米有名ポルノ女優が語る、Pornhubを題材にしたNetflixドキュメンタリーに出演した理由

ドキュメンタリーの終盤で、右派勢力にメスが入る。ミッケルウェイト氏とExodus Cryが、ホモセクシャルを嫌悪する教会と関係していることが語られる。MindGeekの破綻を望む弁護士が、MindGeekを『ザ・ソプラノズ』に例える様子も出てくる。極めつけは、NCOSEがもともと「不道徳な」コンテンツの撲滅を目的としたMorality in Mediaというキリスト教系団体だったことが暴露される場面だ。団体はNCOSEに名称変更し、ポルノ撲滅のために「人身売買」を利用したのだ。事実を突きつけられると、ピンター氏もカメラの前で折れた。彼女が詐欺師だということを暴露した、実にすかっとする場面だ。


『Money Shot: The Pornhub Story』のシェリー・デヴィル/Netflix

だが暴露が遅すぎたため、混乱する視聴者もいるだろう。ドキュメンタリーで人身売買が定義されていなかったのが主な原因だ。出演者は人身売買という言葉を連呼し、MindGeekが人身売買をしていると非難するが、きちんと定義されていないため、まるでMindGeekの重役が文字通り子どもを誘拐し、性行為をフィルムに収めたとニューヨークタイムズ紙から告発されたかのようだ。だが、そうした理由でMindGeekを非難している人は1人もいない。ニューヨークタイムズ紙は、MindGeekが動画――それも悪質で間違った動画――を掲載していると非難しているのであって、文字通り女性や子どもを人身売買しているというのとは違う。

製作側はポルノ俳優に味方したかったのだろうが、人身売買の中傷があまりにも強すぎて、右派が世論を操作していると真正面から非難できなくなっている。人身売買を擁護しているかのように見られたくないがために、ドキュメンタリーは「けんか両成敗」に陥ってしまった。中立の立場を取ったがゆえ、本来のメッセージがぼやけてしまった。ドキュメンタリーを見ている間、「どちらの側にも、非常に素晴らしい人物がいる」という、シャーロッツヴィルの暴動に関するドナルド・トランプ前大統領の発言が頭から離れなかった。

違った風に編集すれば、この問題は解決できたはずだ。Pornhubではなく、キリスト教福音からスタートするとか。最初からキリスト教徒の動機を示していれば、Exodus Cryの起源やNCOSEの名称変更から入っていれば、曖昧さは回避できただろう。確かにPornhubが悪質な動画を掲載したが、それはインターネット全般に言える問題で、右派が「人身売買」を口実にポルノをつぶそうとしていることがはっきりしただろう。

『Money Shot』は嫌ではないが、気に入ったわけでもない。私ではなく他のセックスワーカーが出演していたら、もっと最悪になっていただろう。ナレーター不在のため、ドキュメンタリーではどうしてもカメラの前で語る証言者に頼らざるを得なかった。メディアに出るポルノ俳優が増えれば、自称「人身売買反対活動家」が捏造した主張ではなく、私たちの実体験に共感してくれるジャーナリストや監督の数も増えるだろう。

今回のドキュメンタリーについてツイートしなかった活動家が2人いる。ダニ・ピンター氏とライラ・ミッケルウェイト氏だ。アメリカいちの正統派を自称し、顕示欲の強いTwitter中毒の2人が『Money Shot』についてツィートしていないということは、2人ともドキュメンタリーのせいで大義が邪魔されたと感じているということだ。ミッケルウェイト氏にとっては、セックスワーカーの権利を求める運動がしぶとく続いているのが問題なのだ。『Money Shot』は完璧なドキュメンタリーではなかったが、大手プラットフォームでストリーミングされることで、ポルノ業界に関する誤った言説を打ち砕くことになるだろう。そうした理由から、私も最終的には『Money Shot』に出演してよかったと思っている。私はこれからも主張を止めるつもりはない。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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