カレンO×ミシェル・ザウナー 韓国系アメリカ人として育った2人のリスペクト対談

 
ヤー・ヤー・ヤーズ復活の背景、「No」と言えることの強さ

ザウナー:一番最初に書いた曲は? どんな風に書いたの?

カレンO:9歳かそこらの時、ドゥワップ風の曲をピアノで弾きながら書いた。甘ったるい歌詞のお粗末な曲だね。「彼は私を愛していない、ベイビー/ノー、ノー、ノー」みたいな。私の親友は私の一番のファンで、この曲も彼女に弾いて聞かせたことがあった。彼女は私の隣に座って、「カレン、モーツァルトがいて、ベートーベンがいて、その次はオルゾレク(カレンの姓)の出番ね」って言うの。勘違いも甚だしいけど、あの当時はそういう応援団が必要だったし、おかげですごく変わった。人生にこういう人がいるって面白いよね。

ザウナー:「Maps」を書いた時は「うそ、これ自分が書いたの?」っていう感じだった?

カレンO:まさにそう。

ザウナー:あの曲がリードシングルだっけ?

カレンO:いや、アルバム(2003年の1st『Fever to Tell』)の3枚目のシングルで、あの曲をリリースする頃には私たちもレーベルから見限られていた。そこで「Maps」が大衆の心を掴んじゃったってわけ。それまでヤー・ヤー・ヤーズ用に書いた曲はハードで反抗的でセクシーな曲がほとんどだったけど、この曲はすごく切なくて超シンプル。それでいて私たちらしい曲だった。きっと、ニック(・ジナー)が私たちの代名詞であるブルー・ドラムマシンを使っているから。「この曲には何かある」と全員が感じた。部屋の中のイオンが変換されるような感じ。別の存在が入り込んできたような感じ。すごくミステリアスで、そこはかとないところがある。



ザウナー:今度のレコードはどんなプロセスで制作したの? 母親になって腰を落ち着ける段階に入ると……作曲活動も、少なくとも最初のうちは、個人的なカオスやドラマが元になることが多いと思うんだよね。そこであなたは、このアルバムをどういう風に作ったの? どんなテーマで、それをどういう風に活用した?

カレンO:ヤー・ヤー・ヤーズは世界の混沌と動乱の時期に結成された。911が起きた時、私はニューヨーク市のダウンタウンに住んでた。当時は世界の終わりみたいな感覚があった。私たちは時代の波に乗るのが好きなんだよね、天変地異の時期に共鳴するのが得意なの。

ザウナー:じゃあ、今の時代はあなたにとってちょうどいい?

カレンO:そうだね。変な言い方だけど、なんとなく黙示録的な時期に音楽を作るのが私たちの専売特許。ニックと再びタッグを組んだときは、2人とも大興奮だった。積もる話もある。20年も一緒にバンドやってるんだから。子どもみたいにバカ笑いしちゃった。気候変動とか無常観とか、怖くて手が出せなかったテーマにも果敢に挑んでいった。

ザウナー:長期の活動休止を決めた理由は?

カレンO:2013年にようやくInterscopeとユニバーサルとの契約が切れてね。終わってみると変な感じだった。肩の荷が下りたみたいな。馬車馬のように働いたとは言わないけれど、迫りくる期日から解放された感じだった。「今までとは全然違う気分だ、次にヤー・ヤー・ヤーズのアルバムを作るのは、本当に本当に本当に作りたくなった時だけにしよう」ってね。

ザウナー:まさかこんなに長引くとは思わなかった。

カレンO:そうだね。ただ、家庭は持ちたいなと思っていた。ガービッジのシャーリー・マンソンとディナーパーティで話をしたのを覚えている。「子供がほしい? だったらそのためのスペースを用意しないと。スペースがないなら、たぶんチャンスを逃すよ」って言われた。

ザウナー:活動休止したとき、寂しさや恐怖はなかった? 私はちょうど同じ年頃の33歳で、そろそろかなと思ってるんだけど、それと同時にすごく怖い。いったん歯車を緩めたら、情熱を失ってしまうんじゃないかとすごく心配で。

カレンO:全然。誰かに言われたよ、「お皿が空っぽでも心配しなくていい。かぶりつく準備ができる前に、すぐにいっぱいになるから」って。その通りだった。一息つくのを心配しちゃダメ。私は「No」の達人だからね。しょっちゅうNoと言ってる。

ザウナー:有名だよね。

カレン:有名なの? しまった。

ザウナー:あなたと仕事したことのある人と話をしてたら、「そうそう、カレンにいろいろ話を持って行っても、彼女の返事はいつもNoなんだ。だけど彼女と仕事してるって言えるのは最高だよ」と言ってた。あなたは完璧主義者なんだよね。恐ろしいくらいに。

カレンO:そこなの。「No」と言うのを恐れちゃダメ。そうすれば、ある程度までは周りからもっと必要とされるから。自分のやっていることに意味があって、深い真実や価値があるときはとくにそう。だから言わせてもらう、絶対に消えてなくなることを恐れちゃダメ。


Photo by Kanya Iwana for Rolling Stone

ザウナー:バンドの仲間との会話はどんな感じだったの? 揉め事も多少あった?

カレン:そうだね、でもやっぱり私は「No」の達人だから……。

ザウナー:メンバーも慣れてるんだ。

カレン:そう、私が前例をつくったというわけ。でも大変だったよ、自分自身を大事にするのは。特に男だらけの世界では、女性でいることは弱さの象徴になる。「ねえみんな、今日は気分が乗らない。アバラが痛んで」なんて言えば、「おいおい、泣き言は勘弁してくれよ」って言われる。だから馬鹿みたいに強くなって、はっきり線引きをすることを学ばなきゃならなかった。

ザウナー:それは絶対に聞いておくべきアドバイスだね。実際、私も飼い慣らされていないから。

カレンO:あなたはショウビジネス界の女性で誰よりも一生懸命だと思う。

ザウナー:トイレに行きたいと言うのも嫌だからね。死ぬまでがんばり続ける気がする。でも6年間ずっとこうしてきて、最近になって気づいたんだ、こんなの続けられないって。たぶん、私が育ってきた環境のせいでもあると思う。全部私のせい、だから死ぬまで常に戦わなきゃいけないって。両親ともそういう感じだったんだと思う。今年はNoと言うことを学ぼうかな。かなりビビるけど。

カレンO:私は今までNoと言ったことを後悔したことはない。Yesと言ったことの方が後悔してる。今はおおむねハッピーかな、自分の居場所を確立したからね。

ザウナー:あなたのキャリアは誰よりも見事で、時代を超越し、この先もずっと続いていくと思う。

カレンO:ありがとう。私もビックリするぐらい、絶えずあなたの活躍に驚かされている。あなたは私たちに代わって扉を開けてくれた。あとは、「No」と言えるようになればもっと完璧。

ザウナー:私はNoチェリーってことだね。

カレンO:そう、Noチェリー。

KAREN O: TOP BY JUNYA WATANABE. SHORTS BY SIMONE ROCHA. BOOTS AND GLOVES BY ACNE. MICHELLE ZAUNER: TOP AND PANTS BY ACNE, SHOES BY JOHN FLUEVOG

From Rolling Stone US.




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Translated by Akiko Kato

 
 
 
 

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