ボーイジーニアス『the record』を考察 スーパーグループを超越した3人の化学反応

「スーパーグループ」を超越している理由

「Not Strong Enough」で3人は、独創的な音を聴かせている。オープニングでジョニ・ミッチェル風にギターをかき鳴らすと、80年代のニュー・オーダー的なリズムへと展開する。コーラスは、シェリル・クロウの名曲「Strong Enough」を彷彿させる。ヴァース部分は、同じくシェリル・クロウの「If It Makes You Happy」や「A Change Would Do You Good」の雰囲気を感じる。“峡谷を走り抜けるドラッグレース/「Boys Don’t Cry」を歌いながら/私たちの体が道路の上に転がっているのが見える?”と、ベイカーが陽気に歌う。



「Revolution 0」(ザ・ビートルズの『White Album』を意識したのだろう)は、ブリジャーズが、遠距離恋愛をため息まじりに歌う悲痛なバラードだ。“私の頭の中にいる空想のお友だち”に思いを巡らせながら、“これが愛でないなら、一体何なの?”と疑問を投げかける。また、バンジョーをバックに歌う曲「Cool About It」では、別れた相手との再開がどれだけ酷い結果になるかをテーマにした、3つの異なるストーリーが絡み合う。“どんな効果があるのか知りたくて、あなたの薬をこっそり飲んでみたことがある”と、ブリジャーズは打ち明ける。そして“これからは、あなたの心が読めない振りをしなければならない/気分はどうかと尋ね、あなたに嘘をつかせている”と鋭い調子でささやく。

ダッカスは、「Night Shift」、「Map on a Wall」、「Triple Dog Dare」のように、魂の悪魔祓いへと発展する長い独白を得意としてきた。アルバム収録曲のタイトルに名を冠したレナード・コーエンのように、ダッカスもまた、7分間の長い曲で本領を発揮するタイプのシンガーソングライターだ。アルバムのハイライトである壮大なバラード曲「We’re in Love」で彼女は、壊れたストーリーの欠片を集めて、つなぎ合わせようとしている。“いつか将来の10月に、私はくだらないテレビ番組に嫌気がさすでしょう”とダッカスは予言する。“私は独りぼっちでカラオケに向かう/そして私についてあなたが書いた歌を歌うでしょう/私自身は歌詞を一度も見ていないのに”と彼女は言う。しかし、たとえカラオケバーでも、曲の中の感情に向き合うには強烈過ぎる。さらに彼女は“誰にも歌って欲しくはない/そんな曲が定番になって欲しくない”と望む。

この時点でまだ「We’re in Love」に感じるものがなくても、曲の最後にひとつの展開がある。ボーイジーニアスの3人が、“I could go on and on and on/And I will”と歌う。テイラー・スウィフトのアルバム『1989』に収録された隠れ名曲「This Love」の、最もウィットに富んだ歌詞の一節だ。アルバム『the record』における感情的な大虐殺として、間違いなく聴く者に大きなダメージを与える。




ボーイジーニアスは「Anti-Curse」でも、もうひとつの音の極限へと達している。ベイカーのパワフルなボーカルが、ギター&シンセロックに乗って熱狂する。U2の『The Joshua Tree』とケリー・クラークソンの「Since U Been Gone」を足したような楽曲だ。アトモスフェリックな華々しいドラムロールに乗せて、ベイカーが個人的な報いについて歌う。正念場を迎えた彼女は、“悪く考える必要はない/やり方を知っていたとしてもね”と自分に言い聞かせる。「We’re in Love」と「Anti-Curse」によるワンツーパンチは、ボーイジーニアスのロックに対するスタンスを示している。『the record』の全体を通じて、3人はそれぞれのスタイルを結合し、各曲に合った化学反応を起こしている。ボーイジーニアスが並みの「スーパーグループ」を超越している理由は、そこにある。結局のところ、スーパーグループと言っても、真に優れたバンドに比べればごく「普通」の存在なのだ。そして今や、ボーイジーニアスの立ち位置を疑う余地はない。

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From Rolling Stone US.




ボーイジーニアス
『the record』
再生・購入:https://umj.lnk.to/boygenius_therecord

Translated by Smokva Tokyo

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