ジャイルス・ピーターソンが自ら解説、ストリート・ソウルという80年代UKの音楽遺産

 
新世代との交流、日本のレコード、ファラオ・サンダース

―「Lazy Days」でのエマ・ジーン・サックレイも印象的です。

ジャイルス:僕とエマは結構付き合いが長くてね、何年も前に彼女のメンターをしていた時もあったんだ。彼女がこの世界に入ってきた時から、彼女は他の人と全く違っていて、唯一無二の存在だと思った。彼女はどのシーンにも属さないし、非常に幅広い考え方やアイデアがある。だからポップスターにもなれるし、ジャズスターにもなれる。ジャズの世界でも易々とやっていけるだろう。彼女は自身のラジオ番組でストラータの曲をかけてくれたんだ。だから彼女に連絡を取り、新作に参加してみないかと提案した。彼女は快諾してくれたよ。そこで彼女に、マット・クーパーが作曲した「Lazy Days」のバッキングトラックを送った。彼女はそれを別次元のものへと仕上げてくれたよ。歌を加えて、曲の存在意義というかコンセプトを加えてくれた。彼女と一緒に仕事ができてとても光栄だった。彼女のInstagramのフィードを見ていたら、彼女が日本にいる画像があった。HMVかどこかのお店でアルバムのプロモーションをやっていたみたいだ。彼女に会うために並んでいるファンの列がものすごく長くてびっくりしたよ。




シオ・クローカーの参加も重要ですよね。彼はドナルド・バードの教え子で、ジャズ・ミュージシャンには珍しくクラブ的なセンスも持っています。

ジャイルス:そうだね。シオとはかなり前からの知り合いなんだ。僕は昔、DJのギグでよく中国に行っていたんだけど、シオは上海に住んでいる時期があって、その時は毎回僕のDJを観に来てくれた。彼はトランペットを持参して、時々僕のセットの最後にジャムをしていたんだ。

僕はディー・ディー・ブリッジウォーターとも知り合いで、シオはディー・ディーともよく一緒に仕事をしていた。彼が今回のアルバムに参加してくれたとき、彼はカッサ・オーバーオールと一緒にロンドンに来ていて、彼と一緒にライブをやったんだ。僕はカッサとも仲が良くて、彼のレコードもリリースしている。彼らはうちのベースメント(Brownswood Basement)でセッションをやってくれたんだよ。それで今回のアルバムの時もシオに連絡して「トランペットが必要だから来てくれないか?」と頼んだんだ。彼はすぐに対応してくれて、理解も早かった。GRPのアーティストで「Funkin’ for Jamaica」や「Throw Down」という曲をやったトム・ブラウンみたいなトランペットの音がほしかったんだ。シオはまさに適役だったよ。ドナルド・バードやトム・ブラウンあたりのヴァイブスが欲しかったところに、シオが彼なりのフレイヴァーを加えてくれたんだ。





―シオが参加した「Soothsayer」も素晴らしいですよね。80年代のマイルス・デイヴィスみたいで。

ジャイルス:ストラータとして作っていたエレクトロ・ソウルっぽいビートの作り置きがあって、シオに聴かせたらすごく気に入ってくれた。彼はそのビートに合わせて自由に演奏したんだ。だからおまけでできたトラックみたいなものだね。僕の2番目の息子が音楽プロデューサーをやっているんだけど、彼に制作途中のアルバムの曲をいくつか聴かせたら、面白いことに「Soothsayer」が一番のお気に入りだと言っていた。息子は大野雄二という日本のアレンジャーが大好きで、僕でさえ知らない日本の音楽を色々と教えてくれるんだ。僕は大野雄二の音楽をあまり聴いてこなかった。少しスムーズすぎてね。でもすっごく良い曲も中にはあるんだ……ごめん、この話はまたの機会にしよう(笑)。

―(笑)。

ジャイルス:柳樂さんの後ろに飾ってあるレコード(日野皓正『シティ・コネクション』)は、僕たちの次のアルバムにピッタリだと思う。ストラータの3枚目は、何曲かをブラジルで作って、何曲かを日本で作りたいと思ってるんだ。ブラジル+日本+ヨーロッパのアルバムで、「ファンク・インターナショナル」というテーマでやろうと思ってるよ!

―たしかに『シティ・コネクション』には、すごくファンキーなトラック(タイトル曲)が3番目に入っていますからね!

ジャイルス:僕が好きなのは「Samba De La Cruz」と、もう1つは「Send Me…」

―「Send Me Your Feelings」 ですね。

ジャイルス:そう、ファンタスティック! 最っ高なトラックだよ! 大好きな曲なんだ! とてもストラータっぽいと思う。



―近年、日本のレコードへの関心がすごく強いみたいですね。

ジャイルス:僕は今、ロンドンのBBCでラジオ番組をやっているんだけど、最近は時々シティポップをかけるんだ。この番組の視聴者は昼間の時間帯の人たちで、まあメインストリームな層だと思うんだけど、それでもかなり反応がいいんだよ。それが興味深い。理由はわからないけれど、現代の人たちの方が、昔の人たちよりも(知らない音楽について)ずっと好奇心が強い。僕自身、新しい音楽をたくさん発見している。そうだ、ロンドンには今、日本の音楽しか扱っていないレコード屋があるんだよ!「IDOL MOMENTS」という名前のお店で、日本の帯付きのシティポップ、日本のフュージョン、日本のアンビエントや電子音楽…… とても興味深い! ほんとに日本の音楽しか置いていないんだよ(笑)。

―今回のアルバムでいうと、「Virgil」は日本のジャズ/フュージョンからの影響がありそうな気がしたんですが、いかがですか?

ジャイルス:この曲は最初、ブラジルのジャズ/フュージョンからインスパイアされて作られたんだ。でも、日本のジャズ/フュージョンとブラジルのそれには密接な関係があり、日本のジャズ/フュージョンの多くにもブラジルらしい強いパーカッションが入っていて、それが重要な要素を成していた。そういった意味で、柳樂さんは僕と似たような捉え方をしたのだと思う。

曲名を「Virgil」としたのは、ヴァージル・アブローが亡くなった日にこの曲をレコーディングしたから。彼自身もDJカルチャーやニュー・ジャズが大好きな人だったからね。それに彼は、バッドバッドノットグッドやシャバカ・ハッチングスを、自分が開催していたパリのファッションショーに呼んで演奏させていた。とても素晴らしい業績を残した人物だし、このような音楽を幅広く普及させるうえで重要な貢献をしてくれた。ジャズとアンダーグラウンド・ミュージックにとっても非常に重要な人物なんだよ。だから彼へのトリビュートとなる曲を作りたかったんだ。



―最後にストラータとは関係ない質問をさせてください。ファラオ・サンダースが9月24日に亡くなりました。あなたは世界で最もファラオから影響を受けたDJだと思います。彼からどんな影響を受けたのか聞かせてもらえますか?

ジャイルス:僕らは80年代からファラオと関わりがあった。彼はDJたちが最もよくかけていたスピリチャル・ジャズのアーティストだったからね。でもファラオは、クラブシーンで活動していたわけではない。ディープなコルトレーン派の生徒で、ヒット曲をリリースすることには重きを置いていないアーティストだった。だから「The Creator Has a Master Plan」や「You’ve Gotta Have Freedom」といった曲で(クラブシーンの)スターになったのは、本人が望んでいたことではなかった。彼自身もその名声に多少は抵抗があったのだと思う。ファラオは常に新しいことを発見したいタイプのアーティストだったから。

でも、僕らは彼のそういう価値観を全て理解していたし、その価値観に自分たちがどのようにフィットするのかを理解していたから、ファラオと素晴らしい関係を築くことができた。彼は、僕がDJとしてどのような音楽をかけるか、DJとしての「DNA」というべき部分に、非常に大きな影響を与えたと思う。彼の存在があったから、僕はサン・ラーやコルトレーン、アルバート・アイラー、アーチー・シェップやAACMといった素晴らしいフリー・ジャズのバックボーンを見ることができたし、そのシーンと僕らを繋げてくれたのがファラオなんだ。彼は僕らDJの活動に意味を与えてくれたんだよ。

彼の最後のコンサートになった公演が、イギリスで開催したWe Out Here(ジャイルス主宰のフェス、今年8月下旬に開催)だったというのが非常に感慨深い。ファラオを招待することができて、彼に7000人もの観客の前で演奏してもらえたのは本当に特別だった。息子のトモキもステージで彼を支えて、とても感動的な時間だった。非常に意義のあるコンサートだった。ファラオはそのコンサートの意味をわかっていたし、みんなもわかっていた。彼はお別れを言いたかったんだ。魔法のような瞬間だったよ。あのような美しい終わり方をすることができて本当に良かったと思うよ。

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ストラータ
『STR4TASFEAR』
発売中
国内盤CD:歌詞対訳・解説、ボーナストラック収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13022

Translated by Emi Aoki

 
 
 
 

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