大切な何かを喪失することを考える、死別・喪失と向き合うために理解しておくべきこと

死別・喪失した人は、こうした悲しみに浸るような感情と、現実に適応しようとする感情との間を行ったり来たりして揺れ動きます。これらの悲嘆は死別・喪失した対象によっても変わってきますが、死別の場合は「何とか一区切りついた」となるまでに約4年半かかるという統計値があります。また、悲嘆自体は正常な反応なのですが、それが過剰になりすぎてしまうと「複雑性悲嘆」という状態になってしまい、何らかの精神疾患や身体疾患、社会不適応へと移行してしまうこともあります。

死別・喪失と向き合うためには、まず「落ち込んでしまうことは当然のことなのだ」と認識すること、それと同時に死別・喪失との向き合い方にはこれという正解はなく、ひとりひとり違って良いということ、焦らないこと、時には自分を赦し、人に頼ることが大切だということを理解することが大切です。この頼る対象には、身近な信頼できる人はもちろんですが、精神科・心療内科・カウンセラーなども含まれます。そして、無理に感情表出を我慢したり、逆に無理に感情を表出したりしないようにします。身体を休める、気持ちを言語化する、同じような体験をした人たちと繋がる、ということも有効です。

大きな悲嘆を抱えている人への支援は「グリーフケア」と呼ばれます。グリーフケアは欧米では一般的になっており、国家的な支援がある国もありますが、日本ではまだまだという状況です。グリーフケアの基本となるのは、相手の思いを尊重し、その思いに寄り添う姿勢です。つらい思いをしている人には、つい何か特別なことやアドバイスをしなければならないような気持ちになってしまいますが、向き合い方や感じ方、ペースはひとりひとり違いますので、安易なアドバイスや励ましは避けて、とにかくまずは「傾聴」することが大事です。その上で、現実生活での困難の解決や新たな人生設計の構築、必要ならば専門の相談機関や医療機関へ繋げるなどの支援にあたります。

何かを喪失したとき、それが元に戻ることがないなら、喪失する前の状態に戻ることは不可能です。そうするとできることは「違う、新しい目的地へ向かうこと」になります。どこへどのようにして、どのくらいの時間をかけて向かうのかはひとりひとり違います。それを当事者も周囲の人も理解し、ともに焦らずに歩んでいくようにします。喪失への適応は当事者本人の問題だけではなく、取り巻く社会の問題でもあり、心理的・社会的に何かを喪失した人が孤立しないような支援体制が求められます。また現代社会では「何かを得ること」にばかり意識が向きがちですが、何かを得るということは何かを失うということと裏表の関係でもあります。私たちはもっと「何かを喪失すること」について考える必要があるのかもしれません。

参照
『はじめて学ぶグリーフケア 第2版』宮林幸江・関本昭治著 日本看護協会出版会
『喪失学〜「ロス後」をどう生きるか?』坂口幸弘著 光文社新書
「家族と遺族のケア」大西秀樹/石田真弓 心身医Vol.54 No.1.2014



<書籍情報>



手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

Rolling Stone Japan 編集部

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