インスペクター・クルーゾが語る「ロック農家」の戦い方、イギー・ポップの局部を歌う理由

 
「ロック農家」のプロテストソング

―それはよかったです。それでは、新しいアルバムについて話を聞かせてください。すでにライブでもやっているというアルバム表題曲「Horizon」は、なんでも1stアルバム用に作ったものの、その時は完成に至らなかった曲だそうですが、なぜ、その曲を今回、ひっぱり出してきたんですか?

ローレント:年齢を重ねて、当時よりも賢くなったからさ(笑)。なぜ完成させられなかったかと言うと、歌詞が気に入らなかったからなんだ。俺達が子供の頃からずっと見てきたガスコーニュの地平線のことを歌にしたかったんだけど、あの雄大な景色にふさわしい言葉が当時は出てこなかった。今回、それがようやく言葉にできたんだ。だから、実のところ、曲やサウンドは1stアルバムの頃のままなんだよ。

―なるほど。これまで何度か完成させようと試みたことはあったんですか?

ローレント:何度も挑戦してきたよ(笑)。



―それが今回、アルバム・タイトルにするくらい気に入ったものになった、と。

ローレント:そういうこと。2021年の夏、地元のオーケストラと3000人のお客さんの前でライブをやったんだ。そのために「Horizon」というテーマで40分くらいの曲を作ったんだけど、今回、アルバムに入っている「Horizon」は、実はその一部なんだ。そんなふうにこれまでいろいろなことに試みてきた中で、オーケストラと演奏する楽曲として完成させることができたんだ。そのオーケストラとは以前にも共演したことがあって、その時は過去曲を演奏したんだけど、その時のアレンジャーが「Horizon」というテーマを気に入ってくれて、それを基に何か作り上げたらどうかと提案してくれたんだ。それがすべての始まりだった。因みにオーケストラと「Horizon」を演奏した時のライブは、フランスのローリングストーンが記事として取り上げてくれたよ(笑)。

―今回のアルバムは、これまで以上にストリングスを使っているという印象があります。それはオーケストラと共演したライブの延長で、ストリングスをたくさん使ったらおもしろいんじゃないかと考えたからなんでしょうか?

ローレント:その通りだ。

―ストリングスを使ったことも含め、今回のアルバムはこれまで以上にサウンドが多彩になっていると思います。今回、アルバムを作る上では、ストリングスを使う以外にどんなことを考えましたか?

ローレント:今回は、とてもディープな作品にしたかった。実際、そういうアルバムになっていると思うんだけど、それは自分達の周りの環境も含め、俺達が目にしてきた良いことも悪いこともすべてリアルな経験を歌っているからなんだ。特に農場での経験に基づいた曲が多いね。たとえば、「Wolf At the Door」は、大農業企業や政府からのプレッシャーと戦った時のことを歌っている。そういう意味では、ちょっとニール・ヤングっぽいヴァイブが入った作品だと思う。レコーディングには3週間掛けたんだけど、これまで1週間で終わらせていた俺達には、そんなに長い時間を掛けるなんてことは初めてのことだった。プロデューサーのヴァンス・パウウェルが「今回の曲はこれまで以上に力強くて、深いことを歌っているから、ていねいにレコーディングしたい」と言ってくれて、そうなったんだけど、実はアルバムの完成までに3年掛かっているんだよ。と言ってもパンデミックのせいでそうなったわけじゃない。それだけの思いを込めて、作ったからこそ、それだけ時間が掛かったんだ。1曲だけイギー・ポップのペニスについて歌った「Rockphobia」というふざけた曲があるけど(笑)、それ以外の曲では農場での経験を基にした俺達のリアルな感情を表現しているよ。



―これまで以上に力強くて、深いというのは、歌詞がということですか?

ローレント:そうだね。ただ、歌詞が深くなると、音楽も自然と、より大きなものになる。ニール・ヤング、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンの曲がそうだったようにね。歌詞が弱いと、やっぱり曲自体が持つ力も弱くなると思うし、パール・ジャムのようにはなれないと思うんだ。歌詞が音をひっぱり出すってこともあるんだよ。大農業企業や政府と戦ってきた経験をしっかりと歌うことで、音楽も力強いものになったと思う。

―大半がプロテストソングと言えるんじゃないかと思うのですが、自分達のメッセージを世界中の人々に伝えたいという気持ちも当然あるわけですよね?

ローレント:俺達はアクティビストだけど、トーカーじゃない。だから、メッセージはすべて音楽に込めている。確かに俺達には信じるものがある。でも、それを他の人に強要しようとは思わない。俺達は自給自足、地産地消を是としている。たとえば、パンにしてもアメリカから輸入した小麦粉ではなく、自分達の地域で採れた小麦粉で作ったものを食べたいと思っている。だけど、それは俺達がそうしたいから俺達の生活に取り入れているだけであって、他の人にもそうしてほしいとは思っているわけじゃない。俺達がやっていることが良いと思うならやってほしいけど、良いと思わなければ、そうする必要はないと思っているよ。農業のやり方も同じこと。俺達はそういう考えなんだ。俺達の音楽を聴いて、何か感じてもらってもいいし、単純に楽しんでもらってもいいし、そこはリスナーそれぞれ自由に聴いてもらえればいいね。

 
 
 
 

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