エヴリシング・バット・ザ・ガールが語る再始動の経緯「インスピレーションは新しい音楽」

エヴリシング・バット・ザ・ガール(Photo by Edward Bishop)

 
もうこのふたりは一緒に音楽を作ることはないはずだった。ベン・ワットは2014年に31年ぶりとなったソロ第2作『Hendra』をリリースした際にその可能性はないと話してくれたし、Twitterでもういちど活動を再開しないのかというメンションに対してベンはキレた感じで返信していたりもした。

しかし、COVID-19がふたりを取り巻く環境だけでなく、音楽に対する思いも変える。再び互いを意識しながら音楽を作り始め、ラスト・アルバムと認識されていた1999年リリースの『Temperamental』の“次”があることを2022年11月に発表。24年ぶりに届けられた11作目『FUSE』で、ふたりは音楽シーンの最前線に帰ってきた。このアルバムに過去の自分たちの音楽に対するノスタルジーや、EBTGという名前にすがった振る舞いは一切ない。新作のリミックスにも参加しているフォー・テット、フレッド・アゲイン、インディア・ジョーダンたちの楽曲と並んでも違和感なくシームレスに流れていくような、紛う方なき2023年のアルバムである。ベンとトレイシー・ソーンに再始動に至った経緯、そして新作の制作について話を聞いた。



─まず、この再始動はどちらから、どんな思いで切り出したのでしょうか? ベンは復活についてずっと否定的な態度を取っていましたが、これはCOVID-19によるロックダウンがもたらした良い方の作用だったのでしょうか。

ベン:そうだね。パンデミックはとても重要だったと思う。僕は、自分のアルバム作りに取りかかろうとしていたんだけれど、すべてがストップしてしまったんだ。日本で計画していたショーも、パンデミックで中断しなければならなくなってしまった。それに、僕の体調もよくなかったしね。だから、家での生活も結構複雑だったんだ。そしてパンデミックが終わり、生活が正常に戻った時、僕たちは互いに顔を見合わせて考えたんだよ。「また以前のやり方に戻るのか、それとも何か違うことをする時が来たのかもしれないのか。ってね。そしたらトレイシーが、再び一緒に仕事をしてみてはどうかと言ったんだ。僕は、正直まだ確信が持てていなかった。でも、彼女がそれを持ちかけてきてから、今がその時なんだとだんだん思うようになって。僕たちはもう若くないんだし、今でなければいつなんだ? まさに今がその時なんだ、と思うようになったんだよ。このタイミングでやるのが自然なことなんじゃないかってね。

─なるほど。では、これまでじわじわと再開を考えていたのではなく、パンデミック後に初めて考えはじめたわけですね?

ベン:そう。つまり、ロックダウン中に曲を作ったわけではないんだ。すべて後から作ったんだよ。だから、出来たスピードは早かったんだ。曲作りをはじめたのは去年の3月。5月にはすでにボーカルをレコーディングしていたしね。そして、10月にはもうアルバムは完成していたんだ。

─トレイシーは2011年にThe xxの「Night Time」をカバーしていますね。この曲でベンはギターとコーラスで参加しています。この曲はEBTGからのThe xxへの返答とも言えるカバーであると同時に、EBTGの9年ぶりのシングルとも言えたのではないでしょうか。ベンは考えていなかったようにですが、トレイシーはこの時点でEBTGの再始動を試していたのではないかと勘ぐってしまったのですが。

トレイシー:いや、それはなかった。というのも、私たちはふたりともそれぞれのプロジェクトですごく忙しかったから。毎年本当に忙しくて、EBTGのことを考えてる時間はあまりなかったんです。いつもどちらかが他のプロジェクトに没頭していたから、そのことを話題にすることもなかったし。でもパンデミックがあって、立ち止まることを余儀なくされ、余裕ができたんです。

ベン:これまで僕たちが一緒にやったプロジェクトは、すべてトレイシーのプロジェクトだったし、僕はセッション・ミュージシャンとして参加しているだけだからね。そのたびにEBTGを意識していたり、再始動を試していたわけじゃないんだ。



─この再始動を全世界に告げるのは、まるで24年間別居していた夫婦がよりを戻したことを世間に公表するような照れくささや気まずさがあったんじゃないでしょうか?

トレイシー:これまで以上にプレッシャーがかかるんじゃないか、とベンは思っていたみたい。20数年ぶりともなるとね。前作と同じくらい良いものを作れるか、というのが不安の最大のポイントでした。あの頃は私たちのキャリアの最高潮だったし、音楽を再びふたりで世に送り出すなら、それなりのものを作りたいと強く思っていたから。だから、始めた当初は前回の次となる作品を作っていないふりをしたんです(笑)。ただ、「よし、音楽を作ろう」という気持ちだけで臨みました。その出来がもし良くなかったら、出さなければいいだけだよねって。クリエイティブでいることだけを意識して、曲作りを始めました。失敗したければ失敗できる。もしそうなら、それを誰も聴かなければいいだけだって。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE