「UKジャズはダンス・ミュージック」エズラ・コレクティヴが語るロンドン・シーンの本質

 

Photo by Aliyah Otchere

最新作のコンセプト、ジャズとダンスの関係


―エズラは前作以降、4作の素晴らしいシングルをリリースしてきました。それらが新作には収録されていないことには驚きました。シングルを入れずに作った新作『Where I’m Meant To Be』のコンセプトを教えてください。

フェミ:実はアルバム自体は2020年には完成していたんだ。でもパンデミックもあって、リリースのタイミングを待つことになって、しばらくやることがなかった。だから、僕は「More Than a Hustler」、「Dark Side Riddim / Samuel L. Riddim」、「May The Funk Be With You」を書いたんだ。4つのシングルを書いたのは、パンデミックによって僕らが求めた活動ペースが維持出来なくなってモチベーションを失いそうになったから。だから、曲を書いてリリースすることが自分にとって重要だった。自分たちはアルバムをリリースするタイミングを何もせずに待つだけなんて出来ない性格だからね。



『Where I’m Meant To Be』のコンセプトの話だけど、シンガポール、日本、インドネシアでプレイしてからオーストラリア、ニュージーランドに行って、そこでパンデミックによる中断を挟むことになって最初の数カ月は休息を取っていた。そこで僕は「今いる場所にずっといたいのか? それともこれから進むべき所に行くべきなのか? それとも自分がいた場所を見つめ直すべきなのか?」と色々考えるようになった。そういった自問自答を繰り返すうちに、全てが一つの旅路のように思えてきた。何かをひとつ成し得たような気分になったときに、「Victory Dance」が生まれた。あまりにも遠くまで歩みを進めたために二度と同じ場所に戻ることはないんだなと感じることもあれば、笑みが溢れるような瞬間もあった。旅をしていれば自分がどこかに帰属する感じを求めることもあれば、一人では成し得ないことがあることにも気付く。そういった様々な気付きから今回の楽曲はやってきている。僕らはスタジオに集まったらみんなで音を出して短期間で曲を作ってしまうことが多いんだけど、今回はかなり時間をかけた。僕らの楽曲を聴いて多くの人たちがハッピーになってくれると確信しているよ。

―まずは1曲目の「Life Goes On」について聞かせてください。フェラ・クティ的なアフロビートと、ハウス的なアフロビーツが融合している面白い曲です。

フェミ:僕はロックダウンの頃にウィズキッドやアマピアノをたくさん聴いていた。その中でもアマピアノのシェイカーに魅了されて、そのサウンドが僕のドラムにどんなものをもたらしてくれるのかを考えた。この曲では偽物のシェイカーを加えて、まるでドラムビートのようにプレイしようとしたんだ。そこにフェラ・クティのようなベースラインやホーンを重ねてみたら、僕らはいつの間にかスタジオで踊り始めていた。ジャズソングなのに、まるでポップソングのような感じになったんだ。通常、僕らがジャズの曲を作る時は、円形に座って一度プレイを始めたらそのまま終了って感じ。でも、この曲はシェイカーで始まり、ドラム、ベース、ホーンの順番で重ねていったら、マジカルなサウンドのループに辿り着いた。最終的にまるでアマピアノ、アフロビート、アフロビーツ、そしてジャズが組み合わさった曲が生まれたって思ったよ。

そして、こんな組み合わせの音楽を僕らと一緒にやれるのはサンパ(・ザ・グレート)しか思いつかなかった。彼女の音楽を聴けばフェラ・クティへのリスペクトも感じられるし、南アフリカのハウスやアフロビーツも感じられる。それに僕は彼女のラップのフレージングからトランペット奏者に通じるものを感じていた。だからこの曲でのトランペット(イフェの演奏)はサンパのような存在なんだ。実際、ホーン奏者にサンパのプレイを真似てみろって言ったら、たぶん出来ちゃうと思う。例えば、ソニー・ロリンズの「St. Thomas」の最初のソロなんてサンパがラップする様子そっくりに聴こえるからね。



―「Victory Dance」はアコースティックのラテンジャズのサウンドだったので個人的にはかなり驚きました。

フェミ:僕はサルサのライブで人々が楽しむ様子を見るのが好きなんだ。サルサに合わせて踊るのは楽しいからね。この曲では808、シンセサイザー、キーボードは一切使わずにアコースティック楽器だけで人々を踊らせている。この曲は僕がジョギングしている時に書いたんだ。勝利を祝福するようなサウンド、それこそ大英帝国が戦争に勝利をした時のファンファーレのようなサウンドを求めたんだ。ファンファーレを聴いた時って「じゃあ踊ろうよ!」ってなるだろう? トランペットによって勝利を、そしてドラムによってダンスを想起させているんだ。この曲を僕らはライブ録音した。スタジオにパーカッション奏者も招いてみんなで輪になって演奏したんだ。

―「Life Goes On」と「Victory Dance」のMVは、どちらもダンサーを中心にしたものです。過去の曲だと「You Can’t Steal My Joy」もそうだと思いますが、エズラにとって「音楽で踊らせること」はとても重要な要素だと思います。その辺りの話を聞かせてもらえますか?

フェミ:「Life Goes On」はアフロビート、アフロビーツ、ジャズ、アマピアノを組み合わせた曲だから、二つの国を組み合わせたMVにしたんだ。ロンドンとルサカ(ザンビアの首都)を同時に感じさせるものにしたかったからね。それぞれの街ではしゃいでいる人たちを映していて、ロンドンの床屋で髪を切ってもらっている人もいれば、ルサカの美容室で髪をセットしてもらっている女性もいる。例えるなら、ラーメンとピザを一つのプレートでいただいているような感じかな(笑)。異なる二つの世界を同時に楽しむんだ。それでいて両者の世界を音楽が繋いでいて、それを視覚的に伝えるのがダンスなんだよ。「Victory Dance」も同じ考えで、ボクシングのリングとミュージシャンたちを繋ぐものがダンスってことになる。

そもそもダンスってジャズと繋がりのあるものだよね。タップダンスはジャズの表現形態の一つだし、スウィングダンスだってジャズに由来している。僕はジャズのコアの部分ってダンスに繋がっていると思っているから。そして、僕らはその核となる部分を維持していきたいと思っている。

現在、アメリカから生まれてきているジャズと僕らの間に一線を引かせているのはダンスの要素かもしれない。アメリカの現代ジャズは必ずしも踊ることを前提としているわけではないよね。ロバート・グラスパーやマカヤ・マクレイヴンは素晴らしいミュージシャンだけど、彼らの音楽でどれだけの人が踊っているのかはわからない。その一方で、UKジャズにはダンスの要素がかなり入っている。だからこそ僕らはジャズのクラブよりも大きな会場でプレイしたいと思うことが多くて、それは席に座りたがらない人たちが多いからなんだよね。彼らは立って踊ってシャウトしたがっているんだよ。



―そもそもUKでは、80年代からDJカルチャーとも密接なジャズ・ダンスやブリットファンクのムーブメントがあって、それらはダンサーたちが不可欠のムーブメントでした。UKは世界のどこよりもジャズとダンスが密接な関係にある国だと思います。エズラの音楽にとってダンスが重要であるのは、UKのカルチャーとも関係があるんでしょうか?

フェミ:UKってダンスを求める人たちが多い気がするんだよね。UKのロックカルチャーのモッシュって、体制から飛び出そうとする勢いに通じるものを感じるんだ。皮肉なことなんだけど、僕たちにはフラメンコやチャチャチャのような国民的なダンスがない。その代わり、動き回りたがる文化になっている。これはジャマイカやナイジェリア、西アフリカ由来の多くの文化によって、ダンスやヴァイブレーションが持ち込まれていることに起因していると思う。共通しているのは音楽の中にあるワイルドさで、ギターを破壊したり飛び回ったりってことにも発展している気がするよね。グラストンベリーフェスなんてかなりワイルドにみんな飛び回っている。個人的にはそういうところにイギリスらしさを感じるかな。

あと、アフリカに関しては大陸全体を眺めてもダンスを主体とした文化だと思う。そういえば、日本に行った時はあまりダンスが中心的な文化には見えなかったかな。大阪でプレイした時、オーディエンスは静かだったから、僕たちのことを気に入ったのかそうじゃなかったのか最初はよく分からなかったよ(笑)。でも、エンディングではみんな踊ってくれて、あれでやっといつもの感じになってくれたと感じたね。僕らはみんなが自由に踊ってもらえるライブにしように心掛けているから。


2019年のグラストンベリー・フェスに出演したエズラ・コレクティヴ、「You Can’t Steal My Joy」で観衆がダンス

―本作ではサン・ラの「Love in Outer Space」をカバーしています。以前にも「Space is The Place」を2度カバーしていましたよね。

フェミ:単に僕らはサン・ラのことが好きなんだ。彼が書く曲って何千ものバージョンでアレンジ出来るもののような気がしてね。例えばマイケル・ジャクソンの「Thriller」なんて他のバージョンで聴きたいとは思わない、完成されたものだと思う。でも、サン・ラの曲はあまりにもシンプルかつ美しいので、他のバージョンでもぜひ聞いてみたいと思うんだ。ジョージ・ガーシュインのアメリカン・ソングブックと呼ぶべき曲と同じだね。「Summertime」はそれ自体も美しいのに、様々な人がプレイしたバージョンもどれも美しい。それと一緒だ。

それにサン・ラはジャズを新たな次元に持って行った。僕らもジャズを新たな世界に連れて行きたいと思っているから、深いつながりを感じるんだ。「Love in Outer Space」をレコード屋で発見した時、その美しさに驚いて、すぐに僕たちのバージョンをプレイし始めたんだ。当初はもっと速いアフロビートなバージョンだったけど、その後スタジオに入って録音することになって、ネオソウルっぽい美しいものにしてレコーディングしたんだよね。



2018年、ジャイルス・ピーターソン主宰のWorldwide Awardsで「Space Is the Place」カバーを披露。ヌバイア・ガルシア、テオン・クロスも参加。

Translated by Tommy Molly

 
 
 
 

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