「UKジャズはダンス・ミュージック」エズラ・コレクティヴが語るロンドン・シーンの本質

 
Photo by Aliyah Otchere

アフロビート、レゲエ、グライムとの関係性


―先ほど名前が出ましたが、フェラ・クティの音楽を知ったのはいつですか?

フェミ:僕がまだ赤ん坊の頃から父が車の中で聴いていたんだ。そもそも僕が初めて好きになった音楽はフェラ・クティだった。家には彼のCDがあったからね。でも、7歳から10歳ごろには父が聴く音楽をもう卒業していて、他のものを聴いていた時期だった。そして14歳のころ、ひとりの自立した演奏者になった僕はフェラ・クティを再発見したんだ。

―エズラの音楽の中でアフロビートは重要な要素だと思います。どのように取り入れようとしてきたのでしょう?

フェミ:アフロビートの核となっているのはドラムだと思っている。サックスはコードやベースを変えたとしてもアフロビートのままだろうけど、ドラムを変えてしまったらもはやそれはアフロビートじゃなくなってしまう。つまり、アフロの要素はビートから来ていて、それはすなわちドラムによるものってこと。だから、僕らはドラムとベースの関係性を取り入れることによって僕らのサウンドをアフロビートたらしめるものにしているんだ。例えば「Chris and Jane」で聴けるドラムのブン、ブ、カッカッ♪っていう感じのビートはアフロビートのドラミングそのものだよね。その一方でコードやハーモニーに関してはかなりジャズ寄りにしているし、ホーンのラインはサンバやサルサに通じるものがあると思うよ。



―エズラにとってレゲエも重要な要素ですよね。レゲエのリズムだけではなく、ダブの要素も様々な曲で使われています。

フェミ:僕の父はレゲエも好きでね。それにジョー・アーモン・ジョーンズが僕をロンドンのダブ・サウンドシステムに導いてくれた。僕はそれまでレゲエは詳しくなかったんだけど、サウンドシステムのダンスに関心を持つようになった。特にシンセベースやサウンドプロダクションに注目するようになってからはレゲエにハマっていって、ヴァイナルも集めるようになった。


ジョー・アーモン・ジョーンズ、2018年のソロデビュー作『Starting Today』のダブバージョン。彼は2022年、ダブステップの先駆者マーラとのコラボ作『A Way Back』を発表している。

とはいえ、当初はレゲエをプレイすること自体に快適さを感じてなくて、シックリ来るとは思っていなかったんだけどね。だから、「Colonial Mentality」(2016年の初期EP『Chapter 7収録)は上手くいったけど、あれ以降「Red Whine」(1st収録)までは録音しなかったんだ。でも、最新作では強烈なダブレゲエ・ソング「Ego Killah」を作った。ベースの感じやサウンドシステムっぽいところが気に入っているよ。

あと、ロンドンはジャマイカの文化にかなり影響されているところがある。ジェームス・モリソンはジャマイカの出身だし、ロンドンで育つと影響を受けずに育つほうが難しい。それから、TWを運営しているゲイリー・クロスビーのジャズ・ジャマイカも僕らにジャマイカの要素を持ち込んでくれた。僕はTWの一員として、ロイヤル・フェスティバル・ホールで開催された“Bob Marley Songbook”というイベントに参加して「Catch a Fire」をプレイしたことがあった。あのコンサートはかなり大きな影響を与えてくれた。




―エズラといえば、グライム×ジャズのサウンドも欠かせません。どのような試行錯誤を経て発明したのでしょうか?

フェミ:僕らが10代を過ごした頃にグライムが盛んになってきた。だから、JMEやスケプタ、ワイリーも僕らに大きな影響を与えてくれた。ロンドンはたくさんの音楽が常に同時にやってくる素晴らしい場所なんだよ。

ジャズが素晴らしいのは、異なる様々なアートフォームを自由にミックス出来ること。ディジー・ガレスピーはアフロキューバンをビッグバンドのスイングに落とし込んでいるし、マイルスはクラシックを聴きながらジャズやビバップのラインを変えていった。80年代のハービー・ハンコックがディスコを聴いていたのは明白だよね。ファンクやポップ、マイケル・ジャクソンまで聴いていたから、ハービーは『Thrust』や「I Thought It Was You」を作ることができた。



僕はマックス・ローチを聴きながら、同時にスケプタも聴いてきた。ウェイン・ショーターを聴く一方でJMEを聴いてきた。そこで、ウェイン・ショーターはグランドピアノを使っていたけど、それをムーグやシンセで置き換えてみようと考えた。アート・ブレイキーがライドシンバルとスネアドラムでプレイしてきた一方で、僕はグライムのサウンドに近付けるためにリムショットとハイハットを駆使してやってみようと考えた。ビバップってかなりテンポが速い音楽なんだけど、それをかなりスローダウンさせて140くらいのBPMに落としてみたらグライムっぽいサウンドになったんだ。

ピアニストのエロル・ガーナーの「Caravan」のソロでのリズムを聴いたときに「これって70年前のグライムじゃん!」って思ったこともあった。クリフォード・ブラウン&マックス・ローチの「George’s Dilemma」のイントロのベースラインの速度を上げたら、グライムみたいに聴こえたこともあった。僕はそういう実験を恐れることなくやってきたんだ。JMEの「Serious」のモチーフのグライムっぽい部分を自分なりにアレンジして「The Philosopher」で使わせてもらったりもしているよ。

最初はグライムを聴いてそれをジャズに落とし込んでいた。「The Philosopher」や「Enter the Jungle」がそのやり方。でも、次第にジャズを聴いて、それをグライムに落とし込むことを考えるようになった。そうやって出来たのが「More Than a Hustler」、「Quest for Coin」だね。





Translated by Tommy Molly

 
 
 
 

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