追悼テイクオフ 「史上最大のグループ」ミーゴスのラップ革命と故人の偉業を振り返る

テイクオフ、2018年撮影(Photo by Jeff Hahne/Getty Images)

ミーゴス(Migos)のテイクオフ(Takeoff)を追悼。音楽ブロガー/ライターのアボかどが、故人とグループの偉業を振り返る。

11月1日、アトランタのラップグループ、ミーゴスでの活動で知られるテイクオフが28歳の若さで凶弾に倒れるというニュースが走った。クエイヴォとオフセット、そしてテイクオフの三人からなるミーゴスは、全員が親戚関係にあたるグループだ。2013年のシングル「Versace」でブレイクを掴んで以降、多くのヒットを残し客演でもいくつかの重要な瞬間に立ち会ってきた。最近でもオフセット抜きのデュオとしてのアルバム『Only Built for Infinity Links』をリリース。二人は親族での音楽集団の先輩であるアイズレー・ブラザーズのアルバム『Make Me Say It Again, Girl』にも客演するなど、デュオとしての新たなキャリアを進み始めたばかりだった。奇しくも唯一のソロアルバム『The Last Rockest』のリリース4周年の前日だったテイクオフの死は大きな衝撃を与え、世界中のファンや同業者たちが追悼の意を示した。

ミーゴスは、現代のヒップホップにおけるスタンダードとなった、所謂「三連フロウ」を広めたラップグループとして知られている。スロウなトラップビートに小気味良くラップを乗せるそのスタイルはミーゴス以降にヒップホップの「型」となり、そしてそれはヒップホップを飛び越えてR&Bなどにも浸透していった。2018年にはBig Boyによるインタビューで、オフセットが「俺たちは史上最大のグループだ。ポップスもヒップホップも含めた全てにおいて。今の音楽は全て俺たちの音楽を元に作られているからね」と話していたが、それも大袈裟ではないのだ。そこで本稿ではミーゴスのキャリアを振り返ってその功績を称え、その中でのテイクオフの重要性を紐解いていく。


テイクオフが亡くなった11月1日に公開された、『Only Built for Infinity Links』収録曲「Messy」のMV


ミーゴス前夜のスタイルと「Versace」の成功

ミーゴスが結成されたのは2008年頃で、初期はミーゴスではなくPolo Clubと名乗っていたという。この頃のアトランタはYung L.A.やJ Money(後にJ. Futuristicに改名)などに代表される「フューチャリスティック・スワッグ」と呼ばれるムーブメントの真っ只中だった。このフューチャリスティック・スワッグではポロシャツが重要なアイテムで、Polo Clubというグループ名も恐らくその時代を反映したものだと推測される。

フューチャリスティック・スワッグは、音楽的には2005年頃のYoung Jeezy(現Jeezy)などが取り組んでいたトラップの特徴を一部引き継いでいた。手数の多い808やスロウなBPM、ホーン系の音色の多用などがそれにあたる。賑やかなアドリブもYoung Jeezyから継承したものだろう。さらにShop Boyzの2007年のヒット曲「Party Like A Rock Star」などに見られるロックスター・メンタリティも混ざっており、ギター系の音色もよく使われていた。ラップスタイルは脱力感のある緩いものが主流で、Roscoe Dashのようなメロディアスなアプローチも好まれた。



ミーゴスの音楽性の基礎は、このフューチャリスティック・スワッグをハードな方向に発展させたものだと言えるだろう。エレクトロニックなシンセよりもオルガンやホーンなどの音色を好むビート選び、賑やかなアドリブ、特にクエイヴォに見られるメロディアスなアプローチ……など共通点を多く発見できる。また、2011年のミーゴスとして初のミックステープ『Juug Season』では、まだ三連フロウの開拓が進んでおらずルーズなフロウが目立つ。これはかなりJ Moneyなどと通じるラップスタイルだ。




2012年に放った初期の小ヒット曲「Bando」も基本的にはそのスタイルの延長線上にあるものだったが、ここでは三連フロウを随所で使用していた。そして同曲をきっかけに現所属レーベルであるQuality Control Musicの代表・Coach Kと繋がり、ミーゴスは三連フロウを多用したスタイルで曲を量産。その中の一つが2013年のヒット曲「Versace」で、ドレイクが丁寧に三連フロウを披露するリミックスの登場もありミーゴスはローカルを越えた成功を掴んだ。そして、ここから三連フロウが一気に浸透していった。

「Versace」の成功で注目を集めたミーゴスだったが、前後してオフセットが逮捕され二人体制での活動を余儀なくされていた。ヒットの勢いに乗って発表したミックステープ『Young Rich N*ggas』でもオフセット不参加の曲がいくつかあり、「Versace」に続くヒットとなった「Hannah Montana」もオフセット不在の曲だった。そのためトリオのミーゴスだが、最初はデュオとしてのブレイクのような形になった。今ではオフセットのソロでの活躍が目覚ましいが、初期の人気はクエイヴォとテイクオフの二人が支えたのだ。



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