ザ・ホワイト・ストライプス『Elephant』20周年 今こそ聴くべき4つの理由

ザ・ホワイト・ストライプス(Photo by Patrick Pantano)

 
ジャック・ホワイトがその名を知らしめた最初のバンドであり、2000年代を代表するロックバンドとしてすでに伝説的な評価を得ているザ・ホワイト・ストライプス(The White Stripes)。その代表作が2003年にリリースされたアルバム『Elephant』だ。

2004年の第41回グラミー賞で最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバムを受賞し、米ローリングストーン誌が「歴代最高のアルバム500選」のリストで449位に選出するなど、リリース当時から現在まで色褪せることのないクラシックである本作の20周年記念リリースを記念し、2023年の視点からこのクラシックの魅力を再発見したい。


【20周年記念リリース①】
『Elephant』20周年記念限定カラーヴァイナル
完全生産限定盤(1,100セット限定)
2枚組カラーヴァイナル(1枚目レッド・スモーク、2枚目クリア・ウィズ・レッド&ブラック・スモーク)
日本盤のみ帯、解説・歌詞・対訳付/2023年5月24日(水)発売


【20周年記念リリース②】
『Elephant (Deluxe)』(配信のみ)
オリジナルのスタジオ・アルバムのリマスターHDオーディオと、2003年7月2日に米シカゴのアラゴン・ボールルームで行われたエレファント・ツアーの27曲のライヴで構成された全41曲を収録
配信リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/HBTB 



1. 21世紀最大のアンセム「Seven Nation Army」収録作品である

何はともあれ、オープニングトラック「Seven Nation Army」への言及なしに『Elephant』を語ることはできないだろう。

エフェクターを使ってオクターブを落とした、まるでベースリフのようなギターリフに、「ドスッ! ドスッ!」とスタジオの空気を揺らす4つ打ちのキックが重なり、ジャック・ホワイトが「7か国連合軍にも俺を止めることはできない」と歌い始める。

そんな不穏かつ魅力的なイントロダクションを持つこの楽曲は、リリース当初からバンド史上最大級のヒットを記録し、アルバム『Elephant』と並んで第41回グラミー賞「最優秀ロック・ソング」を受賞した、名実ともにザ・ホワイト・ストライプスの代表曲だ。そして21世紀を代表するアンセムである。



しかし「バンド史上最大級のヒット」とはいえ、リアルタイム時はBillboardのオルタナチャートで1位を記録した程度。本楽曲が時代を代表するアンセムとなったのには、むしろ「ロック以外」の世界にその影響力が波及したところに端を発している。

「Seven Nation Army」が特別な楽曲である理由、その一つ目はクラブアンセムとしての側面にある。シンプルな単音の連なりながらも中毒性あるリフのメロディ、そしてBPM120程度の4つ打ちというフォーマットがクラブミュージックとの親和性が高かったこともあり、当時からハウスやエレクトロクラッシュ版のリミックスやマッシュアップがブートレグとしてリリースされていたのだ。2000年代はLCDサウンドシステムやザ・ラプチャーなどNY〈DFA〉周辺の影響に始まり、ヨーロッパのニューレイヴ・ムーブメントなどを通して、ロックソングのダンスリミックス文化は珍しくなかった。しかし、それでもクラブの現場で耳にするロック楽曲としては「Seven Nation Army」に比肩するものは、ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」くらいのものだった。さらに2010年代に入ってもその熱は収まるどころかさらに高まり、一時代を築いたEDMのブームにおいても「Seven Nation Army」は見事にアンセム化。デヴィッド・ゲッタなど大物DJもプレイする定番曲となり、2021年にはEDMアーティストであるザ・グリッチ・モブによるリミックスが、ジャック・ホワイトのレーベル〈Third Man Records〉からリリースされるまでに。今日もまたあのリフが、世界中のいくつものクラブでピークタイムを彩っていることだろう。



そして何よりも「Seven Nation Army」を特別なものとしているのが、スポーツアンセムとしての側面だ。「もしもあなたが『Seven Nation Army』を聴いたことがないと思っていたとしても、リフのメロディだけはどこかで耳にしている」と断言してしまえるほど、同曲はサッカーやバスケなど数々のスポーツの試合でチャント(合唱)される応援歌として定番化しているからだ(先日のWBCでも聞かれたほど)。2003年のリリース当時からすでに一部のサッカーファンが合唱していたとされているが、世界中のスポーツファンに「Seven Nation Army」のメロディが認知されたきっかけは、2006年のサッカーW杯ドイツ大会で間違いない。本楽曲は同大会でイタリア代表が優勝した際に激しくチャントされ、その様子が繰り返し世界中で報道されたのだった。



「Seven Nation Army」がスタジアム・アンセムになるまでの経過を解説した動画

一説によると、ベルギーのサッカーファンからイタリアのサポーターに伝播して自然発生的にイタリア代表の応援歌となったというが、おそらく初めは「7か国連合軍にも俺を止めることはできない」というリリックのメッセージ性も考慮して応援歌として歌われるようになったのではないかと思われる。しかし、今ではそんな歌詞からも、ザ・ホワイト・ストライプスという記名性からも切り離され、「Seven Nation Army」世界中のスポーツの現場やクラブでプレイされている。

このエピソードは、ブルーズやカントリーといったルーツ・ミュージックの影響を多分に受け、それらを現代にリファインさせてきたザ・ホワイト・ストライプスが、結果として「現代のフォークロア」を生み出したという点で、21世紀に起こった奇跡の一つと数えていいだろう。

 
 
 
 

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