張させた、ソニック・ユース的音響と妖艶な詩世界

ドライ・クリーニング(Photo by GUY BOLONGARO)

アートな佇まいで異彩を放つUKサウス・ロンドンの4人組、ドライ・クリーニング(Dry Cleaning)が2ndアルバム『Stumpwork』を名門4ADからリリース。実験的オルタナ・ロックとポエトリーリーディングの組み合わせを、抜群のバランス感覚で成立させてみせた。11月30日(水)に東京・恵比寿LIQUIDROOM、12月1日(木)に大阪・梅田CLUB QUATTROで初来日公演も決定。絶賛されたデビューアルバム『New Long Leg』(全英4位)を経て、彼女たちはどんな進化を遂げたのか?


ドライ・クリーニングの2ndアルバム『Stumpwork』の中盤に収録されている「Hot Penny Day」で、詩の朗読のようなボーカルスタイルが印象的なフローレンス・ショーが「あなたのこと、今でも私のディスコ・ピクルスって呼んでもいい?」と問いかける時、誰もがイエスと答えるに違いない。4人の鳴らす音は極めて個性的であり、好きになれない人は冒頭から数曲の時点で聞くのをやめてしまっているはずだからだ。絶賛されたデビューアルバム『New Long Leg』で、バンドは音楽の文脈における二重露出というべき手法を確立してみせた。男性メンバー3人がザ・スミス風のポストパンクを鳴らすなか、フローレンスはポストモダニストのT.S.エリオットを彷彿させる殺伐とした詩を紡いでいく(その不合理な結論はエリオット以上だが)。

泡だった石鹸をカンヴァスに見立て、陰毛で『Stumpwork』の文字をエレガントに描いたジャケット写真は、バンドの二元性を端的に表現している(皮肉なことに、タイトルは刺繍のレファレンスである)。水と油を混ぜたようなサウンドは健在であり、フローレンスのボーカルとトラックを切り離したならば、どちらもそれ単体で十分に成立するはずだ。




バンドはインスピレーション源として、ペイヴメントとポルヴォ(Polvo)という90年代のオルタナバンド2組を挙げているが、デビューアルバムと同じく(PJ・ハーヴェイとの仕事で知られる)ジョン・パリッシュをプロデューサーに迎えた2ndアルバムは、より多様なバックグラウンドを感じさせる。先行シングル「Anna Calls From the Arctic」は、ピチカート・ファイヴのアップリフティングなラウンジに通じる部分がある(サックスも含めて)。「Kwenchy Kut」や「Gary Asbhy」では、ジョニー・マーのトレードマークである艶のあるポップなギターサウンドが聴ける。一方「No Decent Shoes for Rain」のキーボードサウンドは、ピンク・フロイドのリック・ライトを思わせる。かと思えば、「Conservative Hell」はスティーヴ・ジョーンズを差し引いたセックス・ピストルズのようだ。メンバーは今作でビブラフォン、クラリネット、オープンリール、カズー等を弾いているほか、鳥の鳴き声を使ったり、フリューゲルホルン奏者を迎えるなどの実験的試みもなされている。

だが最も顕著な比較対象はやはり、ドライ・クリーニングの楽器隊の3人が幼かった頃にビブラートのかかった轟音で世界中を席巻したソニック・ユースとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインだろう。もしバンドがモグワイやペリカンのようなインストバンドだったとしても、その魅惑的かつパンチの効いた音楽は支持されるに違いない。

Translated by Masaaki Yoshida

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