独占エド・シーランの告白 親友の死、うつ病、依存症、自身の闇と向かい合った先の音楽

当日、我々はもう一本インタビューを行うことになっていたが、翌日まで持ち越すことを彼は演奏中に決めたという。取材を行う代わりに、彼はステーキを食べ(ここでも筆者は同じものをご馳走になった)、赤ワインをがぶ飲みし始めた。今では彼のチームのメンバーになっている古い友人たちがその場に加わり、それぞれが自身のグラスにワインを注いだ。薄暗い照明のもと、まだ張り詰めていた空気が徐々に和らいでいくのがわかった。「今日のことは忘れよう」。シーランはそう言ってグラスを上げた。「何も起きなかったことにしよう」

とはいえ、そう簡単に忘れられるはずがない。昨夜、彼は十分な睡眠をとることもできなかった。子供たちの一方が扁桃腺炎を患っているため、彼は常に半覚醒状態であり、目を覚ますと同時に昨夜の出来事が蘇った。「できる限りのことはやったと思う」と彼は話す。「でも、観客が払ったお金に見合うものではなかった。『アバター』を観に行ったけど上映が途中で終わっちゃって、舞台に出てきたジェームス・キャメロンがストーリーの続きを口頭で説明する、みたいなものだよ。『レアな体験ができた』とは思うかもしれないけど、高いお金を払った甲斐があったとは言えない」

翌日にバックステージの同じエリアで再会した時、彼は昨日と同じショーツとパステルカラーのパーカーを着ていたが、普段よりも気が立っているようだった。クルーのメンバーは必死になって、ショーを中断させたノイズの原因を突き止めようとしていた。その結果、サブウーファーの振動によりループペダルのデジタルブレーンのチップが損傷したことが判明し、彼らはすぐにスペアをオーダーした。

我々は控室のソファに座り、大ヒットした2021年作「Bad Habits」について語った。彼はそれを「依存症についての曲」だと語っていたが、誰もそのことを気に留めていないようだ。「ピアノであの曲をすごくゆっくり弾いてみるといい」と彼は話す。「そうすれば、あれが依存症について告白する曲だってわかるはず」

今回の取材の前半に、彼は「20代はパーティー三昧だった」と語っていた。だが実際には、事態はより深刻だった。「僕はずっと酒飲みだった」と彼は話す。「でも24歳になるまで、ドラッグには一切手を出さなかった」。子供たちがいつかこの記事を読むことになった場合を考えて、具体的な名前こそ挙げなかったものの、彼はマリファナ以外の「複数の」薬物を摂取したことを認めた。「どこかのフェス会場で、『友達がみんなやってるくらいだから、そんなに酷いことにはならないだろう』ってたかを括ったんだ」と彼は話す。「それから時々やるようになって、いつしか習慣になった。最初は週に1度だったのが、気づけば日に1度2度と酒を入れずに摂取するようになってた。それがもたらしたのは、バッド・バイブス以外の何物でもなかった」


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彼は依存症をいつどうやって克服したのかを明らかにしなかったが、強い酒を断つのが最も困難だったことを強調していた。「ライラが生まれる2ヶ月間、チェリーがこう言ったんだ。『私が破水した時に、あなたは自分以外の誰かに私を病院まで運ばせるつもりなの?』」。彼はそう話す。「当時、僕は酒に溺れてた。でも彼女にそう問われて、はっきり分かったんだ。『そんなの絶対にダメだ』って。何があっても、酔った状態で子供を腕に抱くべきじゃない。絶対に。ビールを数杯飲むくらいはいい。でもウォッカの瓶を空にするのは、明らかにやりすぎなんだ。その時、自分にこう言い聞かせたんだよ。『お前は30代になろうとしてる、いい加減に大人になれ。思う存分パーティーして、嫌というほど楽しんだはずだ。それで納得して、終わりにすべきだ』。僕は赤ワインもビールも大好きだ。僕が知ってる年配のロックスターはみんな、酒かドラッグに溺れてる。僕はそのどちらにもなりたくないんだ」

コカインを原因とするエドワーズの死は、薬物に対する彼の態度を決定づけた。「何があっても、僕はもう2度と薬物には手を出さない。それがジャマルの命を奪ったんだから。その経験から学ばければ、僕には彼のことを思い出すのさえ許されなくなってしまう」

強い酒を断つことで食べる量も減り、比較的最近になって始めたという運動によって健康状態も改善した。だが食習慣の面でも、彼は苦労を経験したという。「僕はもともと自意識過剰だけど、この世界にいる限り、他のポップスターたちと比較されるのは避けられない」と彼は話す。「ワン・ダイレクションが一世を風靡してた頃は、『なんで僕の腹筋は割れていないんだろう?』って自問した。『お前はケバブとビールが大好きだからさ』。ジャスティン・ビーバーやショーン・メンデスみたいな理想的な体型の持ち主と曲を書くことになったら、今度はこんな風に思うんだよ。『僕ってなんでこんなに…太ってるんだ?』」

彼の苦笑には、ユーモアではなく皮肉がたっぷりと込められていた。「僕は自分が、エルトン(・ジョン)が自伝で語ってたことを実践しているって気づいたんだ。貪っては休み、また食べるっていうね(ジョンは自伝で当時の状況について「過食症を患っていた』としている)。「男として、絶対に人前で口にしたくないことだよ。世間にそういうイメージを与えるのも分かってるけど、正面から向き合うことが大切だと思うんだ。食べ過ぎだって自覚していながら、そのことを伏せている人ってたくさんいるはずだから」

これらの課題は今も継続している。「僕は重度の過食症なんだ」と彼は話す。「短時間のうちにすごい量を食べるんだ、見境なくね。でも今の僕は、それを全部チャラにするくらい運動してる。父親業にも必死だしね。あともちろん、死ぬほど仕事してる」

ショーの開始が迫っても、シーランはまだ話を続けていたが、不意に冗談まじりにこう口にした。「以降40分間で、涙を流す羽目にならなきゃいいな」。その日のショーは非の打ちどころのない出来だった。終盤のヒット曲の応酬、鮮やかなループペダル捌き、そしてクライマックスの花火も含めて、すべてが完璧だった。彼はステージ上で、チームのメンバーに感謝の気持ちを伝えた。

「よし」。ショーの直後、白いタオルを首にかけた彼はバックステージで、昨日とはまるで違ったトーンでそう口にした。「パーフェクトなショーだった! 申し分ないよ。時々トラブルに見舞われるくらいでちょうどいいのかもね」。興奮している彼は、大舞台での初めてのコンサートを終えたばかりであるかのようだった。誰かがワインのボトルを開ける。

曲作りのパートナーであるマクデイドは、シーランが「自分が置かれている状況にすごく感謝している」と話す。「彼ぐらいのレベルにいる人の大半はそうじゃない。一緒に曲を書くたびに、彼は自分がいかに感謝しているかってことを、ちゃんと言葉にするんだ」

彼は最近、もっと根本的なことに対して感謝の気持ちを抱くようになったという。今週の前半、彼とシーボーンは2時間かけて、ニュージーランドならではの美しく広大な草原の真っ只中に作られた、『ロード・オブ・ザ・リング』のホビット庄が今も残るワイカトーを訪れた。苦しみの連続だった日々から1年が過ぎた今、2人はベンチに座ってワインを飲み、沈みゆく夕陽を見ながら、子供たちのこと、そして自分たちが手にした幸運について語った。「今はただ感謝しているんだ」とシーランは話す。「生きているということにね」


PRODUCTION CREDITS
Produced by HEATHER ROBBINS and MARY GOUGHNOUR at clm. Photography direction by EMMA REEVES. Fashion direction by ALEX BADIA. Market editor: EMILY MERCER. Fashion market assistance by ARI STARK. Styling and grooming by LIBERTY SHAW and HILARY OWEN. Tailoring by ALBERTO RIVERA at LARS NORD STUDIO. Set design by BETTE ADAMS at MHS ARTISTS. Digital technician: CREIGH LYNDON. Photography assistance by KYRRE KRISTOFFERSEN and NICK GRENNON. Set design assistance by KAETEN BONLI and BELL FRANCIS-BELL. Photographed at PIER 59 STUDIOS.

From Rolling Stone US.

Translated by Masaaki Yoshida

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