ジャケットのアートワークは、アーティストとリスナーの重要なファーストコンタクトーアルバムジャケットに対する考え方や音楽の消費方法は昔と変わりましたが、それによって何が失われたのでしょう?実際、いまは少し復活してきているんじゃないかな。でも、あなたの言うこともよくわかる。確かに、ひとつの芸術作品としてのアルバムジャケットの重要性は失われてしまった。いまでは誰もCDに興味がないのも不思議だ。いまの音楽はストリーミングかレコードの2択になっている。でも、ジャケットの重要性という概念は……。
要するに、ピーター・サヴィル(ファクトリー・レコードの共同創業者およびアートディレクター)に出演してほしかった理由は、まさにそこにあるんだ。私は、ピーターがジョイ・ディヴィジョンのアルバム、特に『Unknown Pleasures』(1979年)のジャケットでやったことと、ヒプノシスが『狂気』でやったことを比較したかった。個人的には、両者はある意味とても似ていると思う。確かにピーターはヒプノシスのことを毛嫌いしていたけど。ヒプノシスのアートワークではなく、彼らと一緒に仕事をするバンドのことを嫌っていたんだ。
ーパンクロッカーの中には、メッセージ入りの自作Tシャツを着る人もいたようですね。そこに書かれていたのは……。「ピンク・フロイドなんて大嫌い」だ。そのとおり。パンクは過去のバンドとその作品を徹底して拒絶した。それでも、ジェイミー・リードが手がけたセックス・ピストルズのアルバム(『勝手にしやがれ!』)を見てほしい。こんなところにもヒプノシスの影響が見られるじゃないか。そうしたシンプルさが最高なんだ。でも私は、若者ぶった鼻持ちならない老人だから……何とも言えないな(笑)。
ーピンク・フロイドのようなバンドとヒプノシスの関係性は監督にとって馴染み深いものだと思います。デペッシュ・モードと仕事をするようになってからどれくらいですか?デペッシュ・モードとは1986年から仕事をしているから、37年だ。U2とは40年になる。
ーこのドキュメンタリーを手がけたことで、何十年にもわたるアーティストたちとのコラボレーションについて改めて思ったことはありますか? U2やデペッシュ・モードのようなアーティストの神話の形成においてビジュアルアーティストが果たす重要な役割を考え直すようなことは?(長い沈黙)バンドの写真やアルバムジャケットというものは、その作品を買う人が最初に触れるバンドの音楽の解釈だということに改めて気づかされた。ジャケットのアートワークは、アーティストとリスナーの重要なファーストコンタクトなんだ。私は、音楽を聴く時は必ずグラフィカルなつながりはないかと探している。最終的には、つながりがなさそうなものでもつながっていることがある。これはとてもヒプノシスらしいことだと思う。昔のバンドだからこう、新しいバンドだからこう、ということはないんだ。
3月にリリースされるデペッシュ・モードのニューアルバム(『Memento Mori』)のスリーブの写真を撮ったんだ。あと、3月にリリースされるU2のニューアルバム(『Songs of Surrender』)の写真も撮った。だから、いまでもこうした世界に携われていると言えるかもしれない。でも、それが当然だとは思っていない。「あのバンドが新作を出すらしい。もちろん、私がアートワークを手がけることになるだろう」のようなことは思っていない。コラボレーターとしてのポジションを自分の力で手に入れたいからこそ、一生懸命努力しなければいけない。
ー今回のドキュメンタリーに関してはどうですか?いままで自分がしてきたことにより一層感謝するようになった。ひょっとしたら、自分の今後の働き方も変わるかもしれない。1983年にMVの仕事をはじめた当時、MVは自分の写真に大きな影響を与えた。その影響は、とてつもなく大きかった。でも、それに気づくのに10年かかった。
ーどのような影響でしたか?静止したものやポーズをとったものに焦点を置く代わりに、動きの感覚を取り入れるようになった。小道具を使って、カメラの前できていることをアレンジするようになった。興味深いことに、私の初期のMVはどれも写真のように見える。当時の私は、写真というマインドセットに固執していたんだ! その後、映像作品を手がけるようになったことで、写真を撮る時もそれまでとは違うアプローチをとるようになった。このドキュメンタリーが今後の私の作品にどのような影響を与えるかはわからないが、何か変化があることを期待している。変わり続けるためにも、私にはこの仕事が必要だから。
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